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2012年12月の8件の記事

2012年12月16日 (日曜日)

強力なグループ面接方法としての質問会議

最近、新年度のゼミ生選考やSA選考でアクション・ラーニングをやってもらって、そこでの発言ぶり(質問ぶり)を重視している。特に重視するのは、問題解決の時間帯では「効果的な質問ができているか(問題解決)」「関連した質問ができているか(チームワーク)」、振り返りの時間帯では「印象に残る良い質問はありましたか」や「次にセッションを行う時にはどういうことに気をつけようと思いますか」に対する答(学習意欲)。この四点に気をつけるとかなりのことが分かるのではないか。個人面談を10分間するよりも、5人のメンバーと50分のフルセッションを1回するほうがむしろ色々分かるのではないかとすら思う。うちのゼミはアクション・ラーニングの比重が高いし、SAもアクション・ラーニングは必須なので、なおさらなのだけど、それを差し引いても、なかなか効果的な面接方法なのではないか。

ただし、学生とアクション・ラーニング・セッションをおこなうときの盲点は、適切な問題の少なさ。特に、緊急性と、ステークホルダーの多さ(問題の適度な複雑さ)が足りないことが多くて、適切とは言えない問題が実は多い。典型的なのが、1) 留学するかどうか迷っている(ほとんど自分の決心だけの問題で、決心の締切が数ヶ月か一年先だったりする)、2) 嫌なアルバイトを辞めたいが、なかなか言い出せない(言い出せば済む話)、3) 勉強と部活の両立が難しい(両立させるか、片方にするかの二択だよね)など。事前に「あなたが持ってくる問題がクリアすべき諸条件」というのを配って説明してあるはずなのに、「朝おきられなくて困っている」というのを平気で持ってくる学生も居て、困惑したこともありました。こういうときに、学校時代が終わって、ある職業にコミットすることで人はいろんな問題をかかえるのだな、そしてそうなればこそますます学生時代とは違う高次の学習が必要なのだなと改めて思わされます。だから学生のときアクション・ラーニングをやっても無駄かというと、むしろ逆で、問題は牧歌的であっても質問力や学習力はつくので、そこを鍛えておいてから社会人になると、より高次な問題にも立ち向かえるようになって、イイネ!ってことだと思います。

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アジア・アクション・ラーニング・フォーラム@立教大学

グローバルAL講座の翌日には、11月7日(木)、立教大学太刀川記念館で「第七回アジア・アクション・ラーニング・フォーラム」が開催されました。この日は全てのコンテンツが英語で、日本にいる外国人の方々の姿もかなり見受けられました。午前中に1時間いただいて、「立教大学経営学部におけるアクション・ラーニング導入」をプレゼンテーションしました。こういうときには学生諸君に活躍してもらうのが良いにきまっていること、それに、ホノルルで鍛えてきた若手教員)の英語力を披露する機会でもあるので、教員3人のイントロに続いて学部学生一人(Kosuke Tada)、MIB院生一人(Yusuke Ikeda)、卒業生一人(Yosuke Matsuoka)に順に話してもらいました。英語を話し慣れている学生も含まれていましたが、ふだん英語を話しているのを私が目撃したことのない(というか、話せないで難渋しているところを目撃したことすらある)人が見事に話しているのを見て改めて皆さんの努力に感銘を受けました。出席者たちからは昼休みや夕方の懇親会で、「立教の学生さんは頼もしいですね」との感想をたくさんいただいて嬉しい限りでした。

