証券会社も銀行代理店〜メルマガ第54号
最近金融から離れた話題が続いていたのですが、このメルマガでも何度も取り上げてきた銀行代理店に先週新しい動きがありましたので今月はこれについて書きます。流通業や銀行ではなく、証券会社が第一号として登場します。野村證券が銀行代理店として預金を扱うサービスを9月4日から開始するとの発表がありました。(日経記事はこちら)
野村證券は、グループ企業の野村信託銀行の代理店として、預金サービスを提供し(預金を受け付け)ます。これによって顧客は投資信託を解約したり株を売ったりした代金を普通預金や定期預金として持てることになります。証券会社が、このように実質的に決済機能のある口座を提供することは、相当昔からの念願だったはずです。最近では銀行が投資信託の販売を窓口で行っており、今回証券会社が銀行の代理店となって預金サービスを間接的に提供するのはその意味では逆方向の参入とも言えるでしょう。
銀行代理店としては先発組のセブン銀行は、店舗はセブンイレブンとイトーヨーカドー店内にしかありませんが、銀行としての免許は既に持っているので、「銀行以外の企業が」銀行代理店を始めるケースとしてはこの野村證券が最初です(セブン銀行は、自らも銀行でありながら、銀行代理店として「他の銀行の」金融商品を販売するので、「一般企業」による銀行代理店開業ではないわけです)。
野村證券の銀行代理業務開始は、他の証券会社や金融サービス関係の企業に与える刺激として影響を与えるでしょう。その影響は単に他の証券会社が野村證券の真似をするというのにとどまりません。例えば小さな金融機関が全ての金融商品を無理してフルセットで製造販売するか諦めるかという二者択一ではなく、自社で内生するか、それとも(代理店として)他から仕入れて供給するか、柔軟に選べるようになります。あるいは何か独自の商品を開発した金融機関・金融サービス企業は自ら販路(支店網)を持たなくても代理店に売ってもらうという選択肢が加わることになります。
こうした分業は他の産業であれば昔から行われていることですが、金融・証券・保険に関しては、ユーザ(預金者・契約者・投資家)保護のための規制(副業をしてはいけない等)の副作用で今まで部分的にしか実現してきませんでした。代理店制度は、この副作用を抑えつつ、ユーザの利便性と金融サービス企業の経営の自由度を高めるための工夫でもあります。
このように、良いことの多い銀行代理店制度ですが、販売される金融商品の内容が正確にユーザに伝わるように代理店は説明義務を負うことになります。代理店は販売によって手数料を得ますし、その商品を揃えることで本業との間に相乗効果を期待しているわけですから、きちんと規制が確立されていないと不正を行なってしまう誘惑があります。説明義務を明確にしておかないと不正や事故がおきかねない点では直売の場合と程度の差です。将来、株式市場や外国為替市場に大きな変動があって元本割れの投資信託が出たりしたときに、年金の足しにと思って投資信託を買っていた高齢者から「銀行が薦めているから大丈夫だと思った」等の苦情が出ることが危惧されます。
(以上は日本評論社発行の『経済・金融メルマガ』でも配信しました。毎月一回発行の同メルマガのお申し込みはこちらからどうぞ。)
| 固定リンク
「04. 金融とgovernance」カテゴリの記事
- 企業の不払いと倒産(金融入門の入門1-8)(2008.11.12)
- 資金繰りとキャッシュフロー(金融入門の入門1-7)(2008.11.05)
- 企業の支払・受取・キャッシュフロー(金融入門の入門1-6)(2008.11.01)
- 個人が不払いを起こすと何がどうなるか(金融入門の入門第1章の5)(2008.10.30)
- 『貯蓄から投資へ』の今昔(続き)(2007.05.20)
「11. Mail magazine」カテゴリの記事
- Pasmo(2007.03.31)
- メルマガの刷新(2006.11.23)
- イタリア国鉄乗客の「動線」〜メルマガ57号(2006.11.17)
- 再びTescoへ〜メルマガ56号(2006.11.09)
- セントルイス訪問〜金融メルマガ第43号(2005.10.01)
コメント