セントルイス訪問〜金融メルマガ第43号
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【金融メールマガジン 第43号】
日向野幹也(立教大学経営学部開設準備室/
社会学部産業関係学科教授)
url: http://www.mhigano.com
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いま米国に出張中ですので、今回の金融メルマガは特番で現地レポートです。勤務先の大学と米国の大学との交換留学の交渉と、あとは米国の大学の経済・経営系授業の見学が目的です。ビジネススクールのような大学院で何をやっているかというのは日本でもよく紹介されていきたのですが、学部レベルがどうなのかはあまり情報が入ってこないので、見学・取材に来たわけです。
最初の訪問はセントルイス州立大学ミズーリ校。ここのCollege of BusinessがU.S. News and World Reportという有名な雑誌の企画するBest 10 Undergraduate Businessに入ったそうで、上り調子のようです
。
MBAに力を入れる大学は多いのですが、学部教育の方は手薄なところが多いと睨んで差別化を狙った成果であると言う人もいました。
シカゴ乗り換えでセントルイスに着き、翌朝8時半から夜9時半まで、授業見学やランチやミーティングがぎっしり30分刻みで用意入っています。授業見学は既に3つさせてもらいました(あと2つ予定があって、セントルイスでは合計5つです)。
意外なことに、3つとも、プロジェクタやOHPは全然使わずに、テキストと黒板と話だけというchalk and talkの授業でした。ゼミ室(リーダーシップ論、大学院と合同)、50人の教室(1年生の経済学入門)、100人の階段教室(2年生以上の経済学)がその3つですが、3つともそうなのです。しかも3つとも、先生方の話術が巧みであるうえに、ゼミ形式、小教室はもちろんのこと、100人の授業でchalk and talkであっても双方向に授業が進められていました。
これは先生方の力量によるところが大きいのでしょうが、学生の方も違います。行儀は悪い(ガムや帽子はあたりまえで、座席での立て膝もよくある)ですが、私語は全然ありません。先生が促したときもそうですが、そうでなくときもよく手が上がります。特に100人の授業(経済学)では、発言した学生に点数をあげているといったインセンティブはまったくないのですが、我も我もという感じでした。黙って先生の話を一時間半聞いている苦痛と、変な発言をしてしまうリスクはあるが発言して授業に「参加」してみる楽しみと比べて、後者をとってみる学生が多いのかも。
一時間半と言えば、学期制ですから、この大学では一週間に150分授業があって3単位(日本流の数え方だと4単位)になり、150分の内訳は50分を週3回、というクラス、75分を2回というクラス、それに150分を週1回という3つのパターンがあります。150分の場合は夜に設定される場合が大半で、19-2130です。週3回ですと月水金の三日になりますが、これはこの大学の学生の事情で敬遠されることが多いと聞きました。
その事情というのは、労働者階級working class出身の学生が多く、貧しいので学生が皆part-time jobやfull-time jobを持っているために大学に来る日数を減らしたいようで、特に金曜は人手不足になるため求人が多いので月水金のクラスは人気がないというのです。
ミズーリ州立で州の予算を使っていますから、私立に比べると授業料は若干安く、特に州内出身者は授業料が三分の一(約100万円。これで日本の私立大と同じくらいですね)になるそうです。それでも貧しい家庭では多くの援助を期待できませんから学生が働かざるを得ないのでしょう。
このことは授業の進め方にも影響が若干あるようです。単に宿題を出すだけならば学生が自分の時間を見つけてこなせばいいのですけれど、学生同士のグループで調査するような授業法は、学生同士の都合が全然合わないことが多くて実現が難しいことがよくあり、結局自分の分担をこなさずにただ乗りする学生がいます。
そういう学生と同じグループになると他のメンバーが結局は他人の分まで仕事をせねばならず、それで同じ成績なのは納得がいかないという不平が多く出るそうです。
実は立教大学で来年度発足する経営学部の中のコア科目のBusiness Leadership Programでもグループでの調査や研究を中心にする計画なので、そういう不平が出ないようにするにはどういう工夫をしたらいいかについていろいろヒントをいただいたり、議論して新しいことを思いついたり、かなり有益な時間を過ごせました。
今日は初めて夜のスケジュールが空いたので、St. Louis Cardinals対 ChicagoCubsの試合を見に行きました。田口選手は2安打1盗塁でしたが、得点にはならず、3番Pujolsの1発だけで1対2で負けてしまいました。クラシックのコンサートやオペラでの経験と同じく、隣席の人とはその場限りであっても仲良くして共に楽しもうという暗黙の約束がある点は野球でも同じでした。
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