scalabilityとコースリーダー制度
ILAアトランタ大会でも話題になっていた"scalability"について。scalabilityとは、ここでは、大人数クラスでも同じ方法で大丈夫とか、同じ方法で少しの教員訓練で多数クラスで展開できるとか、のような拡張性のこと。
一人の教員個人の名人芸に依存している授業は「名講義」や「名物授業」ではあってもscalableでないわけで、その学校のそのクラスにとどまっていて構わないのならいいのですけど、「全国普及」のようなゴールを目指す場合には適さないわけです。今回のILAで言えばRonald Heifetz教授の授業、とくに質疑応答部分は全然scalableではありません。また、日本で「アクティブラーニングを全国に」と言って全国を飛び回っている先生が、各地で名人芸を披露しても、それはそのままではscalableではないわけで、そのかたがあちこちに呼ばれて模擬授業や講演をすることと、そういう授業が(他の人にもできるという意味で)普及することとは同じでないわけです。
立教BLP/GLPや早稲田LDPでは、プログラム全体で4-7科目があり、そのうちの2-3個のコア科目が複数クラス展開です。複数クラス展開される科目は、「コースリーダーのもとでの多数クラス同時並行開講」という方式をとっており、一人のコースリーダーが複数クラスの共通スライドを作り、各クラスSAと教員たちを統括し、教員SAミーティングをファシリテートします。この活動自体が内蔵されたFDになっていて、一人一人の教員たちは、いずれコースリーダーに昇格したり、別の大学に巣立ってコースリーダーなりプログラムリーダー(立教でいう「主査」)になっていくことを目指しています。
その意味で、「瞬時にscalable」ではないけれど、「1-2年の時間をかければscalable」になっています。かかるのは時間だけではなくて、コースリーダーには普通の教員の報酬と別にコースリーダー手当が必要です。ここを「大学の規定に無いから」といった理由で例えば非常勤講師に追加手当無しでやってもらおうとしたり、専任教員に2つ以上のコースリーダー兼務を頼むのには無理があります。コースリーダー制を始めるときにまっさきに確保すべき予算がこのコースリーダー手当と、複数クラスをコーディネートする事務方の人件費です。(このビデオはSA制度にフォーカスしていますが、コースリーダーの仕事も少しだけ紹介されています)
また、インタラクティブなクラス運営を手伝う(場面によっては主導する)SA/TAの養成も必要で、その養成講座が授業として(正規授業として)単位化されているのが(担当教員の負担からしても)理想的です。早稲田ではそれは既に実現しており、立教でも来年度から始まります。
さらに理想を言えば、上述のコースリーダーは実際にやってみながら学ぶ前に、あるいは並行して、大学院レベルで「リーダーシップ開発」授業があって受講できると良いですね。
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