初日
終日、リーダーシップ教育のデジタル化のワークショップに参加していました(立教リーダーシップカンファレンスにもお招きしたことのあるDan Jenkinsさんらのグループの主催です)。e-learningとかMOOC’sにリーダーシップ教育が向いていそうにないことから、リーダーシップ教育のデジタル化はなんとなく難しそうと思っていたのですが、きょうのワークショップに出て、少し考え方が変わったかもしれません。
いま立教BLPでも早稲田LDPでも、グループワークを熱心にやっているかどうかを見る指標として、リアルなミーティングをどのくらいやったかを参考にすることがあります。でも、これからますます社会のどの領域でもビデオ会議が盛んになる傾向は否定できないでしょうから、ビデオ会議・電話会議「だけ」でプロジェクトを進められる、ということもだいじなコンピテンシーなのではないかと思います。だとしたら大学からそれを経験してみるのもおおいに有益だし、学生たち自身、働き方としてはその方向を望んでいるんじゃないかとも思えます。
ただ、大学に入るまでマジなグループワークなんて全くやったことがない学生に、いきなりデジタルだけが難しいとしたら、BL0とかLD1とかではリアルなミーティングも重視し、その次のPBL科目では直接会わないことを容認するどころか推奨するような方法もいいのではないかと。さらに言えば、まったく会ったことのない遠くの大学(外国でもいい)の学生と継続的にグループワークをしてもらうようなセッティングも上級編として面白そうです。教員たちも、少人数の打ち合わせのために面談するようなことは極力やめて、模範を示したいところです。
この日、ワークショップの合間のランチで一緒になった人に、日本のリーダーシップ教育の現状を話した時に例の落下傘部隊(paratroopers)の比喩(そういえばちょうど3年前のILAモントリオール大会で苦し紛れに思いついた)を使ったら、なんとその人自身がparatrooper出身でした。有名な第82空挺師団の元レンジャー隊員で、その比喩は素晴らしい、と喜んでくれました。軍からロースクールに派遣されて法律関係の仕事に移り、いまは南カロライナ州の大学教員をしていると話していました。
二日目
午前は舘野さんと一緒にBLPの改善史の紹介プレゼンテーションでした。サンノゼのときは土曜だったので人が集まらないのはしかたなかったのですが、今回は悪くない時間帯をもらえたのにアフリカや太平洋の島の出身者を中心に十数人だけでした。やっぱりリーダーシップ教育後進国でこんなに苦労しているという話だけでは受けない(米国のリーダーシップ教育者から見て学ぶものが少ない)のでしょう。次回以降は、米国の聴衆にもインパクトand/or実用性があるものを目指したいです。
しかし幸運は続きます。バージニア工科大の知り合いと一緒にランチで同席した3人の女性に、夕方のRoundtableセッションで再会。でプレゼン資料をよく見ると、ワシントン大学(UW)の学生部の人たちで、リーダーシップ教育の担当者だった。UWは早稲田とFDプログラムで連携していて、私ももしかしたら今度の2-3月に行く可能性がある。「あ、Wasedaね、私たちの上司も去年Wasedaに行きましたよ」とも。
早速質問攻めにして、(1)学生部のリーダーシップ授業は単位付き。博士号を持った職員が担当している。学生は50人程度で選択科目。早稲田LDPと同じくクォータ制を採用している。(2)leadership minor(副専攻)に昇格することをめざしているが、学内に他に経営学部などにもリーダーシップ関係の科目があり、そちらとの連携はまだ途上・・などが分かった。2-3月なら学期中なので授業見学もできそうで、楽しみになってきました。最後に「その頃雨は多いですよね?」「Yes, still it's beautiful!」
三日目
きょうは午前中に日本でも有名な、Ronald Heifetz教授の講演を1つと少しインタラクティブな授業を1つ、聞きました。授業のほうは満席に近かったのですが、一昨日知り合ったばかりの、空挺部隊(paratroopers)出身のBenが、こっちこっちと手招きしてくれてゆったりとした席に座れました。
