Maryland大訪問
4月5日、メリーランド大学第一日。student leadership programの理論的支柱であるSocial Change Model of Leadership Developmentで一番影響力の強いSusan Komives教授に会います。ジョージ・メーソン大学はワシントンDCの西から南に広がる豊かなバージニア州の州立大学ですが、このメリーランド大はDCの東側のメリーランド州の州立大です。メリーランドにはボルティモア市もあり、前日まで行っていたジョンズ・ホプキンズもメリーランド州にあります(ただし私立)。メリーランド大は地下鉄で北東方向にかなり乗って行くので都心から1時間前後かかる郊外です(車なら30分)。駅からは学バスが頻繁に走っていて渋滞もなく小高い丘を登って行くとかなり広い斜面にキャンパスが広がっています。この日まず訪問したのは丘の一番上にあるBenjamin Hall。教育学部(College of Education)の建物です。
Komives教授は極めて精力的で、BLPの紹介ビデオを見たり、student leadership programをどう日本で活かせるかについての私の質問に熱心に答えてくれました。学生部Student Affairsはメリーランド大のリーダーシップ教育にも凄く重要な役割を果たしていて、例えばリーダーシップ・マイナーは学生部が提供する形になっています(学生が主専攻=メージャーを選ぶ他に、副専攻=マイナーを学生が選択するわけですが、その選択肢の一つに学部を超えたリーダーシップ教育があるわけです)。リーダーシップの科目を教える講師(職員も院生もいる)を学生部で雇用しているわけですし、リーダーシップの科目群も一般教養のように単発ではなくて階段状にたくさんあるので、学生部の規模も本当に大きくて、常勤非常勤を併せると職員1200人くらい。常勤だけでも約700人で、数十人くらいしかいない日本の大学の学生部と比べると巨大です。日本の大学の学生部はどうなっているんだと質問されるので「学生部は学生のスキルを向上させるよりは道徳的に行動するように指導することをミッションとして作られているのだ」と答えておきました。しかし専門知識ではない、スキル系の科目ならば学生部で提供するというのは日本でも悪くない着想ではないかと思います。
Komives教授と一対一で話して、あっと言う間に一時間半が過ぎ、最後に、近い将来に日本でstudent leadership programのシンポジウムを開きたいのでご都合がつけば日本に来てくださいと頼んでおきました。このシンポジウムのことは私の頭の中にあるだけなのですが、著名な人だけに、早めに頼んでおかなくては始まりませんから。
この後、Stamp Student Centerを訪問し、学生が学生部の支援のもとに自主的に作っているPeer Leadership Coucil (PWC) のメンバー数人と対談しました (peer leadership coucilというネーミング、素晴らしいですね)。Stamp Student Center(たぶんStampという人が大学史上の功労者か、大口の寄付者なのでしょう)は大きな建物で、一階と二階は食堂と売店、地下には事務室や会議室がたくさんありました。今まで写真は助手のナミッキーが撮ってくれていたので、単身になったこの日は自分で撮るのを忘れ、帰りにバスに乗ってから思い出して急いでiPodTouchで窓から撮ったこの一枚があるだけです。PWCの特徴は、学生部の提供しているリーダーシップ・マイナーとの連携が密で、学生が会の活動でリーダーシプ経験を積むのと並行して、リーダーシップの理論などを熱心に勉強していること、彼らの主催するリーダーシップ学習の合宿がいくつもあることで、それが人気のもとなのか、学内の全学部から応募者が居て、面接や論文で数倍の競争を経ないとメンバーになれないそうです。もっとも、学生部の支援する学生団体でこうした広汎な活動をして、しかも競争率が高いのであれば、履歴書にもきっちり書ける活動なのだろうとも推測します。この日会った4人の学生たちの専攻分野(所属学部)はバラバラですが、一人一人が(当然ながら)リーダーシップに非常に興味をもっているのがよく分かります。
