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2011年8月の5件の記事

2011年8月29日 (月曜日)

働く人の学習と、学生の学習

 中原淳@nakaharajunさんが数冊の著書に書かれているように、学問の道に進まない人でも「学校を卒業したら勉強が終わり」なはずがない。(そもそも社会人という言葉が「もう勉強しない」という含みを持っているのがおかしくて)人はいろいろな形で一生学び続けるはずである。そこで中原さんは企業における(あるいは働く人の)学習の支援をどのように設計したらいいかを議論していくのだが、そこに登場する考え方、例えば「組織学習」「導管メタファーとナレッジマネジメントの限界」「対話による知識共有」「正統的周辺参加」「学習棄却(学びほぐし)」などは非常に魅力的で、むしろこれらは全部、若い人が大学生のうちから経験しておいたほうがいいことばかりではないかと思う。
 若いうちに大学で組織学習・対話による知識共有・正統的周辺参加・学習棄却を経験しておけば、在学中の学問にも(大学教員だってこれらを院生の頃には経験しているはずなのだ)、さらに働くようになってからも(中原さんの言うように)非常に役に立つのではないか。また、組織内でこれらを言い出して実行し繰り返すにはかなり強力で粘り強いリーダーシップが必要であろう。ここでまた例によってリーダーシップの出番なのだが(笑)、現代の企業や社会に必要なリーダーシップは、自ら戦略立案もロジスティクスもこなしてしまうタイプばかりではなくて(そういう人が充分な数居ればいいけれどそうはいかないし環境変化が激しすぎるので一人で何でもこなせない)、自ら日々学習し変容し、組織の学習を促進し、組織内外の他人の考えを(自分の考えでもいいのだが)リツイートするリーダーシップ(高橋俊之さんの命名)なのではないかと思う。また、「対話から学習する」場合、対話の相手には国籍や文化の違う隣人が当然含まれる。
 そういう意味で、大学生を対象としたリーダーシップ開発支援はこれから、就活対策や就業力増進でとどまるのではなくて、在学中も卒業後も一貫し継続して学び続ける、リフレクティブ・リーダーの育成を目指したいと考える。

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2011年8月28日 (日曜日)

私語と対話のあいだ

 授業見学二日目。午前と午後別の教員の(しかし受講生は同じ40人)授業を見せてもらった。スタイルがかなり違い、学生たちの反応も違ってなかなか面白かった。共通しているのはワークショップスタイルを多用しているという点で、数人のグループで話してからクラス全体で共有という時間帯がどこかに必ずある。それを経てからは個人単位でもよく手が上がる。この点は日本でも(学校でも企業でも)同じだろうと思う。そういえば一昨年だったか、経営学部の「金融組織論」だったかの講義を私が担当したときに、「授業中に、いま授業で教師が話していることについて隣の人とひそひそ話すのは私語かどうか」とアンケートしてみたら、「私語とは思わない」という人が過半数で、驚いたことがある。驚きはしたものの、よく考えてみれば経営学部生は入学直後から教室ではクラスメートとディスカッションするようにと習慣づけられているのだから不思議なアンケート結果ではない。この金融組織論を翌年度は他大学の教員にお願いしたのだが、その人に尋ねてみると、「私語はあるが、この(学部)の授業の私語には特徴がある。他大学での非常勤では大教室の後ろのほうがうるさくてそのため教室全体にうわ〜んと響いているのだが、ここは一番前にいる熱心なはずの学生がよく隣と話している。むしろ前のほうが私語が多い気がする」。やっぱりこれは経営学部のBLPやBBLなどの影響で、(やってはいけない)私語だと認識していないからなんでしょう。
 そこで、比較的大人数の講義を担当する教師としては(少なくとも)三つの選択肢があることになりましょう。第一は昔ながらの方法で、前のほうに座っている熱心な学生だけを対象に粛々と話し続ける。でもこれ、前のほうもうるさかったら相当早く限界に達しますよね。第二はいろいろな工夫によって静粛を保っていただく。座席指定するという方法もあるだろうし、あるいは、いつかどこかのFD授業で拝見したのだが、私語している学生一人一人と対決し黙らせていくという怖い方法もある。限られた時間の中である一定の分量の知識はどうしても伝えねばならないという授業のときはこの方法をとらねばならないときもある。あるいはコンテンツが面白いという一点のみで集中度を保つ。これは理想的ですが、しかしある程度以上の読解力のある学生を相手にしているならば、「なら本を読めばいいじゃん」という反論には真剣に答えなくてはいけなくなる。つまり学生が自分一人で教科書なり参考書なりを読むよりも能率がいいか、あるいは深く学べるような講義内容にしなくてはいけない(これはこれで実は相当にハードルが高い)。
 第三の道としては(現行二者を論じたあとに新たな第三の道、と書くのはお決まり過ぎて気が引けるのだけど)、お隣と話している「私語」をグループディスカッション扱いに昇格させて、講義→私語(GD)→共有→講義→私語(GD)→共有、というふうに大規模ワークショップにする方法。これは企業研修などではとうに行われていることだし、大学でも(もしかしたら経営学部でも?)おそらくどこかではなさっているかたが居ると思うけれども、経営学部でBLP/BBLを経験している学生ならそうしたワークショップ型の大教室授業にも他大学よりもっとうまく対応できるのじゃないか。200人とかでは辛いけれども80人くらいなら何とかなるのでは。サバティカルが明けて講義型授業を担当することになったら(忘れてなければ)試してみようかと思います。

