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2010年5月26日 (水曜日)

フォローする(retweetする)というリーダーシップ

 ゼミの卒業生のK山さんが教えてくれたYouTubeの動画が非常に面白かった(最初の3分ほど)。twitter上で学生諸君や同僚の教員からすぐ反応があった。そのくらいインパクトがある。
 最初に踊り始めたnutsをleaderに変えたのは、二番目に踊り始めた人である。最初の人は少し頭が変で周囲を気にしないで(空気を読めず)踊り始めただけなので、そのままなら一人で踊り続けるだけなのだが、二番目の人は「これは面白そうだぞ」と自分でも踊ってみて、面白いと分かると仲間を手招きして集める。集められるのは(最初の人にはなかった)周囲への働きかけの(普通の)スキルと(ちょっとの)勇気があるからだ。対称的に、最初の人は周囲への積極的な働きかけのスキルはないし、自分のやっていること(最初に一人で踊り始めること)は、普通の人には勇気が要ることなのだという想像がつかないので、勇気を出したという自覚もない。しかしあの場で踊ると気持ちいいということは真っ先に分かって誰よりも先にたった一人で実行しただけなのである。
 教訓として、「誰でもリーダーになれる」というのは、誰でも最初に踊り出す人になれるという意味だとしたら普通の人には荷が重すぎてやや実効性を欠くが、二番目の人になるのもそれなりに勇気の要ることであり、この踊りが皆にとっても楽しそうだということを見抜き、自分でもやってみてから皆を巻き込んで、大勢で踊るようになるに至るには不可欠の役割を果たした。つまり二番目の人も立派にリーダーシップを発揮しているのだ。実は一番目の人はリーダーシップを発揮しているという自覚すらない。(だからこそなのだが)一番目の人は二番目の人がフォローしてきたとき(教祖様として振る舞うのではなく)対等に扱った。
 ここまでは動画の中でプレゼンしている人の言いたいであろうことをふくらませただけだが、さらに言えば、日本では周囲からの同化圧力が大変強いから、ちょっとの勇気を発揮して周囲を巻き込む二番目の人が大勢居ないとイノベーションが始まらない。一番目の人のような、ちょっと変わったことを一人で始めちゃう人は、nutsでもgeekでもnerdでもいいが、ある一定割合居る。それを広めたり組織化したりするには二番目の人が社会のあちこちにいなくてはならない。不足しているのはむしろこういう人たちだし、また二番目の人たちのスキルは学校でも開発可能である(school of 未来図の高橋俊之さんがチラッとtweetしていたのもこのことかな)。BLPでめざしているリーダーシップは実はここなのだというふうに授業で使ってみようかと考え始めた。リーダーシップ開発と言うとすぐエリート主義だとか生意気だとか「批判」する人が大学教員の中にもいまだに多いのでそれへの自然な反論にもなるかもしれない。
 もう一つ。二番目の人は一番目の人をある意味で「支援」している。一番目の人はあのままずっと一人で踊っていても全然苦痛ではなさそうなので、特に支援は必要なかったのかもしれないが、この踊りを広めるという目的に照らせば不可欠の支援であった(二番目の人が踊り始めると一番目の人が嫌がってやめてしまうといったことが起きるならさらに高度の支援技術が必要になる)。二番目の人を育てるということは、周囲の人をいつでも支援する構えがある人を育てるということである。これは「サーバント・リーダーシップ」と実は同じことだと思うが、実はサーバント・リーダーシップよりもわかりやすいのではないか(「奉仕」は「支配」に対置するために使ったのだろうと思うが、やはり意味が強すぎで、「支援」のほうが誤解は少なくて済む)。
 さらにもう一つ。個性重視教育やゆとり教育は、実は一番目の人を教育によって生み出そうという意図をもって始められたのかもしれない。でも一番目の人はどういう社会にも一定割合は居るものであり、また教育によっては生まれにくいものなのかもしれない。だとすると二番目の人つまり潜在的支援者を育てていくほうが、道は遠いようでいて実は効果的なイノベーション促進策なのではないだろうか。
 最後におまけ。一番目の人は二番目の人がフォローしてきたとき(教祖様として振る舞うのではなく)対等に扱った。この動画での一番目の人はリーダーとしての自覚がないのでそうしただけと思えるが、教祖様として、あるいは先駆者様として威張って応対していればあの後の展開はなかったかもしれない。実はこれもリーダーの心得として強調されることが多い点だが、これもリーダーは「支援される構え」がなくてはいけない、というふうにも翻訳できる。
 支援とリーダーシップの関係、それから踊りという比喩については近日中にまた書きたい。

