« 2016年10月 | トップページ | 2016年12月 »

2016年11月の3件の記事

2016年11月 8日 (火曜日)

scalabilityとコースリーダー制度

ILAアトランタ大会でも話題になっていた"scalability"について。scalabilityとは、ここでは、大人数クラスでも同じ方法で大丈夫とか、同じ方法で少しの教員訓練で多数クラスで展開できるとか、のような拡張性のこと。

一人の教員個人の名人芸に依存している授業は「名講義」や「名物授業」ではあってもscalableでないわけで、その学校のそのクラスにとどまっていて構わないのならいいのですけど、「全国普及」のようなゴールを目指す場合には適さないわけです。今回のILAで言えばRonald Heifetz教授の授業、とくに質疑応答部分は全然scalableではありません。また、日本で「アクティブラーニングを全国に」と言って全国を飛び回っている先生が、各地で名人芸を披露しても、それはそのままではscalableではないわけで、そのかたがあちこちに呼ばれて模擬授業や講演をすることと、そういう授業が(他の人にもできるという意味で)普及することとは同じでないわけです。

立教BLP/GLPや早稲田LDPでは、プログラム全体で4-7科目があり、そのうちの2-3個のコア科目が複数クラス展開です。複数クラス展開される科目は、「コースリーダーのもとでの多数クラス同時並行開講」という方式をとっており、一人のコースリーダーが複数クラスの共通スライドを作り、各クラスSAと教員たちを統括し、教員SAミーティングをファシリテートします。この活動自体が内蔵されたFDになっていて、一人一人の教員たちは、いずれコースリーダーに昇格したり、別の大学に巣立ってコースリーダーなりプログラムリーダー(立教でいう「主査」)になっていくことを目指しています。

その意味で、「瞬時にscalable」ではないけれど、「1-2年の時間をかければscalable」になっています。かかるのは時間だけではなくて、コースリーダーには普通の教員の報酬と別にコースリーダー手当が必要です。ここを「大学の規定に無いから」といった理由で例えば非常勤講師に追加手当無しでやってもらおうとしたり、専任教員に2つ以上のコースリーダー兼務を頼むのには無理があります。コースリーダー制を始めるときにまっさきに確保すべき予算がこのコースリーダー手当と、複数クラスをコーディネートする事務方の人件費です。(このビデオはSA制度にフォーカスしていますが、コースリーダーの仕事も少しだけ紹介されています)

また、インタラクティブなクラス運営を手伝う(場面によっては主導する)SA/TAの養成も必要で、その養成講座が授業として(正規授業として)単位化されているのが(担当教員の負担からしても)理想的です。早稲田ではそれは既に実現しており、立教でも来年度から始まります。

さらに理想を言えば、上述のコースリーダーは実際にやってみながら学ぶ前に、あるいは並行して、大学院レベルで「リーダーシップ開発」授業があって受講できると良いですね。

|

2016年11月 7日 (月曜日)

ILA2016アトランタ大会参加記

初日

終日、リーダーシップ教育のデジタル化のワークショップに参加していました(立教リーダーシップカンファレンスにもお招きしたことのあるDan Jenkinsさんらのグループの主催です)。e-learningとかMOOC’sにリーダーシップ教育が向いていそうにないことから、リーダーシップ教育のデジタル化はなんとなく難しそうと思っていたのですが、きょうのワークショップに出て、少し考え方が変わったかもしれません。

いま立教BLPでも早稲田LDPでも、グループワークを熱心にやっているかどうかを見る指標として、リアルなミーティングをどのくらいやったかを参考にすることがあります。でも、これからますます社会のどの領域でもビデオ会議が盛んになる傾向は否定できないでしょうから、ビデオ会議・電話会議「だけ」でプロジェクトを進められる、ということもだいじなコンピテンシーなのではないかと思います。だとしたら大学からそれを経験してみるのもおおいに有益だし、学生たち自身、働き方としてはその方向を望んでいるんじゃないかとも思えます。

ただ、大学に入るまでマジなグループワークなんて全くやったことがない学生に、いきなりデジタルだけが難しいとしたら、BL0とかLD1とかではリアルなミーティングも重視し、その次のPBL科目では直接会わないことを容認するどころか推奨するような方法もいいのではないかと。さらに言えば、まったく会ったことのない遠くの大学(外国でもいい)の学生と継続的にグループワークをしてもらうようなセッティングも上級編として面白そうです。教員たちも、少人数の打ち合わせのために面談するようなことは極力やめて、模範を示したいところです。