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2011年8月27日 (土曜日)

ワイキキで料理する

 もともとEast-West Centerの教職員用の寮に入るつもりでいたのですが、出発直前になって「実は寮はまだ予約できていないのである」とメールが来てしまいました。こちらのとある教員によれば「万事そういうハワイアンペースなのだ」ということなのですが、とにかく、寮に入れないのですからホテルやコンドミニアムに入るしかない。そんなわけで、ビジネス客なのに(え〜と入国審査では"Business"と申告しましたからね)ワイキキのコンドミニアムに単身で泊まって、寮がもしかしたら空く?のを待っていますが、もしかすると一ヶ月このままかも。寮より当然高いので、その分出費をきりつめる必要もあり、自炊は必須なのです。それに、ハワイは「常夏の地」とか言われてきましたが、春と夏を経験したいま「これじゃあ夏バテも夏やせもありえない」というのが実感で、日本のかたが普通にホテルに泊まってプレートランチ食べて夕食も外でアメリカン・ハワイアンな分量を食べていたら大変なことになりそうです(笑)実際、現地のかたで「大変なことになっている」体型の人はイタリア以上に多いです。
 最近は日本から行くハワイ旅行本でもリピーター用とか長期滞在者用などいろいろあるので少し事前に調べてきて、ワイキキ周辺のスーパーマーケットはひととおり主だったところは行ってきました。学生や卒業生諸君でこれからホノルルに遊びに来る人も多いと聞いているので少し詳しめに書いておきます。いま私が住んでいる場所(クヒオ通りとカラカウア通りが合流するあたり)と職場を行き来する途中に寄れるかどうか等の便から、いまはマノア方面のSafewayに行くか、ワイキキ中央部のFood Pantryに行くことが多いです。Safewayは観光客はこない場所ですが、地元民からは「高級スーパー」とみなされているだけあって、質は高く値段もそこそこ高いようです。Food Pantryは逆に純然たる観光客向けで、その理由から高め価格設定なのですが、少量買うときなどはSafewayより良い面もあります。(あ、Food Pantryは、アラモアナ寄りのディスカバリーベイのほうにある店は小さくて使い勝手がイマイチ、ワイキキのど真ん中(Ohana East/ Westのあたりとか)にある店舗のほうが良いようです)。アラモアナショッピングセンターに行くついでがあるなら、その中にFoodlandという大型有名スーパーもあるし、白木屋やドンキホーテもあって選択肢は広いようです。他にハワイでは誰も知らない人のいないABCStoreというコンビニみたいな雑貨屋が、ほとんど数十メートルおきにあって、これは例えてみれば、東京で現存するコンビニ全社の全支店が1社(すなわちABCStore)の支店であったらそうなる、というような頻度で分布しています。Whalersという雑貨屋もあるにはあるのですが、私の行動範囲で見る限り数が全く桁違いです。食材を買うというほど食材はないのですが、1ガロンの水とかビール12本とか、重くてなるべく近くで買いたいようなとき重宝しています。
 もう一つは調理用品ですが、ふだん使っている鋳物の鍋がないと調子が出ないし、Lodgeの鉄鍋は米国内ならおそろしく安く手に入るので、アマゾンで注文しちゃいました。コンボクッカーという、10インチのスキレットより浅いパンとダッチオーブンとスキレットの中間くらいの深さの鍋10インチがセットになっていて、浅いパンが蓋にもなる、という「一家で一台だけ持つならこれだ」というナンバーです。

