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2008年2月28日 (木曜日)

下からのリーダーシップ

『金融ジャーナル』という業界誌から執筆依頼があった。同誌には数年にいっぺん、こちらが忘れた頃に依頼をいただいて、そのとき考えていることを書かせてもらってきた。この頃金融よりもリーダーシップのほうばかり読んだり書いたりしているので、依頼メールをいただいたときにも、件名と差出人を見て、急ぎならばこれはお断りしたほうがいいかなと思ったのだが、メールを開けてみると組織活性化の特集らしいのでリーダーシップの話でよい由。そこで概略以下のようなことを書こうと思っている。「空気を読む」については前にもここに書いたし、教室ではいつも話していることではある。

「組織の活性化」に効くのは「下位の者もリーダーシップを発揮しやすい」ことではないか。然るに若い人たちの間では同位の者の間であってすらリーダーシップをとることを恐れる傾向があるように思えてしかたない。若い人の間で「あいつは空気が読めない」という言い方が流行するようになってから、はや5年は経っている。その後いっこうに衰える気配はなく、「KY」という略語までできるほど定着しているようだ。(ついでに、コミュニケーション能力という言葉すら、もともとはもちろん違うが、若者の間では「空気を読む能力」と似た意味で使われているような気がする。聞き違いだろうか?)「空気を読む」こと自体を最重視すると、空気を壊したり変えたりすることに慎重になりやすい。空気を変えたほうがいいのだと自分で確信できる場合には転換を提案できるのだが、確信を持てないときには提案しづらくなるからである。特に、空気を読むことに失敗した者が厳しく罰せられるような組織やグループでは、空気を変えるような提案はとてもリスクが高い。安全に空気を変えられるのは「笑いをとる」場合ぐらいになる。笑いをとるのに失敗した(「すべった」)場合でも、空気を読むのに失敗した場合ほどには罰せられない。笑いがふさわしくない状況もあるだろうが、それを読むのも「空気を読む」うちであるから、やはり最優先されているのは「空気を読む」ことなのである。

 これはリーダーシップが不足している一つの典型的な状況である。チームや組織としての成果への指向をリーダーシップのP要素(performance)と呼ぼう。これに対して人間関係の維持への指向をリーダーシップのM要素(maintenance)と呼ぶ。このPとMがリーダーシップの二大要素である。PとMは一人の人が兼備している必要はなく、分担されていて構わない。その要素が充分にある場合は大文字で、不足している場合は小文字で表すとすると、PMは両要素とも充分にある状態で成果もあがるし人間関係も良好である。pmは両方とも不足している場合であるから成果もあがらないし人間関係も悪い。空気を読み合うばかりのチームは pMすなわち成果よりも人間関係が重視されている状態に相当する。pMなチームを作ってしまうようなメンバーは上位の者に対してリーダーシップを発揮することなど思いも寄らないだろう。

 下位の者が上位の者や顧客に提案できるようにするには、上位の者にもそれを歓迎する(下克上である等ととらえない)姿勢が必要であることはもちろんだが、下位の者にも入社当初から習慣化することが大切である。幹部候補生になってからの「リーダー研修」では手遅れではなかろうか。

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