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2012年7月22日 (日曜日)

日米のリーダーシッププログラム

 米国のNational Leadership Symposiumという大学リーダーシップ教育関係者の合宿(3泊4日、バージニア州リッチモンド)に行ってきた。昨年秋に行ったロンドンでのILAや5月のデンバーのASTDとは違って、民間HRの人は(大学にも籍がない限り)参加できない、純粋に大学関係者のための会合だ。全体で50人ほどの参加者があってワークショップを繰り返したので、かなりの割合の人と話す機会があった。有名な大きな大学の人もいたが、数としては田舎の小さな大学の人が多く、リーダーシッププログラムがそのくらいまで浸透しつつあることがよくわかった。北米では大学教育の正課でこのように取り上げられるようになる前から、社会全体でリーダーシップの大切さが理解されていて、それが大学でも正面から扱われるようになったのが最近のstudent leadership programの急増なのではないかと思う。大学を卒業した社会人向けに行われるリーダーシップ開発研修の教材もたくさんある。ASTD (American Society for Training and Development)のリーダーシップセクションで解説されているものなどはそういうものばかりであるといって過言ではない (ASTDはむしろ大学向けマーケットはこれからの課題としているようだ)。
 そういうアメリカの社会人向けリーダーシップ開発教材を、日本の企業研修に持ってきて、大丈夫なのだろうか。例えばASTDのリーダーシップ開発教材を、日本の企業でのリーダーシップ研修に使うことには無理がないのだろうか。むしろ、リーダーシップに関する限り、アメリカの大学レベルのものを持ってくるほうが(日本の事情に合わせてローカライズするにしても)まだずっといいのではないかと思う。そういえば、わたしどもBLPでおこなっているのと同じ単発のリーダーシップ開発教材を、企業や社会人団体で行なったことが数回あるが、どの機会でもインパクトは非常に高くて手応えがあり、参加者の評判も良かった。私は、日本の大企業に入社する新社会人のリーダーシップスキルは恐ろしく低いレベルにあるのではないかと疑っている。高校でも大学でもリーダーシップなどは奨励されず、オヤジ接待力やおべんちゃら力の別名に過ぎない偽コミュニケーション力に優れた者だけが面接を通過してくるからである。真のコミュニケーション力は、相手との関係を悪化させずに異論を述べる能力であり、リーダーシップはこの能力を基礎にして、アジェンダを(自分で、あるいはどこかから持ってきて)用意し、周囲を巻き込み、アジェンダ達成に持っていくスキルなのである。
 なお、「アメリカの大学レベルのリーダーシッププログラムを持ってくる」と言ったが、アメリカのリーダーシッププログラムにもけっこう深刻な欠点があって、それはこれから修正しなくてはいけない。それは、多国籍・多文化から成るチームでのリーダーシップのことをあまり配慮していないことである。アメリカ人はアメリカに適応しようと努力している人を温かく迎えてくれるが、そういう努力をしない人には冷たいし、逆にそういう努力が前提とされない環境すなわち米国外を苦手とする傾向がある。その意味で実は多文化許容が苦手なのではないか。アメリカ人が国外に出て多国籍チームでリーダーシップを発揮しようとすると往々にして失敗するのも、アメリカ国内での方法を押し付けるせいではないか。そうだとすると、日本の学生や社会人に必要な、アジアを中心とした多国籍チームでのリーダーシップスキルを養成するプログラムは、既存の米国国内用のものを輸入するだけではダメで、いま発展しつつあるglobal leadership developmentを参考に組み立てなくてはいけないだろう。

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