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 この鉄鍋が到着して早速作ったのは、この頃よくやっている「夏野菜の炒め煮」(写真下、ピントがあまりよくないので、後日また載せます。作り方についてはこちら。水があまり出ない野菜しかない場合はホールトマトの缶を入れれば焦げ付く心配はないでしょう。鉄鍋なら重さで圧力がかかるのでまず大丈夫と思います)。巨大米ナスや巨大売りセロリなどを使いました。パスタのために買っておいたパルメザンチーズを入れています。ハワイでは年間とおして夏野菜は安いのだとするとこれは年間定番料理になりそうです。

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 ここまで書いて、翌日に帰りにワイキキまで行かないバスに乗ってしまって途中で降りたついでに、かねてから噂を聞いていたNijiya marketのUniversity Avenue店に行ってみました(最初は「忍者マーケット」と空目してました)。カリフォルニアやニューヨークなど日本人や日系のかたが多い地域にたくさん出店しているチェーンのようです。控えめな感じの入り口を入るなり、棚の並び方も間隔も置いてあるものも、とても日本のスーパーに近くて感動的でした。ハワイに着いて直後にこの店に来ても「なんだ高いだけじゃん」という感想かもしれませんが、よくみれば牛肉やカリフォルニア米などは米国価格ですから圧倒的に安いです。日本風の四角い食パンもある(某米国系スーパーで買ったマフィンは買って三日目でカビが生えてきた!)。もちろん醤油もショウガもネギもシソも梅干しもシラスもノリも薩摩揚げもおでんもある。到着直後はともかく、少し長い期間ホノルルに居て日本食が懐かしくなった頃にここに来れば感激すると思われます。肉のパッケージの量も日本のかたが少人数で消費するのにちょうどいい量になってます。ワイキキで4番のバスに乗れる地域ならば10分で行けます(なお、ワイキキからの行きは4番なら乗っていいのですが帰りは4番のバスのうちでワイキキに行くものに乗ること)。毎月29日は「肉の日」特売だし、9/2-9/5はLabor dayの特売だそうです。今後は基本Nijiyaで時々Safewayに行くことになるかもしれません。

(写真追加)
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(photo by Anna Abatayo-Soh, in Honolulu, January 2012)

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2011年8月26日 (金曜日)

1階のバルコニー

 初日に見学して印象的だったのはこんなセッションだった。クラス40人を二つのグループに分割して、20人は教室の中心部に内側を向いて着席する。あとの20人は周りにオブザーバとして座る。内側の20人は40分間で「このリストにある(架空の)遭難した9人のうち1人だけ救助できるとしたら誰を救うべきかという問題を解く。9人の中には副大統領が入っていたり(おまけに大統領本人は病気であるという想定)、心臓移植の名医あり、まもなく子供が生まれる女性あり・・てんでに議論しているうちにタイムキーパーや司会が現れてくるのは予想できる通り。25分くらい議論して決着がつかず手詰まり感が漂ってきたときに、局面を変えたのは、小さな声でぼそぼそと話すアジア系の一人の青年だった。ここまで5つくらいの基準で誰が優先されるべきかと議論してきたが、その5つはいずれも価値であって優越をつけられないのである、と。つまりどうやっても唯一の正解にはたどり着けないことがここで全員に共有されたのである。日本人同士のグループワークだとここで諦めてしまうかもしれないが、そのあとの追い込みが面白かった。正解がないのだが、だからといって誰も救助しないのは無駄であるから名簿の1番上にある人にしようということで合意してしまったのである(多数決は最初から禁じられている)。これは抽選にしようと合意するのに近いが、抽選よりもさらに(日本人なら)抵抗が大きそうな決定であろう。何しろ名簿の1番上だからというのであるから。
 教員のほうで用意した仕掛けとして面白かったのはこのセッション直後のリフレクションで、外側にいる人たちはバルコニーにいて、内側のダンスフロアで踊る人たちを観察しているのだ、ということを最初から言い渡してあって、セッション後に気付いたことを順に言ってもらうのである(ハイフェッツ教授のバルコニーとダンスフロアについてはここここにも書いた)。リーダーシップ科目の一番最初のほうに、こうしたフィードバックを与え、受ける機会を持って、その後の授業でいつもフィードバックの有効性を意識してもらうことは非常に有益と思われる。一緒に授業見学をしていた卒業生のK子さんによれば、APLPの場合は、多国籍なので、あの短い40分のあいだにいろいろな議論のしかたをする人がいるのだという多様性を全員が体感できるというメリットもあるようだ。

