就活・リーダーシップ・リベラルアーツ
ローマに来る機中で倉部史記 @kurabe_s 著『文学部がなくなる日』を読んだ。題名から想像されるかもしれない「文学部の実態」のような本ではなくて、文学部の構成要素が「国際○○学部」「心理○○学部」などに再編成されて、結果として在来の文学部という学部がなくなる大学が続出しているくらい、いまの大学の環境は激変し、環境変化に対応して大学側も急激な改革を強いられているというごく真っ当な話で、多々学ぶところがあった。
私のいまの仕事に直接ヒントになったところを二つとりあげて感想を書いておきたい。第一は、p.182「企業が自分に何をしてくれるか期待する就活学生」。「就職活動をする大学生を見ていて気になるのは、『あなた方企業は、私に対して、何をしてくれますか?』ということばかり気にしている学生が多いということです」「行った先の企業が自分の人生をランクアップしてくれるのだ、所属する組織が、どこか素敵な世界に私を連れて行ってくれるのだ、という考えが見え隠れしている」「企業の側は、『あなたが、わが社を、どのように良くしてくれるのか』に関心があるのです」「学生は、企業は従順な人材を求めていると思い込んでいるかもしれませんが、『私がやりたいことを実現させるために、御社の環境が必要なんです。これは御社のビジネスにとってもプラスです』くらいのことを語る学生のほうが、自社に何かをもたらしてくれるだろうと考える企業人は少なくないはずです」(p.183-4から抜粋)
全くおっしゃる通りだと思う。で、これは翻訳すると、実はリーダーシップの欠如の問題なのだと思う。高校生・受験生の大半は、徹底的な消費者スタンスで大学に入ってくる。消費者は、価格を含めて何か気に入らない物に出くわすと、避ける。気に入れば、買う。もし買ってしまってから、気に入らないのに気付いたのならば、苦情を言うこともあるが、積極性はそこ止まりである。自分の気に入るような物を自分で創り出してしまうとか、相手が作ってくれやすくなるような提案をするとか、その相手を巻き込んで自分と一緒に作り始めるといった行動にまでは至らない。これらは典型的なリーダーシップ行動である。他人に影響を与えて一緒に成果を出せるように行動する(相手は企業でも大学でも仲間の学生でもよい)体験、特に初期に小さくてもいいので成功体験があれば、倉部さんのおっしゃる「自分のなかのスイッチを切り替え」る。そしてリーダーシップをとることの意味に気付くのである。
そういうリーダーシップは大学で言えば専門科目の勉強のためにも、また社会に出てからの職場学習においても決定的に重要なので、大学で専門科目と並行してリーダーシップ発達支援を行う価値は大きい(立教大学経営学部が、リーダーシップを車の前輪、専門科目を車の後輪としている所以である。)言い換えると、大学の教員が学生に対して「勉強は一人でやるものだ」という、研究者としての自分の経験をいまや押しつけるのは、学生が研究者を目指さないほうが普通になった現代では時代錯誤なのである。(なお、ここで言っているリーダーシップは、○○長のような、任命されたリーダーの、権限の使い方ではないし、、逆に、カリスマのことでもない。最近この事情をとても分かりやすく説明してくれる有りがたいエントリーに出会ったのでぜひ参照してください。~ちきりん日記 なんで全員にリーダーシップを求めるの? )
第二は、「リーダーを育てるリベラルアーツ学部」について(p.68)。大勢の人をリードする人材の養成のために歴史や哲学のような一般教養やリベラル・アーツを教える取組の人気が上昇中であるという。しかしこうしたリベラル・アーツは、上記のようなリーダーシップのない学生が学んでも、彼らは他人を巻き込んでプロジェクトを起こし総合的判断力が発揮するような場面にそもそも遭遇しないので、学生がリベラル・アーツ科目に興味を持てた場合にもせいぜい個人的な趣味の対象になるだけであるし、興味を持てなければ広くて薄くて退屈な科目になって誰もハッピーになれないだろう。従って、リベラル・アーツ科目は、リーダーシップ・スキルを身につけた後に(あるいはリーダーシップ・スキルを充分に身につけた学生だけを対象に)教えられるほうがいいのではないか。米国の学部段階でのリベラルアーツ教育が失敗したと言われるのも、この点をあいまいにしたままだったことも一因なのではないかと推測する。
(古代ローマの偉大なリーダーたちの足跡のあるローマにて)
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