反転授業・ピアラーニング・アクションラーニング
オーランドのHETL(ヒートルと発音)大会でのEric Mazurさん(ハーバード大教授)の講演は、結局他のスピーカーの一人が辞退して当初予定の30分で行われました。時間が短いにもかかわらず、京大で聞いたときと同じ部分と、そうでない部分があり、さすがいくつもバリエーションをお持ちのようです。その中で特に興味深かったのが、最近話題のflipping classroom(逆転ないし反転授業)にちらっと言及した部分でした。flipping classroomについては私も以前にも書きました。それも踏まえて今回のMazurさんの一言を私なりに膨らませて言うと、flipping classroomは、授業で学生たちが集まって行うまでもないような、自習可能な部分についての、いわば予習なのである。集合して行う授業には自習ではできないことがある。その典型がピア・ラーニングなのだ、級友たちから学ぶ、というその部分こそが学校の存在意義なのだ、flipping classroomの議論は、知識や情報を伝達する、という古い講義形式の授業の目的は、いまやわざわざ教室に集まらなくてもできる、と言っているだけで、じゃあ教室に集まることにはどういう意味があるかには回答を与えてない、その回答の1つがピア・ラーニングだ、ということです。そこに回答を与えないままにしておくと「学校不要論」になってしまいます。
京都の講演で聞いたことですが、Mazurさんのよく行うピア・ラーニングでは、教員は予め学習内容に沿って学生に問いかける質問を組織的に用意しておきます。それは考え方によって回答に多様性が生まれるような(しかし実は正解が1つあってもよい)択一式の質問で、教室ではまずクリッカーや挙手でその回答を一度集計します。その集計結果を見ながら、学生同士ペアを組ませて、隣の人に対して、互いに自分の選択した回答が正しいことを説得する時間を与えます。そのあと再度アンケートをとって、もし正解があるような質問であるならば回答分布が正解のほうに近づいたかどうかを確認します。そこで教員が正解を解説してもいいし、ヒントを出すにとどめて再度相互説得の時間を作ってもいい。一段落したら次の質問に移る、というふうに授業が進んでいきます。口がうまくて、正解でない回答も正解であるかのように隣人を言いくるめてしまう学生も時々いますが、繰り返していくうちに隣人のほうも「こいつの言うことはもっともらしいが、間違いがある」と学習していくから大丈夫だ、というのがMazurさんの所見です。
この方式の授業での教師の腕の見せ所は、いかに学生の学習を促すような質問を正しいステップと順番で構成するか、それから正解解説をいかに種明かしに終わらせず学習につなげるかなのでしょう。他にすぐ気づくこととしては、どの部分を授業時間外に行うのがよいかは、技術革新や経済の状態にかなり依存すること。Khan Academyのビデオを見て予習しておく、といったことは、高速のインターネットが普及していて、誰でも(いろいろなディバイスで)動画を試聴できることが前提です。また、集合して行う時間帯に何を行うかも同様に技術革新によって左右されます。例えば、少人数なら挙手でもMazur式ピア・ラーニングは実行できますが、大人数は辛い。しかしクリッカーがあればわずかな意見分布の変化も検知できますから、大教室でもMazur式のピア・ラーニングがやりやすくなります。
また、同僚から学ぶという意味もピア・ラーニングをMazur式より広く解釈するならば、例えばアクション・ラーニングも同僚から学ぶことを非常に重視しますから、ピア・ラーニングの面を含んでいるとも言えるかもしれません。そもそも、Mazur式は物理学から始まっているし、アクション・ラーニングはリーダーシップですから、考えかたや知識(物理学)を学ぶ授業と態度やスキル(リーダーシップ)を学ぶ授業とで、同僚からの学習(ピア・ラーニング)を最大にするセッティングが異なって不思議はないでしょう。今回Mazurさんの本を詳しく調べずに書いたので思い違いなどもあるかもしれませんが、取り敢えずのメモでした。
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