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コメント

今日はSCHOOL OF 未来図のメンバーともこの話をしたんですが、とても共感していました。フォローするという言い方もありますが、First Supporterになるというのがしっくりくるという話になっていました。その重要なスキルとしてもう一つ。Supportするべきものを見極められることを上げたいと思います。

投稿: 高橋俊之 | 2010年5月28日 (金曜日) 14:38

ありがとうございます。

なるほど、最初のサポーター。確かにそのほうが正確ですね。実は「フォローする」はtwitterの(相手のtweetを、読者として)「フォローする」というボタンをクリックすることにかけていたんです。

サポートすべきものを見極める。どう見極めるかというと、グループとして結束できそうかどうかという面(配慮面の優先)と、グループとしてより高い成果を上げられそうかどうか(成果指向の優先)という面、両方あるのでしょうね。

投稿: ひがの | 2010年5月28日 (金曜日) 14:39

twitterで言うとRTが近いなと思いました。それで僕も日向野さんのツイートをtwitterでRTした次第です。

サポートすべきか見極める力と言っていたのは、実は僕は社会的局面をイメージしていました。間違ったもののサポートやフォローはパニックや悪法をつくりだしかねません。ネットはそれを増幅するおそれもあります。逆に声の小さなものでも拾うべきものを拾って増幅できる。実はフォロワー/サポーターは重要な役割になると思います。

投稿: 高橋俊之 | 2010年5月28日 (金曜日) 14:40

日向野さんの話に触発されて、日経BPNetの連載コラムで関連する記事を書いてみました。

「【55】日本代表がワールドカップで勝つための大?作戦」http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100527/228286/
よかったらごらんになってみてください。

何かをやろうとしている人たちをサポートする姿勢が今の日本にはもっと必要だという話を、ワールドカップサッカー日本代表の例を使って書いています。

投稿: 高橋俊之 | 2010年5月28日 (金曜日) 14:42

ここの話と動画を見て、「イノベーション(新しいと知覚されたアイディア/習慣/対象物)の普及」を思い出しました。イノベーションの普及にあたっては、採用者が正規分布に広がっていると考えられています。

採用の早い順から、
1.Innovators=革新的採用者(2.5%)
2.Early Adopters(オピニオンリーダー)=初期少数採用者(13.5%)
3.Early Majority=初期多数採用者(34%)
4.Late Majority=後期多数採用者(34%)
5.Laggards=伝統主義者、採用遅滞者(16%)
の5つに分けられます。
(3,4,5をFollowerと呼びます)

上記の5つのタイプと
(イノベーション採用者の累積度数分布曲線はS字カーブとなるので)S字カーブを比較してみると、Innovatorsとオピニオンリーダーを足したところが、
S字カーブが急激に上昇するラインと重なります。
その部分を超えると普及は自己維持的になるため、この部分をクリティカルマスとも呼びます。マーケティングなどでもよく使われる考えなのでご存知の方もいると思います。マーケティングの分野でオピニオンリーダーをいかに獲得するかが、なぜ重要とされるのかも分かると思います。

ここで議題にあがっていることは、(日本の)組織・チームの中でオピニオンリーダーに該当する人材をいかに育てるかということと似ていると思いました。

この辺りの分野では、初期採用者(1,2)と後期採用者(3,4,5=フォロワー)は人格およびコミュニケーション行動が異なることも示されているので、
何か参考になる事があるかもしれません。

面白いのは、そうした異類性(何らかの属性において異なっている度合い)があるからそ
普及が促進されるということです。
同類同士のコミュニケーションは社会的に水平方向のコミュニケーションでしかないので、
普及を促進する要因になりにくいからです。
(余談ですが、インターネットの登場によりこうした異類性同士の連結は容易になっていると言われています。twitterもまさにそうですね。私は使っておりませんが…)

ただし、オピニオンリーダーとフォロワーの異類性が大きくなり過ぎると、それはそれでオピニオンリーダーがうまく機能しないとされます。オピニオンリーダーとフォロワーは絶妙な距離感(弱い紐帯=weak tie)が必要なのです。

現状のBLPでは学年があがるにつれて多様性がなくなり同類性が高まっています。FirstSupporter(オピニオンリーダー)としての役割を実践する機会は少なくなってきていると言えます。

多様性が重要なのはこうした理由からも説明できそうです。

投稿: 三木 | 2010年6月 8日 (火曜日) 01:13

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