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2017年8月12日 (土曜日)

論破好きは支援要請下手?

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社会人対象の講演では「権限のない人でもとれる・とるべきリーダーシップ」という話は、最初からインパクトをもって受け取られることが多いです。それと対照的に、学生・生徒対象の授業の場合、彼らの間では「権限」がないフラットな関係はむしろ当たり前なので、そこからリーダーシップをとるにはどうしたらいいのかという話にすぐなります。そこで「リーダーシップ最小3行動」が通じやすいようです。ところが、最小3要素や、支援などという考え方を知らない学生・生徒は、リーダーシップ行動に相当する「影響力」を別の形でとろうとしがちです。それは、「リーダーシップをとるには何らかの優越性がなければならない」という思い込みから、自分の優越性を示そうという行動になって現れます。

この「リーダーシップ=優越性(dominanceあるいはsupremacy)」という固定観念があることには、うかつにも私は立教時代には気づきませんでした。気づいたのは、早稲田に来て、早大生の中に、かなりの頻度で、自分は優越性を示せると確信している(確信したい)学生が居たからです。その最も極端な現れは、グループワークで常にチームメートを「論破」しようと試みることです。例えばPBLの学期では企業への企画提案を作るグループプロジェクトで、6週間の持ち時間のうち5週間を、「何について提案するか」について、チームメートの持ってくる提案を片っ端から論破することにもっぱら費やしていて、授業中は提案作りの作業が全く進みません。その結果として、早めに提案の方向性を絞って提案を磨いてきた他のチームにコンペで惨敗したり、やむなく授業時間外で一部メンバーが自発的に練っていた提案を本番に提示して何とか間に合わせたりします。それでも「論破」に専念してきた当人は、自分の優越性が維持できてい(ると自分で思え)さえすれば涼しい顔で、ひどい場合は、コンペの本番に欠席することもあります(いま思うと立教にも時々そういう学生は居ましたが、どういうことなのかよく理解できずにいました)。この話を早稲田の学生にすると、議論することはだいじじゃないんですか?と質問があります。「チームの成果のために議論しているか?」「自分の優越性を示すことが目的になってないか?」というのが私の反問です。考えてみれば、権限や役職も優越性のバリエーションなので、こうした思い込みは、一部の人たちに特有の思考法なのではなくて、リーダーシップと言えば権限の発揮のしかただと思い込んでいる人たちと根っこは同じと言えるかもしれません。なお、念のために付言すると、早稲田にも「自分は他人を論破するなんてできない・やりたくない」と思っている学生が大勢居て、おそらくそれが多数派です。立教の場合は多数派というより圧倒的多数になるという程度の違いと思います。

さて、上記のような「論破好き」学生の非常に苦手なのが「周囲に支援を求めること」です。彼らには、リーダーシップ最小3要素の一つが「同僚支援」でありグループワークは相互支援そのものであることが理解できないのです。周囲に支援なんか求めたら、それは負けを認めることであると思い込んでいます。こうした「自分のための論破」や「支援要請下手」は、「質問会議」(再狭義のアクション・ラーニング)を繰り返すことでかなり治すことができます。早稲田の授業LD2で「質問会議」を8週間(1クォータ)集中的に取り入れたら、この点を自覚・矯正できて劇的に変化した学生がかなりの数現れ、クラスの雰囲気もすごく変わりました。いまその変化を数字でとらえるリサーチプロジェクトも進行中です。立教の高橋俊之さんは、一度授業を見ただけで「おそらく早稲田の学生には、支援を求めることが苦手な学生が立教生よりも多そう」と見抜いていて恐れいりました。支援を受けることが苦手な人は、建設的なフィードバックのやりとりも苦手です。質問会議はそのあたりをまとめて矯正するのに効果があり、ぜひとも学生のうちに経験してもらいたい会議手法です。

二つの大学の比較という形で書きましたが、卒業生やビジネスマンのかたがたからは、出身大学を自慢したい人・前に在籍した会社の威光にすがりたい人などに、似たような「論破・批判第一で、会議のアウトプットを低める一方の人」が多く、逆に例えば米国のスタートアップの優秀な人たちには論破するよりどうチームとして協力するかを重視する人が多いといった話を聞きました。


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