PBLの置き場所
リーダーシップ開発の春夏クオータ(s)全16週終了. 実は昨年度秋冬と比べて大きな変更があった.その変更は,2006年度に立教大学でリーダーシップ教育を始めて以来のものとも言えるので,その意味では12ないし13年ぶりの転換でもある. すなわち,まずプロジェクト型学習(PBL)を行なう学期を経験してもらってから, 次の学期でスキル強化に集中するという方式をずっととってきたのを,逆転して,まずリーダーシップのスキルを少し学びリーダーシップについての知識も得たうえで, 次の学期にPBLを行なったのである. そのように転換したきっかけは, 昨年度秋冬に受講生の不満が非常に高まったことだった. 受講生に不満があっても結果として学びが大きいのであれば不満のたまる時期があっても目をつぶりたいところなのだが,教員よりも受講生に距離の近い立場にいるTAが受講生からの苦情・不満に対応する仕事があまりに大変になった. 受講生はリーダーシップ初心者なだけに「不満を提案に変える」ことはなく,「不満は苦情としてぶつける」になりがちなのでなおさらである.
もともと2006年頃にPBLから入ることに決めたのは, その授業枠が「基礎演習」と呼ばれるもので, 専門科目を受けるころに必要になりそうな知識やスキルを1年生の前半に予め教えるという一見もっともな科目設定だが,どの大学でも開講してみると学生ばかりか教員にも不人気な科目だったからである.新しい学部を作るというのに,他の大学で軒並み不人気なものをそもままの形で導入していいものか.学生側に不人気である原因の一つは,半年先か一年先かに使う(かもしれない)知識(Officeの使いかた,図書館の使い方,レポートの書き方等々)を今詰め込まれることに納得がいかないことと思われた.知識やスキルについても,在庫ゼロ,Just-in-timeの供給が理想なのである.
そこで,1年前期をまるまる使う企業連携プロジェクトを中心に据え,週ごとに必要になる知識やスキルをタイムリーにインプットするという方法をとったのである.しかし,PowerPointの使い方なら初めてのプレゼンテーションの2週間前に教えれば身が入るからちょうどいいのだが,リーダーシップとなると,基本の基本をまず講義で解説することはできたとしても,目標設定→経験→振り返り→一般化といったサイクルを何度も回すことはできないので,最初の学期については「経験」重視のフェーズにならざるをえない(と当時は考えた).そして「経験」重視の学期のあとにリーダーシップスキルを正面から開発する学期を置くほうがよい.そういうわけで,立教大学でも早稲田大学でも,12-3年ぐらいはこのパターンで行なってきた次第である.
この「経験」重視の学期では,リーダーシップそのものについての学びが初歩的段階なので,リーダーシップについての(あとから見れば)幼稚な失敗もしやすい.ところが自分がそういう失敗をする(させられる)を我慢できない学生が増えてきた印象がある.正解を教えてくれればいいのに教えずに失敗させるのはフェアでないという苦情すら来る.そういう不満は前からあったのが,表に出てこなかっただけなのかもしれない.ともあれ今年度はがっちり1学期(クオータ)分,プロジェクトに必要になる(と納得しやすいような)リーダーシップ・コーチング・論理思考のインプットを行なってから問題解決プロジェクトに入るように逆転させたのである.その結果の解析はこれからだが,学期終了直後の手応えは上々である.逆転したことのマイナスがあるのかもしれないが,そうだとしてもクオータ制はマイナスを相当に緩和しただろう.4-7月にインプットして,アウトプットするのが9月以降ではやはりjust-in-timeとはほど遠い.クオータ制であれば4-5月にインプットし(来月使うよ使うよと予告を続けながら)6-7月にアウトプットできるからである.
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