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2012年1月の3件の記事

2012年1月24日 (火曜日)

ソーシャルなビジョン形成

ブログに連載しているように、今じっくりsocial change model of leadership developmentの本を読んでいる。その中で、集団・組織の共通目的の形成方法について書いたくだりがある(p.244以降)一つはジョン・コッターが想定しているように、一人のリーダーがビジョンを持っていて、それをまず少数のコアメンバーで共有し、続いて集団全体に広げるための作戦を立てるというタイプ。この場合、最初の一人のビジョンがコアメンバーの誰をも納得させるほど素晴らしいものであればいいのだが、コアメンバー(になる人)が反論しても聞こうとしなかったり、修正を拒絶していると、このビジョンの浸透は暗礁に乗り上げる。
 もう一つはsocialized visionとも言うべきタイプで、全メンバーがビジョン形成に何らかの形で関わる。合意形成までは大変だし厳しい決断も必要になるときがあるが、メンバーは自分も形成に関わったものであるのでヨリ自然な形で実行に加われる。
 この本は学生団体やNPOのような組織を念頭においてリーダーシップを論じている(しかしその多くの部分は企業にも応用可能であると主張する)のだが、振り返ってみると、このソーシャルなビジョン形成は、われらがBLPのビジョン形成過程とぴったり一致するように思う。特に2005-2007年くらいは教員はもちろんSAや受講生も全員が毎週試行錯誤している状態で、それに苛立った企業出身の教員の一人に「もっとはっきりしたビジョンを打ち出してくれ」と私に迫ったり、呆れてミーティングに来なくなってしまう教員も居た。
 しかし「打ち出してくれ」と言われても私の頭の中にはモデルはなく、日本のどこを探しても他に誰もやっていないことなので他所にもモデルはない(いまになって、90年代から米国で盛んになったstudent leadership programからは学べるものが多いと気づいたが当時は知らなかった)。そこで、しかたがないので「経験を積んでから振り返りでまとめるほうが良さそうだ」とか「企業から課題をもらうと学生の意欲が高まるんじゃないか」とか、企業研修やMBAや成人学習理論を眺めて、若い学生にも良さそうと思われるものを選んで片端から試す日々で、アイデアは教員・SAはもちろん、受講生からもらうこともあった。その結果として、「企業に対しても、教員に対しても臆せず提案する」という気風が学生の中にも生まれたし、粘り強くつきあってくださった教員の方々も手作り感を充分に(?)味わえたのではないかと思う。その中で発揮されるリーダーシップは、コッター風の、ビジョンを持って降臨するリーダーのものであるよりは、もっとソーシャルなもので、高橋俊之さんの命名してくれた「リツイートするリーダーシップ」とも大いに共通するものがある。「最近入学してくる経営学部生は、BLPはできあがったものとしてとらえている人が多い」という卒業生の指摘を受けたことがある。それはまずいのである。学生を含めた全員のアイデアで作り上げていくものという習慣は是非今後もBLPで維持していきたいので、それを維持する仕掛けも考えたい。
 

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Alex Teh, Common Purpose, in Susan Komivez et.al.(eds.), op.cit,(読書ノート)

大学生は学内外で多くのグループ・組織に属している。良いグループ・組織はいつも「我々はなぜここにいて、何をしているのか。我々の共通の目的は何か」を自ら問い、答えられなくてはいけない。

"Common purpose"には三つの要素がある。
vision/ aims/ value
vision=その組織の理想的な将来像は?
aims=その組織はなぜ存在しているのか?
value=組織のvisionを実現するために自分やメンバーをどのように扱うと合意しているか

メンバーを結束させる良いvisionがないと、成功した大企業でも凋落していく要因になる(Kotter)。

異なるvalueをもつ組織出身の人々に、はっきりと口に出してvalueが異なっていることを認識させるのは優れたリーダーの仕事の一つである。

common purpose、特にvisionはどこから来るのか?
Howell(1988)によればその源泉には二つのタイプがある。
1) personalized vision
責任者(person in charge)が自分のdreamやvisionを持っていて、それをグループ内で共有する。良いvisionであればこれに参画するのに労をいとわない人々を募ることができる。これは大学の多くの授業の初日のやり方に似たアプローチとも言える。
2) socialized vision
グループメンバーがビジョン作りに貢献する。これは必ずしも各自が持っている個人ビジョンがグループビジョンに反映されることを意味せず、むしろ全員が一緒にグループビジョンを作ることにinvolveされることを意味する。一緒に作ることで、メンバーがcommon purposeに向かって多くのinvestment and commitmentをするようになる。[これはまさにBLP教員団・SA団のめざす状態]

