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2006年8月29日 (火曜日)

ナビゲータとしての速度制限標識

8/24の日経に、カーナビを使って制限速度を守るようドライバーに警告するシステムの導入を警察庁が「決めた」と書いてあった。本当だろうか? 他の新聞で類似の記事がないようだが、これが日経のスクープなのか勇み足なのかは分からない。私は地図(と辞書)を見るのが好きなせいもあって、自分の車にはカーナビはまだ付けていないのだが、それでもこの記事が真実ならば、かなり論議を呼ぶだろうと見当はつく。

記事によれば、車一台一台のスピードを道路脇のセンサーで測定して、その道路の制限速度を超えている車には信号を送り、カーナビの画面と音声で警告する、ということだそうだが、要するにレーダーの判定結果をカーナビに受信させるということだろう。都内の幹線道路でテストして全国に広げる計画なのだそうだ。

反発の第一として、まず、カーナビはドライバが自費で購入しているものなので、そこに受信したくない信号が入ってくるのを歓迎しない向きがあるだろう。カーナビメーカーが「警察からのお知らせ」をドライバーが受信するかどうか選べるようにするかどうかで微妙な判断もありそうだ。一昔前まで、国産自動車メーカーが速度計が100km/hを超えるとキンコンとうるさく鳴り続けるチャイムのアラームを付けていたのが、ユーザのあまりの不評のためか(あるいは不評に対して警察も渋々認めざるを得なかったのか)どこも付けなくなった経緯を思い出させるところもある(増え続ける輸入車にはもちろん付いていなかった)。

次に、レーダーの判定結果とカーナビがリンクしたら、速度だけではなくて、どの車がどこをいつ走っているか警察に分かってしまい、とんでもないプライバシー侵害になるのではないかと危惧する向きもあるだろう。もしカーナビ側にユーザの知らない間に密かに車台番号を「送信」する機能があったら、Big brotherたちが国民の移動情報を逐一把握する手助けになるから怪しからんことになる。現在でも主要道にはカメラが設置してあって警察がその気になれば通行している車のナンバーを全部把握できるという説は(真偽のほどは分からないが)、オウム真理教や過激派の捜査のときに、なぜか幹線道路をいつ彼らの車が通過したか写真かビデオかで公安警察が把握できたようなので、にわかに信憑性を得た見方である。

二つのうち、第一の反発は年代を問わず共有されそうである。特に若い人の反発はこのタイプに集中するだろう。第二の反対は40歳台以上に根強く、団塊世代に至って最高潮に達するだろう。中高年のおじさんたちに交通警察の悪口を言わせれば、盛り上がってしまって、止まらないのである。

ただ、今日申し上げたいのは上の二つのどちらでもない。問題にしたいのは速度制限自体の信頼性である。だいぶ前にドイツの田舎をドライブしたことがあった。Autobahnで床いっぱいまで踏んで高速走行してきた後だったが、村の手前で「20」という標識があったので半信半疑ながら20kmに速度を落とした。ここまでは日本でも普通にあることだろう。ところが村の中をノロノロと通過すると、驚いたことに、村はずれにいきなり「100」と書いてある! 次の村までの道は、見通しはいいがさして広くもない一車線ずつの一般道だったのに、村を出たとたん、一般道で速度制限100kmである。日本ならどんな状況であっても地方一般道だから「40」と書いてあるだろう。ドイツの交通モードが速いといいたいのではない。20kmと100kmのコントラストによって、ドイツ交通警察はドライバーの信頼と納得を勝ち取っているのである。同じことは米国でも起きる。"Reduce speed"と書いてあったら本当に減速しないと自分が危ないのである。合流があるとか、文字通りの急なカーブがあるとか、大きなコブbumpがあるとか、本当に減速しないと危ないところにしか"Reduce speed"と書いてないのである。欧米の道路を運転しているとき、いわば速度制限標識こそは、頼りになるナビゲータ、そう、カーナビなのである。

日本では高速道路にはのべつまくなしに「速度を落とせ」と書いてある。そうすることによって警察はドライバーの信頼と納得を手離し、敵意と不信を得ているのである。というより、交通事故を減らすために規制を行うのであれば、規制に対するドライバーからの信頼が大切だということ、そうした信頼が速度制限の設置のしかたに左右されるということに気づいていないか、気づきたくないのであろう。法律にこう書いてはあるが実効性のないものということは交通に限らず時々はあるが、日本の速度制限は常に空文だとドライバーには観念されていて、だからこそ、たまたま取り締まりでつかまればドライバーは運が悪いと思うだけなのである。

日本の速度制限標識も優秀なナビゲータであってほしい。しかし現状の速度制限標識は、初期のカーナビが現在走行地点を海や川の上であると表示してしまうことがあったのと同じくらいに、情報価値が低く、運転の参考にならない。カーナビに速度制限を受信させること自体に対しては、国家権力の介入だの個人の自由の侵害だのと言うつもりはない。実情に応じたきめ細かい信頼に値する速度制限の改訂を行っていただいて、私が将来装備するであろうカーナビでぜひ受信したいものだと思う。

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06. 技術・経済・社会」カテゴリの記事

コメント

winistと申します。
突然ですが、同記事に感銘して、誠に勝手ながらブログで引用させていただきましたのでお知らせします。

何か問題がありましたらお知らせください。

投稿: winist | 2007年5月15日 (火曜日) 00:00

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