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2010年6月の1件の記事

2010年6月 7日 (月曜日)

質問会議とシャインの「四種類の質問」

 「質問会議」は、基本的に質問とその答えを言い合うだけで問題解決を図るような会議方法であり、同時にメンバーのチームワークと支援型のリーダーシップが増強され、経験からの学習の習慣がつくというものである。(これについては既にこちらそちらあちらに書いた。)この会議を運営するコーチ(清宮普美代さんたちの日本アクションラーニング協会ではこの役目を「ALコーチ」と呼ぶ)のALコーチ養成コースでは、どういう種類の質問がこの会議のために役に立つかも繰り返し例示される。言い換えると、どんな質問でもいいわけではないのだ。
 他方、これとは別に、エドガー・シャインの『人を助けるとはどういうことか』では、支援を効果的に行うためには4種類の質問をうまく使い分けなければいけないという。
 そこで、質問会議で奨励される質問と、支援に役立つ質問の異同について考えてみる。シャインによれば支援者(例えばコンサルタントだがシャイン教授の本の冒頭にあるような、通りかかったドライバーに道を尋ねられた人も支援者に含まれるくらい広い意味)が支援の方法として選択できる質問の種類は、(1)純粋な質問、(2)診断的な質問、(3)対決的な質問、(4)プロセス指向の質問、の四つがある。質問会議で推奨される質問はこのうち(1)と(2)にほとんど重なっている。最初は(1)で始めて、様子を見ながら、またチームワークを使いながらおずおずと(2)に進むのである。(3)まで行くことはほとんどの場合推奨されない。つまり質問会議は、問題提示者(クライアント)とメンバー(支援者)の間で(1)と(2)の質問をし合い、互いにそれに答えていくうちにいろいろな可能性に気づいて学習がおこなわれ、問題解決に向かって何歩か前進するという仕掛けなのだ。
 それでは(4)はどうか? 実はそれこそがALコーチの役割なのである。質問会議ではプロセス指向の質問を定期的におこなう時間帯(開始後10分以内と40分以降)と台詞の指定がテンプレートとして設けてあり(これが定例介入)、さらに状況に応じて不定期に(4)の質問を発するのを「非定例介入」と呼んで、そのタイミングをみはからうのをALコーチの持つべき重要なスキルの一つと位置づけている。
 プロセス指向型の質問は、問題解決のコンテンツに全く入らない人「でも」可能であるどころか、私自身ここ一年以上学生や社会人の数十回の質問会議を経験したいまは、むしろプロセスに集中してコンテンツをあまり聞いていない人「のほうが」あっさりできることが多いとすら思う。ただ、メンバーと問題提示者とALコーチという三種類の分業を一人一役という形でおこなうことを義務づけるのは、実際に組織の中で日常的に使うためには制約的に過ぎるセッティングかと思われる。
 それよりも、質問会議によって質問力を鍛え「プロセス指向の質問」の効能を学んで、職場や学校や組織の一人一人が、例えばALコーチ役とメンバー役の一人二役くらいはこなせるようにならないと支援型のリーダーシップには至らないだろう。そのためには、例えばシャインの四つの質問の区別をALコーチ養成教材に採り入れることが有効ではないかと思われる。

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