大学の授業初日もこの要素をとりいれたほうが、学生の参加意欲が高まる。もちろん学生の要望を全部容れる必要はないが、要望を聞く過程でクラスがグループとしてinteractし始める。

common purposeを作る過程でどの程度consensusを重視するかにもバラエティがありうる。またconsensus自体も全員一致でなくても、全員がvoiceし終えて、common purposeの実行を支持できることが重要。合宿やアイスブレーカーが有効なときもある。Tシャツやスローガン作りも注意深くfacilitateすれば役に立つこともある。

common purposeを作るための討論を経ていると、その後一緒に働きやすくなる。これは個人的な経験を共有したり相手の話をよく聞いたり、厳しい決断をしたりというステップが全員にとって重要な学習になるからである。

1)のpersonalized visionは、それを他のメンバーに伝える過程で、もともとそのvisionを持っていた人が、他人の意見を聞かなかったり、他人の意見によって元々のビジョンを多少とも修正する気がないときには困難に直面しやすい。他方、2)のsocialized visionも、そうしたビジョンを作る仕事が途方もなく難しいと思えるときには機能しない。さらに、年々メンバーのかなりの部分が入れ替わるような組織(学生団体など)の場合には、別の困難があるが、新メンバーに対して常に意識的にこれまでのビションはどうであったかを伝えるとともに、新メンバーがそれに違和感をもっているならすぐそれを共有することがその組織の将来にとって重要であることを周知しておく必要がある。

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2012年1月11日 (水曜日)

Jordan England, Collaboration, in Susan Komivez et.al.(eds.),op.cit.(読書ノート)

コラボレーションは仕事を効率的にやりとげるためだけでなく、自分や他人について学ぶための強力なツールである。

多くの人が効率のためには競争が良いと考えてきたが、Kohn (1986) のようにコラボレーションのほうが競争より良いときがあると主張する論者が増えている。

cooperationとcollaborationの違い。collaborationは共通の目的を達成するために協力することであり、cooperationは目的は各人異なっていても譲りあう(ないし交換する)ことで目的を達成することを指す。

collaborationの過程でdiversityは(存在するだけでは充分でないが)group thinkを防ぎ、非常に大きな役割を果たす。[質問会議で「一見馬鹿な質問が功を奏することがある」というより、diversityを活用しようというほうが分かりやすいのではないか。]

collaborationのために必要な個人のcompetencies
・personal work 自分自身の価値観や感情を自覚していることが必須
・building trust グループのメンバーが決まった時点ではそれぞれ別のagendaを持っているのが当たり前。しかしそれを放置しておくと対立や不信のもと。これを解消するには、
 1) informal exploring(お互いのバックグラウンド、関心、優先事項、物の見方を知りあうこと),
 2) sharing ownership(struggle over control and ownershipが対立や不信の原因になりやすいので、全員がownershipをもつように工夫する。特にこのことは、positional leaderや、リーダーレス・グループで主導権を握りたがる人によくあてはまる)[ホノルルのAPLPのsilent classでも、「主導権を握りたがる人々」に対して「そんなのはdominationでしょ、leadershipとは何も関係ないわよ」とグッサリ一撃した女性がいた。http://www.mhigano.com/blog/2011/09/silent-class.html のちにこの女性は私の担当したアクションラーニングセッションでも見事なコーチぶり・メンバーぶり?を発揮した。http://www.mhigano.com/blog/2011/12/post-30d7.html],
 3) celebrating(small sucessを皆で祝うことは効果的)[これはKotterの8つの段階にも登場する],
 4) creating powerful, compelling experiences(group processの最初の方でrope courses[perfect squareのことだろうか]やoutdoor challenge tripsの経験を共有すると迅速にtrustが形成される。[経営学部が開設される直前の2005年に、perfect squareを教授会メンバーを対象に実施したのが、まさにこのexperienceであり、また、今思うと経営学部での教員FDの発端だった。http://cob.rikkyo.ac.jp/blp/1413.html また、BL2の学期の初めの頃に同じゲームをやっていた時期もあった。手っ取り早くtrustを形成するには飲み会なんかよりこのゲームを開催するほうが効果的というのも知っていて良いと思う。]

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