この日、ワークショップの合間のランチで一緒になった人に、日本のリーダーシップ教育の現状を話した時に例の落下傘部隊(paratroopers)の比喩(そういえばちょうど3年前のILAモントリオール大会で苦し紛れに思いついた)を使ったら、なんとその人自身がparatrooper出身でした。有名な第82空挺師団の元レンジャー隊員で、その比喩は素晴らしい、と喜んでくれました。軍からロースクールに派遣されて法律関係の仕事に移り、いまは南カロライナ州の大学教員をしていると話していました。


二日目

午前は舘野さんと一緒にBLPの改善史の紹介プレゼンテーションでした。サンノゼのときは土曜だったので人が集まらないのはしかたなかったのですが、今回は悪くない時間帯をもらえたのにアフリカや太平洋の島の出身者を中心に十数人だけでした。やっぱりリーダーシップ教育後進国でこんなに苦労しているという話だけでは受けない(米国のリーダーシップ教育者から見て学ぶものが少ない)のでしょう。次回以降は、米国の聴衆にもインパクトand/or実用性があるものを目指したいです。

しかし幸運は続きます。バージニア工科大の知り合いと一緒にランチで同席した3人の女性に、夕方のRoundtableセッションで再会。でプレゼン資料をよく見ると、ワシントン大学(UW)の学生部の人たちで、リーダーシップ教育の担当者だった。UWは早稲田とFDプログラムで連携していて、私ももしかしたら今度の2-3月に行く可能性がある。「あ、Wasedaね、私たちの上司も去年Wasedaに行きましたよ」とも。
早速質問攻めにして、(1)学生部のリーダーシップ授業は単位付き。博士号を持った職員が担当している。学生は50人程度で選択科目。早稲田LDPと同じくクォータ制を採用している。(2)leadership minor(副専攻)に昇格することをめざしているが、学内に他に経営学部などにもリーダーシップ関係の科目があり、そちらとの連携はまだ途上・・などが分かった。2-3月なら学期中なので授業見学もできそうで、楽しみになってきました。最後に「その頃雨は多いですよね?」「Yes, still it's beautiful!」

三日目

きょうは午前中に日本でも有名な、Ronald Heifetz教授の講演を1つと少しインタラクティブな授業を1つ、聞きました。授業のほうは満席に近かったのですが、一昨日知り合ったばかりの、空挺部隊(paratroopers)出身のBenが、こっちこっちと手招きしてくれてゆったりとした席に座れました。
内容的には、本に書いてあったことが大半ですが、Adaptive vs. Technical problemsという分類法の力を改めて再認識できました。インタラクティブな部分は、Heifetz教授自身にしかできないような名人芸という面が強いという印象も受けました。

午後は、まずロンドン大会以来の知り合いのKerry Priestらがプレゼンするleadership minorの成果報告。メリーランド州立大とカンザス州立大の卒業5年めの学生をサンプルにして、質問票から、leadership minorの効果がどう自覚されているかを追跡したもの。調査手法としては予備的なものだが、面白かった。カナダから来た女性が、「こんなに肯定的な結果が出ているのは信じがたい。私のところでやったら出そうな結果を考えると心が沈む」と真顔で悲痛な声をあげていたので、周りが驚いてなだめていた。この追跡調査は是非立教COBですぐにでも(またGLPでも数年後に)やってみたいところです。