以上の説明を受けて、最後に、あなたのほうからリーダーシップについて何か教えてくれと頼まれたので、(前にブログにも書いたのですが)日本では決して受けないと思って控えている話をしました。それは、米国の軍隊でのリーダーシップです。軍隊はアメリカ人にとっても階層的で命令型のリーダーシップが発揮されている組織であると思われています。しかし米国陸軍は作戦行動や訓練のあとに、参加者を小隊や分隊の単位で集めて「何がうまく行ったか」「もう一度行うとしたらどう改善したらいいか」について階級抜きで対等に話す機会 (After-action Review, or AAR) を設けているということ(決して「何がうまく行かなかったのか」というふうに議題設定しないのが肝である点はアクションラーニングと同じですね)。さらに、小隊長の役目は部下の自主判断と行動を支援するサーヴァントリーダーであるとすら言われていること。それから、米国海軍で、艦隊の中で作戦行動中に一番エラーが多く離職(海軍を辞めてしまう)率も高いお荷物な駆逐艦に着任した新任の大佐が、ああしろこうしろといきなり命令をしていた歴代の艦長と違って、艦内あちこちを質問してまわって部下の提案や創意工夫を大幅に採用し(結果責任は自分でとり)乗組員の士気が向上してついに艦隊一番の模範艦になったことがあること(マイケル・アブラショフ著It's your ship)などを話しました。軍隊が偉いという話ではなくて、伝統的・階層的組織の代表であると諸君が思っているだろう軍隊においてすら、諸君が勉強しているリーダーシップそっくりのスキルが重視されているんだよ、ということです。AARについて「あ、聞いたことがある」という学生がいたくらいで、すんなり理解してもらえたようです。
翌日は朝一番から学生部のリーダーシップ・マイナーの授業があったので眠い目をこすって、また行きました。講師はいつも入っている学生部職員に代わってこの日だけ博士課程の院生になったと聞いてちょっとがっかりしましたが、なんのなんの凄い授業でした。教室に行く途中に、金曜は各学部とも授業が少ない日なので学部横断的なこういう科目は金曜日にやらざるをえないが、それでも学生たちは熱心に来ると聞きました。教室は学生部の地下で、設備としては何の変哲もない可動椅子とホワイトボード・黒板の小教室でした。内容は(この回は)組織学習論で、事前の宿題文献を読んできて冒頭にディスカッションし、自分が今まで関わってきた組織で、組織学習が促されていた組織とそうでない組織について書きなさいという小テストのようなことをしていました。これに限らないのですが、講義と隣の学生とのディスカッションを交互に行うワークショップ形式は今回見学した三つの大学の授業でも使われていました。 2コマ連続の授業なので中間の休み時間に学生に声をかけたら、一人が経営学部だというので、「経営学部にはリーダーシップの科目はないの?」と尋ねたら、「一応あるけど、講義だけだし、内容も全然こんなんじゃないし」と言っていました。メリーランド大ではスキルとしてのリーダーシップ、それもpeer leadershipやleadership without authorityの教育は経営学部ではなく教育学部や学生部が主導しているようです。
後半は、立教の経営学部の学生ならウェルカムキャンプ以来必ず一度以上は経験済みの「情報カードを配って情報を分有し、口頭だけのコミュニケーションで情報を共有してクイズを解く」というゲームをしていました。経営学部の場合と学生の反応がどう違うかに注目していたら、あまり差はなく、教員側の仕掛けに一工夫ありました。一つは、わざと人数の違う班構成にしてあり、人数が違うことでどういう違いが出てくるかを後でクラス全体で議論すること。もう一つは、班ごとに問題が違うので、隣の班の会話が聞こえてきても関係ないようになっていることです。例によって何か言えということだったので、問題を入れ替えて2ラウンドやったら情報共有やディスカッションの技が向上して、「組織学習」の体験になるのではないかとコメントしたり、前日と同じ軍隊での組織学習やリーダーシップの話などをしました。この日の教員(院生)と、ジョンズホプキンズのoral presentationの授業の教員は、学生への質問の上手さが際立っていたように思います。授業のあとで質問のマニュアルがあるのかと尋ねてみましたが、いやマニュアルは無くて自然に出てくるのだと言っていました。クラスの中ではアジア系の男女二人が発言量でもアイデアの出し方でもかなり目立っていました。帰り際に「ありがとうございました」というので、日本のかたですか!と返したら、いや韓国です、と。日韓英語極めて流暢でした。
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