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2011年8月25日 (木曜日)

ホノルルにて

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 これから春まで断続的にお世話になるホノルルのEast-West CenterのAsia Pacific Leadership Program(APLP)の授業見学シリーズ第一回。
 East-West Centerは州立ハワイ大学マノア校のキャンパスの東の端の一角にある研究・教育機関で、米国議会によって設立され今年が設立40年です。建物の造りや内装はアメリカ東部の大学と似ていて、かなり既視感があります。ハワイ大学とは同じキャンパスにありながら別組織で、East-West Roadという南北に走る道路の東側が同センターで、西側がハワイ大学というふうに分割されている(もちろんハワイ大学のほうがずっと面積は広い)。なお上の写真はハワイ大学側で、朝9時前にバスが着いて急ぎ足で教室へ向かう学生たちです。

下の写真で中央の道の右がEast-West Road。右側がEase-West Centerで、左がハワイ大学です。(デジカメで撮った画像はカードリーダーもUSBケーブルもなくまだ読み込めないので今回はiPodTouchです)

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 APLPはEast-West Center(EWC)の中の一部門で、日本で言えば社会人大学院。アジア太平洋地域から受講生40人を集めて一年間、全寮制で、海外フィールドワークに行くときも常に一緒という珍しい学校。将来リーダーになる人にはマーケティングの知識がいるでしょ、会計もいるでしょ、という理屈で科目数が増え総花的になっていってなんら他校と変わらないばかりか、下手するとリーダーシップスキル自体にはあまり時間をさかない大学院リーダーシップププログラムが多い中で、この学校ははっきりリーダーシップスキルを最重点に置いている点でユニーク。もちろん、それだけにBLPとしても学ぶところが多いのではないかというのがここにお世話になろうと考えた第一の理由であります(East-West Center全体では客員研究員はしょっちゅう受け入れているけれども、リーダーシップのAPLPでは私が第一号だそうです)。

そうそう、たまたまハワイに立地しているので、日向野は研究ではなく単に休暇に行くんでしょ、と思い込んでいる人が多いけれども、とんでもない。毎日オフィス(下の写真)に出かけて仕事しています。ツイッターにも書いたけれども、ビーチには時差ボケを治すために初日に行ったきり一度も行ってません。こりゃさすがに極端なので週末くらいは行けるかなと思うけれども、週末も読書やジムや料理の静かな生活のほうを選んでしまうかも。私の最近の平均的な一日は、朝5時起床、0530-0630ジム、0830出勤、1700退勤、バスでスーパーマーケットに寄って1800帰宅、料理、22時までには就寝という極めて健康的なものなのです。今後APLPの学生(院生)や教員たちと一緒に過ごす時間が増えてくると夕方を中心に変わってくるかもしれませんが、昼間はそうはならないでしょう。
 というわけで「これからハワイに行くから案内せい」というご要請に対しては、観光スポット不案内な私は到底戦力になりませんのであしからず。ただ、料理のための買い物は毎日のようにしているので日用品買い物情報は蓄積しています。
 授業見学シリーズ第一回といいながら授業本体には全然たどりつけませんでしたね。

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