« OVAL 2006 | トップページ | アメリカ流・日本流〜メルマガ49号 »

2006年2月28日 (火曜日)

公告の情報価値〜メルマガ48号

金融メールマガジンは今月号で48号です。経済セミナーの連載と並行して創刊した頃からちょうど四年になります。四年前といえばちょうどソルトレークの冬季五輪の頃だったはずですね。ついこの前だったような気もしますが、南君の金融日誌に近い話題で言えば、会社法は怒濤の改正が相次ぎましたし、居酒屋業界も今までにも増して変化が著しく、最近はまた景気回復で形態の多様化が進んでいるように思えます。さらに、私の職場の属する大学業界も、海外を含んだ大競争時代に入ってきました。そこで、「金融メルマガ」はこの際カバーする範囲を金融・居酒屋・会社法などを含んでより広く経済・経営・大学教育などに拡大し、来月の通算49号からは「金融・経済メルマガ」と改称してお届けすることにしました。また、メールでの配信とほぼ同時にこのウェブサイトにも載せることになりました。(そのコンテンツを見るには、メール配信で見る、ウェブサイト上で見る、RSSリーダーで見る、この3つの方法があることになります。)最新のメルマガのお申し込みは従来通りこちらからどうぞ。

今回は日本経済新聞社社員のインサイダー取引疑惑についてです。


日経の社内調査によると「日本経済新聞社東京本社広告局の社員が今年2月までの数カ月間、日経新聞に掲載される上場企業の株式分割などの法定公告の掲載前後にこの会社の株式を売買、利益を得ていた」ということで、これが証券取引法のインサイダー取引(「南君の金融日誌」第11章)にあたる疑いがあります。

米国でも経済新聞の記者がインサイダー取引で逮捕されることは過去にもあり、その意味では特異な事件というわけではありません。が、目を引いたのは日経側の素早い対応です。

紙面で見る限り、この種の事件で少し前までよく見られた「個人の暴走であって組織ぐるみではない」云々の言い訳はなく、経営責任を認め、役員報酬のカットなどを含む処分を決めています。この対応ぶりは一般企業ではむしろ当たり前になってきていますが、新聞・テレビなどのマスコミではまだ当たり前になってはいません。特に放送局や日刊新聞大手はこの点は遅れている感があります。

それだけに日経の対応はマスコミ大手としては画期的と言っていいと思いますが、これはとりもなおさず、新聞の読者個人個人が「自分の勤める会社でインサイダー取引があったら、経営者はこのように行動してほしいものだ」と思うであろう方向に日経新聞社自身が舵を切ったということでもあるでしょう。「うちの社長がこんなことしたら困るなあ」という行動を毎朝読む日経の経営陣がとってしまっては顧客満足ならぬ読者満足は得られず、新聞の売れ行きにも影響しかねません。消費者の信頼が一度壊れると企業価値が酷く毀損されることは、最近十年の日本で数多く見られました。

もう一つには、この事件が単にインサイダー取引であるばかりではなく、その情報源が、法定公告が紙面に載る前のいわば原稿であったので、法律に定められた公的な役割を悪用して利益を図ったことにもなり、その意味でも読者の怒りと不信が強いことが予想されます。また、対応が不適切であれば公告の掲載先としての特権も危うくなることもないとは言えません。考えてみれば、政府による広報活動でさえインターネットに相当の比重がおかれるようになってきたこの時代に、新聞による独占的(寡占的)公告という制度自体が、既に時代遅れなのかもしれません。

日向野幹也

|

« OVAL 2006 | トップページ | アメリカ流・日本流〜メルマガ49号 »

06. 技術・経済・社会」カテゴリの記事

11. Mail magazine」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« OVAL 2006 | トップページ | アメリカ流・日本流〜メルマガ49号 »