学生と卒業生にとっての質問会議
学部2年生ぐらいの比較的意欲的な学生に質問会議をおこなってみると、大変手応えがある。初心者には、質問と答えだけで問題解決ができるというところにまず大きな驚きがあり、それが質問の効能を知るきっかけになる。従って準備としては、適切な問題を持ってきてもらうことは大切で、各自が持ってくる問題は事前に厳選する必要がある。最も多いのが「サークルと勉強とバイトで時間がなくて困る」「留学するかどうか迷っている」の二つ。もうちょっとシガラミや板挟み系の問題はないのかと言いたいところだが、そういう束縛は少ないのだろう。「朝起きられなくて困る」はさすがに却下するが、「自分に自信が持てなくて困る」には、最近その問題で困った事例を中心に皆に話せますか?という条件をつけて採用する。そうでもしないと取り上げる問題がなくなってしまう。「私にはそういう問題は一つもないのが問題」と言ってあっけらかんとしている学生もいる(笑)
質問の効能を知るためには自分のかかえている問題を質問と答えによって解決するのを体験するのが手っ取り早いので、学生をメンバーとして質問会議を行うときにはそうした問題でもやむなしとしていた。そのことが学生が質問会議のことを誤解させうることを最近知った。それは、ゼミでビジネス的な提案を作成した学生が、コメントをもらうために質問会議を開いたときのことである。人数が多かったせいもあって全員が参加してチーム脳になるという状態には至らなかったのだが、振り返りで、「この問題は質問会議に向いていないと思います」と率直に感想を述べてくれた学生がいたのである。理由を尋ねると、「今までにやった質問会議ではいつも提示される問題は身の上相談のように問題提示者が問題について一番よく知っているものばかりだったので」という。ここでBLP同僚教員で私のサバティカルの間ゼミをお願いする予定の斎藤和彦さんが「それは質問会議というよりカウンセリングの場合でしょう」とコメント。そう言えば斎藤さんは一年以上前のSA対象の質問会議のときも、カウンセリング的にならざるを得ないセッションを経験したのだった。ゼミ生のこの勇気ある発言のおかげで私も学生にとっての質問会議の意味についてまた考えるきっかけを得た。
質問会議においては問題提示者がその問題のことを一番よく知っている(そういう問題が適している)というのは、あっさり言えば誤解である。そのことは、質問会議において質問に答えているうちに「真の問題は別のところにあった」と本人が気づくことがしばしばであることから分かる。また、個人的な相談ごとが適しているというのも誤解で、社会人同士で質問会議を行うときには、自分の身の振り方など多少は個人的な面は含んでいてもほぼ常に仕事上の問題提示が多い。個人的な(特に心理的な)相談事など相談されてもお互い質問しづらいことが分かっているので、仕事上の問題を、さしつかえないように(必要ならぼかしながら)話すのである。アクションラーニング協会のALコーチ養成講座でもほぼ例外なくそうであったし、昨日ゼミの卒業生有志でおこなったときにも同様であった。二年前まで学生であった人も、自然に仕事上の問題を持ってくるようになるのである。
SAの仕事で成果をあげてもらうための研修として質問会議を始めたのだが、こうした誤解はSAとしての仕事にも足枷になる恐れがある。例えばいまBL0ではローソン、BL2ではライフネット生命から学年全員共通の課題をいただいて提案コンペに向かってグループワークを行っているが、SAは受講生から「どうしたらいいでしょう?」と相談されることが多い。このとき質問に対して下手に答えて方向を指示してしまうのではなく、適切な質問を返して受講生に考えてもらうのが正道であり、そうした質問のスキルを上げてもらうための質問会議なのである。質問力が個人的相談ごとにのみ役立つと思っていれば「他のメンバーとうまく行かないのですがどうしたいいでしょうか」というような相談にしか使えない。しかし、そうではなく、「この案で来店増えますかね?」と相談された場合も、すぐその案の欠点を指摘したり改善策を言ってしまうのではなく、「来店が増えないかもしれない、って不安なわけ?どうして不安なの?」と反問してプラス要因・マイナス要因を頭の中で整理する手助けをしたり、「来店可能性について君のチームメートはどう考えているの?」と質問して、チーム内の話し合いが足りないことを気づかせるような質問を投げかけるのが仕事なのである。
SAとして下級生の相談を受ける場合だけでなく、チームメートに対しても意見を言う代わりに質問で貢献するといった用途があるので、本当はSAに限らずもっと多くの学生に質問会議を経験してもらいたい。SA研修やゼミを糸口にしてもっと広げる方策を考えている。ゼミの卒業生で勉強したいという人がいたので一昨日の日曜に質問会議をやってみた(写真)。交代でALコーチと問題提示者をやってもらいながら私はALコーチの斜め後ろでコーチにコーチしつつリアルタイムで進み具合をツイートしてみたので、ご参考まで。
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