最終日9日(金)は同じ会場(太刀川記念館)で、アクション・ラーニング協会の年次カンファレンスを兼ねていました。午前中はMarquardt教授の、質問の効能についての講義。大半は既に読んだり聞いたりしたことでしたが、教授に7人孫がいる話は初めて。7人のお孫さんたちは、両親が「質問ばかりするのはいい加減にしなさい」と叱る親たちと違って、グランパが質問(を受けるのもするのも)大好きなのを知っているため、大人気。かのアルバート・アインシュタインも、近所の子供にバイオリンを教えていて、知人に「物理の研究をしたり同僚とディスカッションをするのに時間を使えばいいのに」と言われると「子供の自由な質問のしかたを習っているのだ。私は研究時間1時間のうち59分間は質問のたて方に使っているのだから」と答えていたらしい。教授は物理の話が大好きでしばしば比喩にでてくる(アクション・ラーニングは量子力学なのだ、とか)ので、それが理数嫌いの多いHRの人々(の特に女性たち?)の耳には素通り扱いらしいなのけれど、このバイオリンの話は面白いですね。あんまり誇張されていないといいのですがが(笑)。
 なお、あとからお聞きしたところではこの講演と午後の小林昭文さんの高校の物理学のワークショップに、立教の理学部からも教員が参加なさっていたそうで、とてもうれしく思いました。
 午後は企業での新しい導入事例の紹介二件のあと、再び今度は日本語での立教でのALの紹介に15分もらえました(キリンビールとパナソニックでの導入事例と並んで)。前日の学生たちのプレゼンの評判があまりに良かったので、ちょっと無理言ってゼミ生の難波尚也君に頼んで急遽5分ほどでAL体験談をしてもらいました。AL体験前の一年生の頃と、二年になって(ゼミで)ALを経験してからとではリーダーシップ持論が大きく変わったことや、つい先日、日本ヒューレットパッカードの社員さんたちのグループの中でALコーチ役をやってみて、大変苦労したこと等。これも評判上々だったようです。
 このセクションで私が強調したのは二点で、(1)最初はSAと教員の研修用にアクション・ラーニングを導入した。問題解決型授業(BL0,2,4)の中で学生がSAや教員に「どうしたらいいですか?」と質問してきたとき、つい教えてたくなる誘惑をどうかわすか、という、テクニックとして質問し返す方法として導入したのが最初。しかし、質問力やALコーチの経験は、リーダーシップそのものなので、次の春には学生全員に経験させてみようという計画であること。(2)英語での質問力・ALコーチ力は、国内でリーダーシップを発揮していた人が急遽海外に赴任することになったときのサバイバルキットとして役立つのではないか。英語で短い質問をすることは語学的には難しくなく、それが新しい支援型のリーダーシップにも適している。従来、英語力を基準に海外赴任者を人選するとリーダーシップが足りない人が選ばれてしまったり、逆に国内でのリーダーシップ実績を基準にすると英語教育に時間がかかり過ぎたり(あるいは英語に自信がないまま赴任)というディレンマがあると聞いていますが、英語アクション・ラーニングはこのディレンマを緩和できるのではないか、ということ。(2)については、Marquardtさんを含め、会場でかなり多くの人に興味をもっていただけたように思えました。夕方の懇親会では英語アクション・ラーニングの自主研究会を立ち上げよう、というような話も出ていました。

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緊急性が大切

11月6日(水)アクション・ラーニング協会のグローバルAL講座最終回で、Marquardt博士による講義とセッション指導。どんな問題がアクション・ラーニングに適するのかという基準として、ロナルド・ハイフェッツのadaptive vs. technical problemという区別が役に立つのではないかとMarquard教授に質問したところ、「悪くないが、adaptiveかurgentかどちらかという二者択一になった場合は私ならurgentなほうを採る。というのは、urgentな問題の場合、urgencyはsymptomにすぎず、実は根っこに別の問題が潜んでいることが多いので、それに迫れる可能性があるからだ」という答えでした。確かに、adaptiveであっても緊急でない問題は多いですし、緊急な問題については、それが緊急になってしまったのは何か情報や意志の伝達やコミュニケーションに問題があったために問題の発見が遅れて緊急になってしまった、といういわば人災の面が往々にして強いので「真の問題は別なところにあった」というオチになることが多そうではありますね。
 最近WIAL(世界アクション・ラーニング機構)のスクリプトで標準になっている、セッション前に各メンバーが心がけたい(広義の)リーダーシップスキル発揮を宣言し、あとで相互フィードバックする、という方式を今回もしっかり実施しました。この方法はALコーチがますますマルチタスクになるのでALコーチ初心者には難しいかもしれません。また、現場で、ある期間をおいてまたセッションを行うことが分かっている場合は、「今回宣言したリーダーシップスキルの上達について、次回までに何を努力したかを尋ねますよ」と予告しておく等の宿題が効果的であるというtipsもいただきました。
 さらに細かい介入テクとして、問題提示者の最初の問題再定義が冴えない場合、"Thank you for the description of the situation (symptom). So, what is the REAL problem?"という強烈なものがあることも学びました(Marquardt教授は、「問題提示者の最初の問題定義はだいたいメモに値しないことが多いね」とすら言っていました)。ALコーチの介入も、このあたりまで来ると、コンテンツに触れんばかりになっているので、あと一歩でファシリテータになるとも言えるかもしれません。