内容的には、本に書いてあったことが大半ですが、Adaptive vs. Technical problemsという分類法の力を改めて再認識できました。インタラクティブな部分は、Heifetz教授自身にしかできないような名人芸という面が強いという印象も受けました。
午後は、まずロンドン大会以来の知り合いのKerry Priestらがプレゼンするleadership minorの成果報告。メリーランド州立大とカンザス州立大の卒業5年めの学生をサンプルにして、質問票から、leadership minorの効果がどう自覚されているかを追跡したもの。調査手法としては予備的なものだが、面白かった。カナダから来た女性が、「こんなに肯定的な結果が出ているのは信じがたい。私のところでやったら出そうな結果を考えると心が沈む」と真顔で悲痛な声をあげていたので、周りが驚いてなだめていた。この追跡調査は是非立教COBですぐにでも(またGLPでも数年後に)やってみたいところです。
午後二番目は「映画を通じて学ぶリーダーシップ理論」。一昨年のサンディエゴ大会で知り合いになり、昨年訪問したサンディエゴ大学のグループのシンポジウム。大学院生向けにリーダーシップ授業のなかの一つに「過去のリーダーシップ理論の歴史を学ぶ」というのがあったのが、教える方も学ぶ方も無味乾燥なので、それぞれの理論にあてはまる映画の場面を教員が提供したり学生が持ち寄ったりして議論し、毎回の議論から発展させたヘビーなライティング課題もついているというものです。映画を授業で使うというと、映画マニアの教授が自分の趣味につきあわせる授業とか、教員が二日酔いのときに映画を流して時間をかせぐ(会場爆笑)といった授業があるが、これはそうではないし、ポップコーンを食べるような授業でもないこと、を早い段階で学生には周知する必要がある、と。映画の選択については学生は自分たちの興味のあるもの・自分たちに近い世界のものを求めて、遅かれ早かれ文句を言い始めるが、しっかりした方針を示してあまり文句に応じないこと。ただ、ずっと戦争映画を流すと文句を言われるのは必定なのでそれは気をつけなさい、とも(戦争映画や災害・事故・病院・訴訟・刑事もの等はリーダーシップ次第でえらく結果が左右されるのでつい使いがちですよね) セッションのなかでちょっと流されたのは、「プラダを来た悪魔」で車のなかの会話の直後に主人公が携帯を噴水に投げ込むシーンや、Dead Poets Societyでした。他にも、自分たちはこんな映画をこんな理論の説明のために使ったというリストももらいました。
リーダーシップの理論の簡単な歴史を教える必要性は立教でも早稲田でもあるので、早速自分でもやってみたくなってしまいましたが、学部学生だと「楽勝授業であると勘違いする」ことは早期に封じることが必須ですね。まずゼミで試してみましょうかね。
夕方は、これも知り合いのMat SowcikやTony Andernoの「リーダーシッププログラムを作るなら是非入れるべき5つのイノベーティブなコンポーネント」という題に惹かれたか、かなり大勢の人が集まったセッション。何か新奇なツールを期待してきた人たちの意表を突く形で、第一のコンポーネントは「謙虚さ(humility)」でした。米独中日の四カ国の成人・学生にアンケート調査すると(予想される結果だが)日本以外はみな各項目で「自分は周囲より優秀」という比率が大変高い。だから、コリンズの”Good to Great”でも謙虚さが重視されていることだし、リーダーシップ教育のなかで謙虚であることを教えるべきだというのです。フロアからは「humilityというよりvulnerabilityがいいのではないか」といった質問が出ていました。私は手を上げて、「数字を見ると日本人がずばぬけて謙虚なようだが、謙虚さについては日本人は他の3国よりも良いリーダーの資質があるということですか」と質問しました。プレゼンターは意表をつかれてモゴモゴ言っていましたが、「いまの質問の真意は、自己への過大評価も過小評価もいいことではないので、正確な自己評価を得ることを(謙虚さよりもむしろ)教えるべきだということだ」とコメントしました。
次回はベルギーのブラッセル、その次はフロリダのウェストパームビーチで開催予定です。
http://www.ila-net.org/Conferences/future.htm