金融メルマガ第31号
元の記事の中には各ニュースごとに日本経済新聞の抄録のurlが
書いてあったのですが、時間が経ってlinkが切れてしまったので省略し
てあります。このメルマガは現在も毎月発行されています。
申し込みはこちらからどうぞ。(2005年1月追記)
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【金融メールマガジン 第31号】
日向野幹也(東京都立大学経済学部教授)
url: http://www.ann.hi-ho.ne.jp/higano
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この一ヶ月にもたくさんトピックスがありました。
●リテールバンキングの試金石=郵貯問題
金曜午後にも閣議に付される郵政公社の分割・民営化問題ですが、首相の出そうとしている案に、自民党が明確に反対しています。この原稿を書いている時点では、閣議の扱いがどうなるか分かりません。首相は、経済財政諮問会議の案に従って、
(1)2007年4月から窓口ネットワーク、郵便、郵便貯金、簡易保険の4事業を分社化する
(2)5-10年の移行期間中に国が株式を売却することで完全民営化を実現する
という方向に持って行きたいようです。
木曜・金曜の動きについては
http://www.nikkei
http://www.nikkei
さらに
http://www.nikkei
の下の方にある記事目録を見てください。
郵政公社総裁の生田氏は、民営化には全然反対しない・システムソフトウェア制作が間に合えば分割と同時に民営化するが、間に合いそうにないと言っています。私にはこの限りでは真っ当なことを言っているように思えますが、「間に合いそ
うにない」というのは民営化に抵抗するものだという批判も聞こえます。
金融界は徹底的な民営化を主張していて、日経新聞も今週の特集記事では(オンライン版にはありませんが)金融界の主張を紹介しています。曰く、保険の外交員が飛び込み営業してもドアも開けてくれないが、簡保の営業が「郵便局です」
と言えば開けてくれる、これは不公平だ。曰く、日頃配達していて馴染みなので、子供が都会の大学に行くと聞けば全国で出し入れできる郵便貯金を薦め、留学すると聞けば外国送金の便利な郵貯を薦める、こんな営業ができるのは郵便局が民間にはできない兼業をしているからで、これは不公平だ……
金融界はもうかれこれ二十年以上も同じ不平を言ってきました。そのくせ、自ら試みる兼業と言えば、証券や投資信託ばかりです。ユーザは銀行に行くのはちっとも楽しくない、さらにそのうえに証券での投資信託だの売りつけられるのはご
免だと感じているのを、銀行の人たちは分かっているのでしょうか? ショッピングのついでに振込や預金の出し入れが終わってしまえば便利だという潜在的ニーズに応えたのが英国のスーパーです。
http://blog.goo.ne.jp/mhigano/e/e5bb7ca8a790274d9897f88c16cda6e9
一方、日本では、郵便を受け取ったり郵便を出しに行くついでもある、生活動線上の郵便局で貯金や保険も済ませてしまいたいというニーズに応えてきたのが郵便貯金・簡易保険だったのです。
そうした兼業を可能にしてきたのは、郵便局のネットワークであり、ネットワークを維持してこられたのは、確かに親書の配達に関する独占権や郵便貯金の安全性(政府保証)です。しかし金融界は郵便局に対抗するために、兼業規制のどん
な撤廃を要望してきたかというと、上に述べたような、証券販売や投資信託など、相変わらず、カネを預けさせる(悪く言えば「まきあげる」)ような事業ばかりです。ユーザの不満や要望がちっとも分かっておらず、ちょうど、店側の都合や古くさいセンスで品物を並べるだけなのに、自店の不振を近隣に進出してきたスーパーマーケットのせいにしている商店主のようです。
それに対して郵政公社の方は、自分の強みがどこにあるかよく分かっていて、ネットワークを徹底利用して郵便・保険・貯金ほかいろいろな物・サービスを供給していくのがいいと知っているようです。総裁も「四分割して持ち株会社にするならば、窓口ネットワークの会社が持ち株会社になるのがいい」と述べていて、貯金や保険といった個別商品よりも窓口とネットワークが最も重要であることを知り抜いていると見えます。純粋な民間企業でこれに対抗できるネットワークを持っているのは、今のところコンビニのみでしょう。
このように、銀行のリテールサービスがどこか見当違いな状況が続く限り、「郵便局を銀行の脅威として活かしておかないと銀行は進化しない」という政策的判断が、二十年前と同じく説得力を持ち続けるでしょう。
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