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2006年10月11日 (水曜日)

「金融」の意味〜メルマガ55号

学生や若い人たちの起業・事業計画コンテストで何度か審査員を経験しました。審査員には大学の教員はどちらかと言えば少数派で、ベンチャー起業家や経営コンサルタント、さらに投資家、場合によってはヘッドハンターや人材派遣業界の方々が入っていることが少なくないようです。

審査の過程で質疑応答があったり、審査員同士で議論するなかで、こうした同僚審査員たちの使う「金融」という言葉が、大学で教える「金融論」よりもっと広いことを指しているようなので、今回はこれについて解説しましょう。

金融論で言う金融は、資金を融通するという字義から、資金調達や資金運用のことを指し、金融(サービス)業と言えば、こうした資金調達や資金運用を手伝うサービス業のことを言います。例えば銀行などの金融機関はもちろん、証券会社や投資顧問は当然含まれますし、リース・クレジット会社も入ります。

これに対して、企業金融論やベンチャーファイナンス論では、対象が個別の事業会社になり、金融の中味をもっと具体的に見るせいで、その企業に入ってくるキャッシュ、出て行くキャッシュの前後関係や大小関係、つまり資金繰りも見ます。入ってくるキャッシュの多くは「売り上げ」ですから、ある事業(企業)を始めるときに、売り上げに不確定性が特に強いときには「この事業は金融が弱い」と言うこともあります。これは銀行から資金を借りる交渉力が弱いとか、株式市場で知名度が低いといったことを意味するとは限らないわけです。

別の言い方をすると、外部から資金を調達する(借り入れや証券発行を行う)が弱いことばかりではなく、事業本体から入ってくるキャッシュが不安定である場合も「金融が弱い」と表現するのです。また、売り上げが不確実な場合だけでなく、支払いなどキャッシュの流出が恒常的に多かったり突発的に増えることがよくある場合も、同じように「金融が弱い」ことになります。

新規事業を行うかどうかを企業自身が判断したり、投資家がその事業や企業に出資するかどうかを判断する場合に、「金融が弱い」ことは大きなマイナスです。また、既存事業を続けるかどうかを判断する場合も同様です。

ここ数年でしょうか、大変流行している学生事業計画コンテストのような場合に、こうした金融面まで詳しく踏み込んで計画しているものは実は少ないのですが、もしも資金繰りが全然続きそうにないような計画は実現可能性が低いので高い評価は得にくいでしょう。「金融」の他に、「法律に違反していないかどうか」などが、採点欄の「プロジェクトの実現可能性」の主要部分になると言っていいでしょう。

なお、「金融」は事業計画や実績報告の中で最も数値化しやすい部分なので、逆に、上のような意味での「金融」分析の訓練を受けた人たち(典型的には米国流MBA)は、事業の性格や内容を把握せずにこうした数字だけを見て事業を評価したりリストラを行ったりしてしまうという批判もあります。こうした批判に関連して、最近の翻訳の出たミンツバーグ著『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP)は大変面白い本です。

(以上は日本評論社発行の『経済・金融メルマガ』でも配信しました。毎月一回発行の同メルマガのお申し込みはこちらからどうぞ。)

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