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ILA@Denver(2012年10月)

International Leadership Associationの年次総会@デンバー。写真がないんだけど、感心したのが、学会の主催地ってことで冒頭に登場したデンバー市長のスピーチ。「リーダーシップ学会ですか・・会員じゃないんですよね、私」でまず軽く笑いを取る。「いま事務局の方から連絡事項があった『携帯電話の電源を切ろう』って話なんですがね、私も携帯には困ってるんですよ。母親がオバマ大統領のファンで(たぶんこの市長、民主党か)、もう引退して自宅に居るんですが、CNN, FOXなんかのテレビを常時見ていて、オバマ大統領の悪口を言う人が出てくるたびに私にMMSしてくるんですよ。『この人たちを何とか始末しなさい』ってことらしいんですけどね。ってわけで携帯は切っておくのに私も一票です」このへんで会場は爆笑の渦。ここまではおそらく完全にアドリブだったんでしょう。
 で、ここからが本題で、これも見事。「デンバーはシャイアン族の土地で、開拓民は十人くらいしか居なくて、いずれ滅びる町だと思われていました。ところが、鉄道が敷かれて町は延命しました。このときの市長は◯◯氏です。He saw the reality and asked why. He imagined what is not and asked why not.
 次に飛行機が飛ぶ時代になって、巨費を投じて空港を建設した△△市長がいました。He saw the reality and asked why. He imagined what is not and asked why not.それで人口が増えてきました。デンバー空港は今では世界で11番目に発着の多い空港ですし、コンベンション開催数では全米第一位です。」会場からは拍手が起きちゃう。
 He saw the reality and asked why. He imagined what is not and asked why not.現実を直視してなぜ現実はこうなのかと問う。それで終わらずに、現実ではないことを想像し(鉄道で全米から人が来るデンバー、飛行機で全世界から人が来るデンバー)、いまどうしてそうなってないのかを問う。この言葉は誰かの引用ですが、それをデンバーの歴史に適用して、リーダーのビジョンという話になっていますよね。
 この後に順番のきた学会会長挨拶では、「市長さん、学会会費、一年目は無料にしてあげます。」で会場(笑) 「二年目から有料ですけど」(爆笑) そのあとは用意した原稿の朗読だったけれども、会長は会長なりに、市長のスピーチを聞いているうちにどう繋げようか考えたんでしょうね。

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APLPで本格アクション・ラーニング(2012年9月)

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ホノルルのAPLPでアクション・ラーニング講座をしてみました。平均30歳代で出身地はアジア、北米、オセアニア、ポリネシア、中東などさまざまです。
(日本語版は後半にあります) photo by Yuta Morinaga.

I had Asking Questions (Action Learning) workshop with G12, APLP last week. The structure of the workshop is basically the same as the last year (G11). On Day 1 facilitators (action learning coaches) were trained. I called for 12 volunteers to attend this training session and fortunately all positions were filled within just two hours since the application started!

Day one. Three official coaches, Tomono Miki, Yuta Morinaga and me, certified by Japan Institute for Action Learning (JIAL) (who are COB Rikkyo professors as well) and Andrew Soh from G11 served as coaches on Day one. In the second session two people from G12 (non-native speakers!) volunteered to sit as coaches and they went on to serve as coach’s coach on Day two.

On Day two ten people from Day one sat as coaches in turn for two sessions. They seemed to enjoy the workshop very much and did the grouping and logistics for Day two as well. 29 people of G12, including the 12 volunteers were divided into 5 groups and had two sessions within 3 hours.

