University of Missouri St. Louis
超多忙だったセントルイスからニューヨークに移動してこれを書いています。今回の出張は、立教大と米国のいくつかの大学との提携の交渉と、あとは米国の大学の経済・経営系授業の見学が目的です。ビジネススクールのような大学院で何をやっているかというのは日本でもよく紹介されていますが、学部レベルがどうなのかはあまり情報が入ってこないので、見学・取材に来たわけです。
最初の訪問はミズーリ州立大学セントルイス校です。写真は2000年頃にできた学生センターですが、キャンパス全体は緑の多いところで、元々はゴルフ場だったそうで、なだらかな上下のある郊外型のなかなか美しいところです。ここのCollege of BusinessがU.S. News and World Reportという有名な雑誌の企画するBest 10 Undergraduate Businessに入ったそうで、上り調子のようです。MBAに力を入れる大学は多いのですが、学部教育の方は手薄なところが多いと睨んで差別化を狙った成果であると言う人もいました。
授業見学は合計5つです。意外なことに、最初の3つは、プロジェクタやOHPは全然使わずに、テキストと黒板と話だけというchalk and talkの授業でした。ゼミ室(リーダーシップ論、大学院と合同)、50人の教室(1年生の経済学入門)、100人の階段教室(2年生以上の経済学)がその3つですが、3つともそうなのです。しかも3つとも、先生方の話術が巧みであるうえに、ゼミ形式、小教室はもちろんのこと、100人の授業でchalk and talkであっても双方向に授業が進められていました。
これは先生方の力量によるところが大きいのでしょうが、学生の方も違います。行儀は悪い(ガムや帽子はあたりまえで、座席での立て膝もよくある)ですが、私語は全然ありません。先生が促したときもそうですが、そうでなくときもよく
手が上がります。特に100人の授業(経済学)では、発言した学生に点数をあげているといったインセンティブはまったくないのですが、我も我もという感じでした。黙って先生の話を一時間半聞いている苦痛と、変な発言をしてしまうリスクはあるが発言して授業に「参加」してみる楽しみと比べて、後者をとってみる学生が多いのかも。
一時間半と言えば、学期制ですから、この大学では一週間に150分授業があって3単位(日本流の数え方だと4単位)になり、150分の内訳は50分を週3回、というクラス、75分を2回というクラス、それに150分を週1回という3つのパター
ンがあります。150分の場合は夜に設定される場合が大半で、19-2130です。週3回ですと月水金の三日になりますが、これはこの大学の学生の事情で敬遠されることが多いと聞きました。
その事情というのは、労働者階級working class出身の学生が多く、貧しいので学生が皆part-time jobやfull-time jobを持っているために大学に来る日数を減らしたいようで、特に金曜は人手不足になるため求人が多いので月水金のクラスは人気がないというのです。
ミズーリ州立で州の予算を使っていますから、私立に比べると授業料は若干安く、特に州内出身者は授業料が三分の一(約100万円。これで日本の私立大と同じくらいですね)になるそうです。それでも貧しい家庭では多くの援助を期待でき
ませんから学生が働かざるを得ないのでしょう。
このことは授業の進め方にも影響が若干あるようです。単に宿題を出すだけならば学生が自分の時間を見つけてこなせばいいのですけれど、学生同士のグループで調査するような授業法は、学生同士の都合が全然合わないことが多くて実現が難しいことがよくあり、結局自分の分担をこなさずにただ乗りする学生がいます。そういう学生と同じグループになると他のメンバーが結局は他人の分まで仕事をせねばならず、それで同じ成績なのは納得がいかないという不平が多く出るそうです。
実は立教大学で来年度発足する経営学部の中のコア科目のBusiness Leadership Programでもグループでの調査や研究を中心にする計画なので、そういう不平が出ないようにするにはどういう工夫をしたらいいかについていろいろヒントをいただいたり、議論して新しいことを思いついたり、すごく有益でした。
一番最後にLeadership in NPOという30人くらいの授業に参加しました。午後7時からに設定されていることもあって、NPOで働いている社会人や、院生が多く、きわめて活発でした。最初に日本からのお客さんを紹介すると言われ、神戸地震のことを話しました。ハリケーンに襲われたニューオーリンズのことが最大の話題になっている毎日なので、「神戸地震のときは政府の救援活動は米国同様かそれ以上に遅れたはずだが、被害者はお互いに助け合って、盗みとか強盗とか殺人は起きなかった」と話したら、そこから「どうしてそうなんだ」と質問攻めにあい、「ここで言うのは適切かどうか分からないが、銃は問題だと思う」と思い切って言うと意外にも「その通り」と皆賛成してくれました。(考えてみればまあNPOの授業に来る人たちはそうでしょうね)
でもその後「神戸と違ってニューオーリンズのように、商店もなにも無い状態だったら日本人はどうするだろうか」と厳しい質問が来たので「強盗するよりは飢えて死ぬ方を選ぶように教育されてきた」と答えてから、その答えにあまり自信が持てないことに気づきました・・・
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