大学で何をしてきましたか?
ある三年生が「私、部活もサークルもやってないから、就活でゼミのことを話そうと思うんです。でも『ゼミではこれをやった』と短く言えないと困るので、どうしたらいいでしょうか」と相談に来ました。この学生は(とっても優秀な人です)「これをやった」という「これ」は例えば「マーケティング」とか「経営戦略」とかいった経営学の専門分野のことを考えていたようなのです。
特定の専門分野を答えなさいという意味だと、確かに日向野ゼミ生は少し困るかもしれません。「コンテンツは金融およびその関連トピック。運営はリーダーシップの実践と理論」って長すぎるし、その意味を説明するのに数分間かかっちゃいますから。
でも考えてみてください。特定の専門分野の名前を答えたとして、そのあと面接担当者とどういう会話が続くんでしょうか? 「マーケティング」と答えると「それは凄い」。「経営戦略」と答えると「おおブラボー」。「ファイナンス」と答えると「ワンダフル」。その後専門知識について高度なやりとりが続く・・・・そんなはずはありませんよね。仮に面接担当者が特定の専門分野の知識を試したいのであれば、筆記試験をするか、大学のその科目の成績を見ればいいはずです。そうではなくて、面接担当者はあなたの答えっぷりを見たいのです。知っていることを平易に明確に自分の言葉で話せるか、知らないことは悪びれず知らないと言えるか、相手(面接担当者)の反応を見ながら面白い話題に発展させることができるかどうか。
言い換えると、「何をしてきましたか?」は単にあなたの話を引き出すきっかけとしてボールを投げてきているだけのことなので、どう投げ返すかはあなたの自由。むしろそこに創意工夫のしがいがあるんです。科目の名前や専門分野の名前を答える必要はないんです。
もうお分かりだと思いますが、「何をしてきましたか?」は三年間これをした・あれをしたという事実のリストそのものではなく、三年間に対するあなたの振り返りを要求した問いなのです。振り返りの方法に個性を発揮してください。個性を発揮するのだとしたら、振り返る対象が、必ずしも特定の専攻分野の名前やサークル名である必要もないわけです。いろんなことをやってきたけれども「自分なりに」それを総括するとこういうことだったんだ、という振り返りが期待されているのです。その意味では、専攻分野名を答えて済まそうとするのは、「自分なりの振り返りをしてみせる機会」を捨てるようなものです。
立教大学経営学部の三年生へ。「何をしてきましたか?」に対して「リーダーシップについて経験し考えてきました」とか「リーダーシップ開発でした」等と答えると担当者の「食いつき」は、他の専門分野名を答えた場合よりも良いことが多いかもしれません。でも「食いつく」ってことはその後が肝心なので、うっかりしていれば「食いちぎられて」しまいます。予め経営学部の教育への理解がある担当者なら別として(そういう人はまだ少ないです)、「へえ大学の教室でリーダーシップなんて教われるものなのかね」という反応や、「リーダーシップ? 新入社員にそんなものは要らないよ」という誤解に基づく反応も覚悟していおいてください。そういった疑念や誤解をあなた自身の経験と考えに基づいて解消してあげられれば、それは「何をしてきましたか」に対する、充分に印象的で個性的な回答になります。
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