午後二番目は「映画を通じて学ぶリーダーシップ理論」。一昨年のサンディエゴ大会で知り合いになり、昨年訪問したサンディエゴ大学のグループのシンポジウム。大学院生向けにリーダーシップ授業のなかの一つに「過去のリーダーシップ理論の歴史を学ぶ」というのがあったのが、教える方も学ぶ方も無味乾燥なので、それぞれの理論にあてはまる映画の場面を教員が提供したり学生が持ち寄ったりして議論し、毎回の議論から発展させたヘビーなライティング課題もついているというものです。映画を授業で使うというと、映画マニアの教授が自分の趣味につきあわせる授業とか、教員が二日酔いのときに映画を流して時間をかせぐ(会場爆笑)といった授業があるが、これはそうではないし、ポップコーンを食べるような授業でもないこと、を早い段階で学生には周知する必要がある、と。映画の選択については学生は自分たちの興味のあるもの・自分たちに近い世界のものを求めて、遅かれ早かれ文句を言い始めるが、しっかりした方針を示してあまり文句に応じないこと。ただ、ずっと戦争映画を流すと文句を言われるのは必定なのでそれは気をつけなさい、とも(戦争映画や災害・事故・病院・訴訟・刑事もの等はリーダーシップ次第でえらく結果が左右されるのでつい使いがちですよね) セッションのなかでちょっと流されたのは、「プラダを来た悪魔」で車のなかの会話の直後に主人公が携帯を噴水に投げ込むシーンや、Dead Poets Societyでした。他にも、自分たちはこんな映画をこんな理論の説明のために使ったというリストももらいました。
リーダーシップの理論の簡単な歴史を教える必要性は立教でも早稲田でもあるので、早速自分でもやってみたくなってしまいましたが、学部学生だと「楽勝授業であると勘違いする」ことは早期に封じることが必須ですね。まずゼミで試してみましょうかね。

夕方は、これも知り合いのMat SowcikやTony Andernoの「リーダーシッププログラムを作るなら是非入れるべき5つのイノベーティブなコンポーネント」という題に惹かれたか、かなり大勢の人が集まったセッション。何か新奇なツールを期待してきた人たちの意表を突く形で、第一のコンポーネントは「謙虚さ(humility)」でした。米独中日の四カ国の成人・学生にアンケート調査すると(予想される結果だが)日本以外はみな各項目で「自分は周囲より優秀」という比率が大変高い。だから、コリンズの”Good to Great”でも謙虚さが重視されていることだし、リーダーシップ教育のなかで謙虚であることを教えるべきだというのです。フロアからは「humilityというよりvulnerabilityがいいのではないか」といった質問が出ていました。私は手を上げて、「数字を見ると日本人がずばぬけて謙虚なようだが、謙虚さについては日本人は他の3国よりも良いリーダーの資質があるということですか」と質問しました。プレゼンターは意表をつかれてモゴモゴ言っていましたが、「いまの質問の真意は、自己への過大評価も過小評価もいいことではないので、正確な自己評価を得ることを(謙虚さよりもむしろ)教えるべきだということだ」とコメントしました。

次回はベルギーのブラッセル、その次はフロリダのウェストパームビーチで開催予定です。
http://www.ila-net.org/Conferences/future.htm


|

Uber in Atlanta

半年ぶりに米国に来てUberに乗ろうとすると、アプリにいろいろ追加機能ができてました。その一つは「相乗り」という選択肢。急がないからとにかく安いほうがいいという人には良さそうで、三分の一くらいの料金です。それからUberEatsというのもあって、これもまだ使ってませんが、たぶんテイクアウトの食事を持ってきてくれるサービスのようです。初日に夕食を食べそこなってホテルに着き、もう遅いのでルームサービスでポークチョップを頼んだら、せっかくの骨付きリブが無残なパサパサ肉に成り果てていてガッカリでした。手早く全面に焼き目つけてあとは弱火でゆっくり、って、そんなに難しいかよ?って感じですが、UberEatsを使ったらよかったのかも。

別の日には、ウォール街(メリルリンチ)で働いていてコネティカットに住んでいた人が引退して、前から狙っていた割安のアトランタに移住し、兄弟と共同で良いヨットを買うお金を稼ぐためにUberを始めたというドライバーにも会いました。1日に20件くらい乗せるから悪くない稼ぎだ、世の中にUberがあって良かった!と言っていました。アトランタでは市役所・タクシー業界とUberは良好な関係のようで、空港には来年1月にはUber用の専用乗場までできるという話でした。この人は大学を出てすぐの仕事がオーケストラの事務方で、その後録音技師みたいなこともやっていたらしく、「アトランタ交響楽団は、全米ベスト5の次に来るSeven of Heavenと言われてるグループに属していて悪くないよ」と言っていました。残念ながらアトランタ交響楽団を聞く機会はありませんでしたが。

|

« 2016年10月 | トップページ | 2016年12月 »