Clearly 6 hours is not enough for training of action learning coaches. Coaches made some deviations (excessive improvisations) from the template. Some of them could not resist stepping into the contents of the discussion and dared to summarize the discussion in their own words. Another coach liked the development of the discussion too much to move on to next steps like action plan and reflections. Still they did a great job having the members experience how one small question can change the entire course of discussion, how asking question can be leadership, or how coaching is effective for learning and teamwork.

Thanks to the eagerness to learn of G12, the workshop was a great success. I owe a lot to Andrew Soh of G11 and those who volunteered for coaches, entire G12, and APLP faculty (Nick and Scott) who thoughtfully placed this workshop close to the module of “adaptive leadership”.

Asia Pacific Leadership Programの第12期生(G12)を対象にアクション・ラーニング(質問会議)を行いました. ワークショップの構成は基本的に昨年度と同じで, 第一日目は少数の志願者にALコーチ速成講座を行います. 本年度は12名の枠で志願者を募ったところ募集開始から2時間で定員が埋まりました.

初日, 日本から合流した三木・森永助教と日向野(三人は日本アクション・ラーニング協会の認定コーチで,森永さんと私はアメリカの協会でもコーチ講座を受けました)と,昨年度のG11出身者Andrew Soh君がコーチになりました(班は2つだったので実際は三木・Sohの二人). 第二セッションでは二人が立候補してコーチ役をつとめました(立候補したのは非英語圏の人たちでした!) 

二日目は, この12人を含むG12全員つまり29人を5つの班に分け(班分けや名札の用意なども初日の志願者たちがやってくれました), 2つのセッションに初日組の残り10人が入り, 初日の二人や教員たちはコーチの後ろで助言する役に回りました.両日併せても6時間にしかならないワークショップは,コーチ養成としては明らかに時間不足で,速成コーチたちはいろいろ逸脱(行き過ぎた即興)をやってくれていました. あるコーチは,じれて議論の内容を手際よく自分の言葉で要約していましたし, 別のコーチは議論の進展に感動したため次のステップに進もうとしませんでした. それでも, コーチたちは, 一つの短い質問が議論全体の方向を決定的に変えてしまうことがあることや, 質問することがリーダーシップになりうることや, コーチがいるおかげで学習やチームワークがうまくいくことなどを,メンバーに経験させるという重要な役目を果たしてくれました.

第12期の皆さんの熱心さのおかげでワークショップは成功したと思います. Andrew Soh君や初日に志願してくれた皆さん,それに12期全体,さらにはこのワークショップを賢明にもadaptive leadershipの翌週に配置してくれたAPLPコア教員諸氏にも感謝したいと思います.

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不満を提案に変えよう--消費者行動からリーダーシップへ

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立教大学の学生団体が発行しているフリーペーパー「Whim」に載った写真です。スタッフが研究室まで撮影に来てくれました。

 

The board I'm holding says that you are just another consumer if you only express your dissatisfaction as a complaint, but you would be a leader if you transform your dissatisfaction into a proposal to remove it.

 

 

 

 

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GLP発足(2012年7月22日)

