金融入門の入門 第1章の1 現金で支払う
2004年初に『南君の金融日誌〜居酒屋物語で金融入門』を刊行しました。『南君の金融日誌』はコーポレートガバナンスと企業金融の物語風入門書ですので、例にとっているのは、自営業から始まって成長して上場するに至るプチエコーという「企業の」資金繰りや金融やガバナンスでした。
これから展開する今度のシリーズは消費者の例から始めます。その意味では若い読者にとっては前著よりさらに平易で、高校生にも分かるはずです。しかしそれだけではなく、企業と政府と銀行などを消費者との比較で結局は均等に扱っており、またマクロ経済学の準備という面も持っています。
ウェブサイトの方のカテゴリでは、4の「金融とgovernance」に入ります。また、4aというサブカテゴリを設けて、このシリーズだけ取り出して表示できるようにしました。一回分800~1200字くらいで、印刷しないで画面上で読むのが苦にならないようにします。順調に行けば全80回くらいの予定です。
では始まり始まり。金融は字義から見ると資金を融通することです。では資金とは何でしょう? 融通というのは何をどのようにすることなのでしょうか?
この質問に答えるには、支払いや現金(キャッシュ)や貨幣の意味から入るのが実は近道です。皆さんが日常生活で行う支払いには、まず紙幣や硬貨を使った支払いがあります。買い物で普通に現金払いする場合のことです。
当たり前過ぎて疑問もないかもしれませんが、ではちょっと見方を変えてみましょう。外国の紙幣や硬貨を日本国内で使えるでしょうか? 普通は断られてしまいます。国際線の発着するような空港の売店であっても外貨をそのままでは使えません(外貨と円の両替をする店はあるので、そこで円に両替してから来てくれと言われるでしょう)。
これは日本国内の支払いについては、円以外で払おうとしても受け取らなくてよいと法律に定めているからです(法定通貨としての円)。外貨で払おうとすると相手は拒否できるのです(拒否しない自由もあります。しかし選択権は相手にあります)。逆に、円の現金で払う場合、相手は拒否できません。つまり円を渡したのに相手が「まだ支払いは済んでいない」と主張することはできません。
これはちょうど、友人間で物を売買するときに、代金として現金ではなく手持ちの本をあげるから代金を払ったことにしよう、と持ちかけた場合と似ています。相手がそれでいいと言ってくれればいいのですが、イヤだと拒否されれば、円を渡すか、相手がいいと言うものを渡さねば支払いが済んだことにはなりません。
このように、日本国内では円の現金には特別の通用力があり(一般的受容性がある、とも言います)、円の現金で払う代わりに外貨や物で払おうとしても、相手にはそうした支払いを拒否する権利があり、その権利を法律が保護する(もめた時に訴訟になれば裁判で勝てる)ということです。もちろん、外国であればその国の国内通貨が同様の力を持ちます。(第1回終わり)
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コメント
お久しぶりです。
金融入門、とてもわかりやすかったです。
文章もweb上で読むにはちょうど良い感じですね。
自分もいま
「難解な事柄をいかに簡単な言葉で伝えるか」を
日々追求しております。
投稿: 物井 | 2006年11月25日 (土曜日) 16:45
物井君、お久しぶり。「難解な事柄を簡単な言葉で伝える」はプロのプロたる所以らしいですが、その上に「楽しく」が加われば鬼に金棒でしょうね。そうだ、この連載でも写真を使うことにします。
投稿: 日向野幹也 | 2006年11月25日 (土曜日) 20:46