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2005年7月12日 (火曜日)

「日本を変え」たか?
金融メルマガ第40号(6月14日配信)

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【金融メールマガジン 第40号】

日向野幹也(立教大学経営学部開設準備室/
社会学部産業関係学科教授)
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「日本を変え」たか?

堀江騒動の余波として、日本中の大企業の経営陣が動揺して、敵対的買収に対抗できる防衛策の導入を検討しているようです。日経によると4月から5月21日までで80社以上が何らかの防衛策を決めています。こうした急激な動きは、
「資金さえあれば、堀江氏のような、金銭至上主義の買収者でも自社を買収してしまう可能性がある」と思い知らされて、全国の上場株式会社の経営陣がパニックに陥っているからとも言えます。この意味では「日本は変」わりつつあるのかもしれません。

例えば朝日放送の防衛策
http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20050520crf2001420.html

しかし例えばこの会社のように、従来の株主の利益を損ねそうな防衛策の場合は、(株主の訴えによって)裁判所が待ったをかけます。

ニレコの新株予約権、発行差し止めを支持・東京地裁
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050609AT1G0901Z09062005.html

買収防衛策の整備はほぼ間違いなく現経営陣の利益にはなります。というのは、「敵対的」とは、現経営陣が賛成しない、というだけの意味だからです。株主の利益に反するかどうか、言い換えるとそうした買収提案に対して防衛策を整えて
おくことが株主の利益になるかどうかは疑わしいのです。いざ買収が行われてから防衛のために第三者割り当て増資を行うことはもちろん、予め自動増資(毒薬)条項を作っておいて買収をしかけにくくすることが、株主のためになるかどうか
は、少なくとも自明ではありません。ニレコについての判決はこの点が争点になっています。

さらに、従業員にとってはどうでしょうか。敵対的買収が「日本を変える」かどうかは実はこのあたりにかかっています。敵対的買収は友好的買収に比べて高くつくことが多く、特に買収合戦になった場合は値段がつりあがりやすいと言えます。高い価格に見合うだけの買収であるかどうかは、買収完了後に買収部分をどのように作りかえられるか、どのように取り込めるかに依存します。

この点で雇用を整理するにあたって子会社に移籍させたり再就職を世話したりという日本の雇用慣行は重要な制約になります。従って、この制約の存在は、この制約が足枷になりうると考える買収者(つまり買収完了後に大幅な人員削減が必要であると考える買収者)に対して、どちらかと言えば買収を思いとどまらせる方向に作用するでしょう。特に、雇用を保障する現経営陣を従業員が支持していたりすれば、高い価格で買収しても従業員が反発したままであったり、有能な者
から辞めていったりする恐れがあります。

合併・買収は既に急増しています。しかし「敵対的」買収が急激に増えるかどうかは上のような理由で微妙であると考えられます。また、労働市場では、正社員になりたいがなれないのでパート・派遣で働く人が増えたり、製造業大手企業で
期間労働者の比重が高まっていると伝えられています。こうした労働市場の動向、雇用慣行の変化が買収者の計算を左右するところは大きいでしょう。

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コメント

日向野先生こんにちは。

「敵対的」は、複雑なイメージがあったのですが、現経営陣が賛成しないだけとう単純なものだと知り、驚きました。

最近、夢真の敵対的買収が日経によく取り上げられていますが、これもただ日本技開の経営陣が賛成していないだけなのですね。

夢真は日本技開の優秀な人材を狙っているのだろうと思いますが、従業員が辞めてしまったら元も子もない気がします。夢真はそのリスクも踏まえて、TOBを開始したとは思うのですが。。。

投稿: なみき | 2005年7月21日 (木曜日) 02:25

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