立教に勤めて7年目、BLPが一応の軌道に乗ったところでサバティカルをいただいて、主にアメリカのあちこち(ホノルル、デンバー、サンノゼ、リッチモンド、ワシントンDC、ボルティモアなど)の大学や学会を訪問しては日本に戻り、常時時差ボケのような生活をさせてもらっている。9月下旬にホノルルから戻りそのサバティカルも終わる。サバティカルから復帰するのが嬉しいという大学人はあまり居ないと思うが、私は幸運にも復帰が少々楽しみにも思える仕事をいただいた。立教大学にグローバル人材育成センターCenter for Global HRDが設立され、私はその中のグローバル・リーダーシップ開発部門を任されて、何人かの教員と一緒に、2013年4月から授業をいくつか開講するのである(GLP)。昨日は太刀川記念館でそのセンターの第一回準備会合があった。
 GLPの対象は全学部(一部の科目はBLPとほぼ同内容なので、その部分は経営学部生は履修できないかも)。GLPは2つの性格を持っていて、初級篇では、経営学部BLPの授業をカスタマイズしたものを全学部の学生向けに展開していくこと。もうひとつは、上級篇では、英語で開講し、「多国籍チームでのリーダーシップ」を発揮できる人材を育成すること。第一のほうは、3-5月にメリーランド大、ジョージ・メーソン大、ジョンズポプキンズ大、サンノゼ州立大などを訪問して帰ってきてから"経営学と関係ないLeadership Minor"が面白いんじゃない?とブログにも書き、学内でもやりましょうよやりましょうよとお願いして回っていたものなので、願ったりかなったりである。第二のものは、経営学部内でも行おうと考えていたものが一足先に実現する形だが、GLPでも、この部分の実際の開講は2014年度かそれ以降になるから案外経営学部内と同時期になるかもしれない。
 6年前にBLPをスタートしたときと同様に、このGLPも他大学にはない特色を持たせるつもりだ。まず「リーダーシップスキル」にフォーカスするので、東大や早稲田のような、「最初から将来のリーダー候補と思われる人を集めて授業して、それをリーダーシッププログラムと称する」ような多くの例とは内容がまったく違う。第二に、学生の出身学部や学年の多様性をフルに活用するためにクラス分けやグループ分けを工夫する。将来は他大学からも学生を呼ぶかもしれない。第三にアクション・ラーニングを多用する。何度も書いてきたようにアクション・ラーニングは質問によるリーダーシップ養成であるから、質問力さえあれば英語が発展途上の人でも多国籍チームでそこそこのリーダーシップを発揮できるのではないかと思われるからである。
 BLP立ちあげと同様、予想しない困難が待ち構えているだろうことはほぼ間違いなくて、そのたびに臨機応変に対処するしかない。特に関係各部局の職員のかたがたにはくれぐれもご協力をお願いしたい。
 三年後の夢は、GLPの最終科目(仮称GL302)を、海外の提携大学のリーダーシッププログラムとのjoint capstone courseとして、ホノルルのEast-West Centerで開催することである。アメリカ本土の大学とジョイントするならホノルルは地理的にちょうどいいし、まさにEast meets Westだからである。実はEast-West Centerにはもう非公式にだが「こうなったらいいね」と話して快諾をもらってあったりする。

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2012年12月12日 (水曜日)

