なぜリーダーシップなのか〜メルマガ第53号
5月から7月まで三回に渡って「怒濤の新学期」と題して、大学一年生に対して行った新しい基礎ゼミの試みを詳しく紹介しました。これのどこが金融なんだ? どこが経済なんだ?と訝しむ向きもあろうかと思います。が、この基礎ゼミの一つの目標であったリーダーシップの涵養は、いまや企業研修でも最重要の課題の一つのようです。
これまでの企業のリーダー研修の主流は、いわゆる幹部候補生に対して行われる、将来経営陣に加わるための準備と選抜を兼ねたものや、既に管理職にある人に対してリーダーはいかにあるべきかを研修で教えるといったものでした。どちらにしても、誰か上位の人に任命されるリーダー(appointed leader)を対象とした研修だったのです。
任命されるリーダーは権限(予算・評価・部下の人事など)を与えられるのが普通ですから、そうしたリーダーの発揮するリーダーシップは権限を背景にしています。つまりそのリーダーに従わなければ、良い評価をもらえない・昇進できない等の睨みが利いているわけです。
他方、権限を持っているわけではないのに、いろいろな団体やグループの中で(単に幹事や事務方というのではなく)リーダー格の人というのは確かに居ます。そういう人は、人柄や知識・技能やビジョンで他の人たちを引っ張っているわけなので、その意味では真のリーダーとも言えましょう。
企業や官庁などにおいて任命によってリーダーになった人が、地域社会や趣味の団体など全く別の場面でもリーダーになるとは限りません。神戸大の金井教授の痛烈な表現を借りると「会社では名部長と言われたのに、自治会長としてはだめだった人は、リーダーシップという点では反省したほうがいい」し、「『町内会の祭りといえば、みんなあの八百屋のおやじの言うことを聞くんだよな』という状態であれば、より純然たる自然発生的リーダーという点ではこの八百屋の店主にも入門したほうがいい」(金井著『リーダーシップ入門』日経文庫)のでしょう。
リーダーシップという現象が、どのように自然発生してくるかというのはそれ自体解明の価値のある問題ですが、それと同時に、リーダーシップは育てられるものなのか、育てられるとしたらどうすればよいかというも重大な問題です。
特に、権限によってリーダーになっている人や、選挙によってリーダーになった人たちのリーダーシップなるものが、自然発生的なリーダーたちのそれに比べて著しく見劣りするような社会、あるいは言い方を変えれば、自然発生的なリーダーになれる人材が、それにふさわしい権限や地位を与えられることが少ない組織や社会というのは、人材登用の面で大いに問題があるのではないでしょうか。だとすれば企業の研修を待たず、大学やそれ以前の若いうちから(幹部候補生を選考するのではなく)誰でもリーダーになれるかもしれないと励まして、リーダーシップを磨く機会を与え続けるのは理にかなったことではないかと思えます。
さらに言えば、「リーダーシップを磨く」ことの中には、人間関係だけではなくて、チームやクラスをどこへリードしていくかについて、調べたり考えたりした上でビジョンや戦略を形成し、プレゼンテーションや説得によって協力してもらうことが含まれているので、読む・書く・話す・聞くといった基礎的な訓練を一緒に行うこともできます。言い換えると、リーダーシップ涵養というキーによって、大学生に必要な基礎的な学力の相当部分を統合できるのではないかとすら考えられるのです。
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