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2006年3月31日 (金曜日)

アメリカ流・日本流〜メルマガ49号

異文化経営学会第10回研究会の懇親会で偶然お会いした中村健一さんにご著書をいただきました。『ビジネスに日本流、アメリカ流はない〜グローバルマネジャー入門』(東洋経済新報社)。これはとても面白い本です。中村さんは建設機械の小松製作所に就職し、三十代半ばで渡米して以来、米国法人コマツアメリカなどで滞米25年間、現地で建設機械を売り続けてきました。米国人ばかりの現地法人や販売代理店に囲まれて、すごく日本流と異なるかにみえる商売や組織のあり方や米国人気質に、苦労したり苦労の甲斐あって報われたりする様子が活写されています。

余談ですが、中村さんは学会の発表でフロアから発言されたとき、「シカゴにいてコンサルタントをしております」と自己紹介なさり、コマツのコの字も出されませんでした。会の後の懇親会で名刺を交換したときにもそのことには触れず、後で本を送ってくださったときに初めてそういうご経歴の方と知り、驚きました。さらに本を読み始めてその内容の濃さに二度びっくりした次第です。

特に傑作な一例をご紹介すると、「ノープロブレムはプロブレム」(第二章)
 
"No problem!"は、ビジネスではなく旅行や買い物でもよく聞きます。No problemと言われて安心していると実はちっとも安心できる状況ではなかったことが判明するのもまたしょっちゅうです。中村さんはNo problemは日本語の「何とかなるさ」に近く、また、No problemと言っておかないと自分が問題を放置したとして責められるから自己防衛のために言っているのではないかと言います。

さらに、No problemと言い張りがちな部下に対しては「problemは何かと聞かずに、裏返してopportunityは何かと聞くと、問題点を話し始めることがある。そして、一緒にそのopportunityを追求しようと言えば、心を開いていろいろ出してきてくれる。最初から『問題は何か』と聞くとアメリカ人は身構えるのである。」

これなどは今読むと、そうだったのか!と気づかされますね。そう言えば時々目撃したことのある「What is the problem with you!?」はやっぱり「あんた、どうかしてるんじゃないのか」という、かなり強い意味だったんだなとも類推できます。

他に「アメリカ人は本当にアバウトか」「反省しない?アメリカ人」など、ビジネスに限らない面白い米国人論が満載です。しかし日米はこんなに違うという対比の反面、どちらでも通じる共通の面は何かという意識を常に持って書かれている点が素晴らしいと思います。まさに「日本流、アメリカ流はない」を地で行っています。

ところで、「直列で仕事をするアメリカ人」という節(p.99)があり、これはリーダーシップ論との関係で非常に興味深いものでした。中村さんは日本のコマツで、管理職にあるとき「極秘情報でない限りオペレーションに関する情報は自分の意見、アクション依頼などのコメントをつけて関聨部門に必ず回すようにしていた。そして事後も担当者を呼んで中身を議論したり、やり方を確認・教えたりしている・・・(中略)その方が仕事の迅速化、スムーズ化が図られると思うのだが、アメリカ人はどうもこの情報開示をあまりしないところがあるようである。したがって、私がいくら情報を開示しても、彼らがあまり下とはコミュニケーションをとっていないところがある。アメリカ人は自分のところにきた情報はどうも『自分の財産』と考えているところがある」。

これで私が思い出したのはAllan Bird教授の講演にあった「デジタル時代のリーダー」です。この講演については1月にウェブサイトにも書きました。
Knowledge is power.

組織の中で自分のところに来た情報を自分の財産と考えて使えば、それも悪い意味で「知識は力」の一つのパターンになります。Bird教授は、そうではなく、情報を同僚たちと共有することに腐心するのがデジタル時代のリーダーだと言うのですが、これは、中村さんがコマツでそう教えられてきたように、日本の昔からの良き中間管理職のやってきたことではないのでしょうか。もしそうだとすると、アメリカ発の新しいhorizontal leader論というのは、実は日本企業が昔からやっていたことを、デジタルの装いでアメリカから発信しているのに過ぎないということにはならないでしょうか。

こんなふうにいろいろなことに気づかせてくれる本でした。

第49号・完

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