伊賀泰代著『採用基準』(ダイヤモンド社)を読んで

 伊賀泰代『採用基準』(ダイヤモンド社)を読みました。読みながらこれほどマーカーで思わずたくさんの箇所にマークした本も久しぶりで、会う人ごとに薦めています。題名の「採用基準」は、著者がマッキンゼーで採用担当だった12年間にはどういう基準で人材を採用していたか、という意味と、そうした人材はこれからの日本に必要な人材と同じである、という意味と両方が込められています。で、その基準なのですが、これが実に、「リーダーシップ」なのですね。「実に」というのは、権限に関係なく「全員で発揮する」タイプのリーダーシップなので、まさに立教大学経営学部で涵養せんとしてきたリーダーシップそのものです。そして、そうしたリーダーシップが、日本で普通に意味される「権限やポジションにもとづくリーダーシップ」といかに異なるかを、極めて説得的で明快な形で説明しています。私も、これまで米国のリーダーシップ文献で「権限のないリーダーシップ」のことはよく知っていたつもりでしたが、それが日本の組織で言われるリーダーシップとどう違うかについては、当然ながら米国の文献にはあまり載っておらず、また日本の文献にもほとんど見当たらず、私自身も書くに至っていないので、本当に面白く読みました。
 いくつか印象的な箇所を紹介しておきましょう。「船頭多くして船、山に登る」(この格言は三十代以下では知らない人も少なくないらしいのですが)で船を山に向けてしまう船頭たちは、実はリーダーシップのない人達なのだ、という洞察(p.69-70)。「このことわざの船頭は、リーダーでも何でもなく、単に頑固でわがままな人です。このことわざは、『自分の意見を通すことだけにこだわる人が多ければ、組織としての成果は出せない』という当たり前のことを示しているに過ぎません。(中略)『そんな若造の意見を採用するなんて!』と不満をもつメンバーを納得させ、チームをまとめていくのがリーダーシップです。」 日本人の標準的なリーダーシップ観の反映されたことわざを使っていて、なおかつ明快。素晴らしい。
 「実はリーダーシップを考える時、常にセットで考える必要があるのが『成果主義』なのです。成果主義とは『努力でもプロセスでもなく、結果を問う』という考え方であり、成果主義を原則とする環境でなければ、リーダーシップは必要とされません。(中略)『楽しければよい』状況で求められるのが、せいぜいのところまとめ役や調整役にすぎないのに対し、成果を達成するためには必ずリーダーシップが必要となります。」(p.86-89) ここで言う成果主義は、個人の報酬算定の根拠としての成果主義のことではないので、「成果指向」とでも呼んだほうがいいのかもしれませんが、そんな細かいことはさておき、リーダーシップと成果指向の不可分の関係は意外に盲点です。大学生に身近なところで言えば、就活の面接でよく聞かれるという、大学時代の同好会やサークルの運営で苦労しましたという話は、事実であっても、全然リーダーシップを表しているわけではないことになりますね。体育会のように明快な成果が求められる環境ではリーダーシップが必要になり、しかもそのリーダーシップは(部長や主将だけが発揮するものではなく)全員が発揮すべきものであるのも筆者の言う通りと思います。
 「なぜ日本では、リーダーが雑用係になってしまうのでしょう? その理由は、日本人が『リーダーは組織に一人いればよい』と考えているから、リーダーは、本来求められる責務に加え、雑用まですべてを担当させられるのです。(中略) 日本人にとっては、全員がリーダーシップを発揮するということ自体が『不思議な概念』なのです。そして、『リーダーが決まったのだから、その人が全てをやるべきだ』という誤った考えが、リーダーを雑用係にしてしまうのです。」(p.106-107) リーダーが雑用係までやらされることが見えていて、しかもご丁寧に「言い出しっぺがやるべきだ」などという通念がある組織なら、イノベーションを言い出す誘因は極めて低いことになります。この点は大学も大差ありません。
 「(前略)組織のメンバーを奮い立たせる目標を設定することは、リーダーの重要な仕事のひとつであり、自分の性格に合わないからやらなくてもよい、という類のものではありません。このことをよく理解している経営者は、たとえ自分に生まれながらのカリスマ性が備わっていなくても、努力と工夫によって「みんなを奮い立たせるゴールを提示しよう、と考えます。そもそも、簡単に達成できる成果目標しかないのであれば、その集団は最初からリーダーを必要としていません(前述したように、組織の規模が大きければ、管理職は必要です)」(p.119) この部分で筆者の言う「生まれつきのカリスマ性は持ってないけれども、高いゴール設定が必要だと理解しているリーダー」は、ジム・コリンズの「Good to Great」(邦訳「ビジョナリー・カンパニー2」)に登場する、カリスマ性や派手さはないが、高い目標をかかげて粘り強く進む経営者たちにそっくりです。
 「一般に日本の企業は、深い専門知識をもつ人を高く評価します。それなのになぜ博士号取得者を積極的に雇わないのでしょう? 私はその理由を、彼らが『専門知識しかもっていないから』だと考えています。もし彼らが専門知識をもった研究者の卵ではなく、「専門知識をもって問題解決にあたることのできるリーダーシップ・ポテンシャルのある人」であれば、民間企業への就職状況はまったく違ったものになったはずです。」(p.176-177) これはまさにリーダーシップは自転車の前輪、専門知識は後輪、ということですね。
 そして、日本でのリーダーシップ教育について。「特に問題なのは、英語力に関してはそれなりに危機感が持たれているのに対して、『リーダーシップの欠如』に関しては問題意識さえ欠落している、という点です。(中略)『リーダーシップを小学校から教えるべきか、中学校から教えればよいか』という議論を聞いたことがあるでしょうか?」(p.61) そう、高校までで全然教えてきてないのにグローバルには急に求められるので、いまや大学で教えるしかないのだというのが私どもの見解です。本書を読んで、私どもが七年間やってきたことがやっぱり間違っておらず、将来性のある事業であると励まされた気がするとともに、BLPではまだ不徹底な点や拡張・改善の余地があることにも多々気付かされました。

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