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2013年3月15日 (金曜日)

ILA@Denver(2012年10月)の参加記録追加

 昨年10月にデンバーで開かれたInternational Leadership Association年次総会の参加記録でここに載せ忘れているものを発見したので採録しておきます。

 木曜朝のセッション。ノースウェスタン大学の学生部がやってるコーチングの話。学生部Student Affairsは、ノースウェスタンに限らず、学生部は、experiential learningとかservice learningとか、新しい教授法を学内で真っ先に試すところでもあるそうだ。そうすると、日本の大学に設置されているFDのための開発センターってアメリカだと学生部の中に置かれるものなんだろうか。
 それはともかく、このコーチングの話は面白かった。コーチ(博士課程やMBAの学生の中から選抜して訓練)1人に対して学部学生が3人ついて、10週間かけてコーチングをおこなって、self-awarenessの向上をめざす。1,2,4,6,8,10週にミーティング。最初の4週目までは学生は好きな問題を持ってくるが、6週目から持ってくる問題についてはコーチが、より高度のものを持って来なさいよ、というふうに少し注文をつける。この「問題」というのはアクション・ラーニングでいう問題と酷似している。実際、この1:3のグループ・コーチングの繰り返しでリーダーシップスキルの向上を目指すプロセスは、アクション・ラーニングでおこなっても全く同じようにできるし、コーチの養成・選別も並行してできる点はアクション・ラーニングのほうが優れているのではないかとも思う。ただ、2つの点でノースウェスタンの方法は興味深かった。第一に、リーダーシップスキル全部を涵養するのではなくself-awarenessの向上に絞っていること。これは学生には特にフィットするかもしれない。もうひとつはコーチになる人を選抜するだけじゃなくて、コーチングを受ける人を選別していたこと。これは、コーチングを受けたいという希望者が、コーチとして養成済みの人の数に比べて多いという現実的要請から来ているのかもしれないけど、しかしアクション・ラーニングでも、特にビギナー段階では、問題提示者は、真の問題が別のところにあったと気づいてくれる、素直で学習意欲が高い人がいい。これは問題解決がうまくいくということ以上に、メンバーの学習に与える影響も大きいから。おそらくグループ・コーチングでも同じでしょう。必修授業でアクション・ラーニングをとりいれる場合には特に初期には問題提示者を(というか、問題を)注意深く選ぶことで応対するということでしょうかね。
 金曜午後最初は、大学でリーダーシッププログラムを運営している教員たちが集まって、capstone courseに固有の問題を話し合いましょう、というセッション。capstone courseというのは、締めくくりの最上級科目の意味。BLPで言ったらBL4ですね。Peter Northhouseというリーダーシップ論の有名な教科書を書いている人が今日のセッションで最初に言っていましたが、capstone courseの設計で教員が悩むのは、「capstoneはそれまでの科目で得たスキルを全部発揮できるように作るべきなのか」「新しいスキル習得をどのくらい入れるか」「先行科目のコンテンツをどのくらい前提するか」等々。今年は学部学生用のリーダーシップ教育のまとまったセッションがなかったため、質疑応答の時間を長くとっていたのにcapstone科目固有の問題でない質問やコメントが続発して、ある意味で混乱したのだけど、メリーランド大学でも会ったCraig Slackさんがしていたコメントで触発されて考えたのは、capstoneという言葉(墓にかぶせる蓋)は「これでお終い、仕上げ」というニュアンスであり、そのニュアンスに皆さん縛られているんじゃないかということ。つまり、そこまでで完結しなくちゃいけないという思い込み。しかし本来は、大学の時代のリーダーシップ科目で最後の一つであるということは、社会に出てからの時期と大学時代の結節点なのだから、社会に出たら引き続きこうしよう、という直前準備体制の整備に主な力点をおくという考え方があってもいいのじゃないか。具体的には、リーダーシップ開発に関しては、社会に出て働き始めてからずっと一生、リーダーシップの持論を自分で改定し続けていく作業が大切なので、先輩が教室に来て(あるいはウェブ上で)持論を改訂していく過程を共有して議論したり、面談したりというセッションを何回か設けると卒業生と在校生のつながりも強化され、卒業生の継続的なリーダーシップ教育にもなるのじゃないか(それだけで一学期は埋まらないけど)。ポートフォリオ(デジタル・トランスクリプト)もその目的に使えるのじゃないか。セッションが終わってから、Craigに、墓を塞ぐcapstoneという名称はもうやめにしたらいいよねと言ったら、彼は学生時代と社会人時代を繋ぐbridgeだろうという。橋の向こう側の橋頭堡bridgehead(軍事用語だけど)かも? でも向こう岸は敵軍が居るわけじゃないからあかんか。
 午後の二番目は、ニューロサイエンスの最近数年の発展をリーダーシップ開発に応用するというもの。中国のニューロサイエンティスト一人とニュージーランド人二人(確かマクドナルドという名前の男女で、夫婦かも)の三人組。半信半疑で行ってみたら、これも非常に面白かった。よく分からないところも多かったのだけど、自分が今何を考えているかについて考える、というメタ認識(自分が何を考えているかについて考える)という能力は人間にしかない特殊な能力で、これをフルに利用しないともったいないと。例えば、「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせるのは、自分が慌てていろいろ考えている、という状態を認識し、落ち着いたほうがいいと結論しているので、メタ思考の典型。実は振り返りはそういうメタ認識の一種なので、大いに使ったほうがいいらしい。他に、メタ思考ができることを活かすなら、講義型よりワークショップ型の授業のほうがいろいろな気付きが産まれやすいとも言えるらしい。私は別段メタ思考が人間の特権であっても動物にもあっても構わない。ライオンが草原で「余はあのとき何を考えてシカの群れの右側に出たのだろうか?」と振り返っていたり、ローチ君が「自分はゴキブリホイホイを恐れすぎて獲物をのがしているのじゃないか」と反省していても結構なんだが、人間も負けずに振り返りをしようってこと。そうして、メタ思考を担当する脳の部位があるので、そこを刺激する体操をすればリーダーシップに必要なメタ思考ができるよ、とも言っていた。会場から「どういう体操なんだ、教えてくれ」という声が相次いだけど、「それについては本を書いている」ってことでした(笑)

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