Autumn in New York
その帰り道、Canal StreetかHouston Streetで地下鉄に乗り、42丁目で乗り換えて2番か3番の急行で72丁目へ向かう。わずか2,3分だし、両手に米と他の買い物をさげていたのでdaypackを前にかかえ直すのを怠った。
奴は真っ青な安手の上着を着た黒人だった。途中で車体が揺れたとき、すぐそばで"A, ah!"とか声を出していた。72丁目で降りたとき、背中に妙な感じがしたのでその場で荷物を下ろして調べたら、daypackの蓋が半開きになっていて、中に入っていた財布の札が抜かれていたのである。やられた!と思って目をあげると、動き出した列車の窓越しに奴と目が合った。凍ったような怯えた目だった。「泥棒!」と叫ばれるのを恐れていたのだろう。目があったまま列車は速度を上げ、奴の住処があるに違いないHarlem方面へ走り去っていった。
いつもならpackを前に持ちかえていたのに、今日に限って背中のままだった、悔しい。おそらく"A, ah!"が犯行の瞬間だったのだろう。改めて財布を調べると、なぜか$1札が一枚だけ残っていた。全部で$30近くあったのに、なぜだろう?
まさかとは思ったが、帰宅してdoormanのRoyやJohnに聞いてみたり翌日職場の同僚に尋ねてみると、僕が「まさか」と思っていたことが本当だったらしい。残った$1は僕の帰りの電車賃だろうというのである。僕はどこかに行く途中だったかもしれないから、せめて帰宅できるだけの電車賃は残しておいてやるつもりだったのだろう、と。当時NYCの地下鉄は全線一律$1だった。42丁目から72丁目まで急行で一駅、ごくわずかの間に財布から札を抜き取って$1だけ残すとは!
これには参った。カッコ悪い青い上着を着て怯えた目をしていた奴に、たった$1で騎士道精神を発揮されてしまって、二度やられた!と思った。
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