「最低」の企業統治(その1)
毎日のようにお世話になっている検索エンジンのグーグル本社(米国)が、8月中旬に新規株式公開(IPO, initial public offering)を行った。創業5年あまりの間に急成長したので投資家の期待度が高く、ハイテク企業としては過去最大額の公開であるという。
しかし、上場各社のガバナンス(企業統治)状態を評価して機関投資家に知らせ、議決権行使の助言を行う会員制の情報サービス会社ISS (Institutional Shareholder Services)社は、グーグルのガバナンスは「最低」水準にあると評価した。経営陣の持っている株に比べて、投資家が市場から買う株式についている議決権は遙かに比重が低くなるように予め設定されている点や、真に独立した社外取締役の比率が引く点などが響いたらしい。googleの創業者・現経営者は、成長のための資金は欲しいものの、ライバルに買収されることを極端に嫌っているようだ。(下に続く)
ISS社は、全世界の機関投資家950社を顧客に持っており、全米で一万社、世界全体で22,000社以上の公開会社を監視して情報を提供している、この分野最大手・老舗である。投資家向けの情報提供を行う点では債券の格付け会社と似た面がある。実際、今回ISS関係者は、もしgoogleが社債格付けの対象になったら最悪の格付けを得るのではないかと話している。しかし債券の格付けの場合は債券発行者の財務状態が主な評価対象であるのに対して、ISSは株式を発行する会社の(経営全般や利益ではなく)ガバナンス状態に絞った評価であることが特徴的であると言えよう。
ISSの方針に対しては賛否両論がある。賛成論としては、その会社(のガバナンス)が気に入らなければ株を売るしか選択肢がなかったのに対して、最近機関投資家の一部は議決権を行使し始めており、ISSのサービスはそれを助けるというものである(例えばLouis Lavelle, Google's Governance Falls Way Short, BusinessWeek Online, August 25, 2004)。
反対論としては、ISSの評価方法はもはや杓子定規で顧客の投資方針と合わないことが増えてきたという意見があったり、ISS新CEOは自ら「自分はガバナンスの専門家ではない」と明言していることを「ISSはknowledge leaderである段階を卒業してbusiness visionariesの段階に入った」と皮肉るむきもある(Matthew Gower , Corporate Governance: Grace Under Fire :An interview with ISS's President and Chief Executive Officer, John M. Connoll, IR Magazine, Aug.2004) 議決権行使全般に関する見方としては、最も経営介入(議決権行使)に熱心なCALPERS(カリフォルニア州公務員年金基金)は、辞めにくい公務員の積み立て年金を勝手に使って目立っているだけだという意見もある。
情報開示に不熱心で、株主の経営参加を歓迎しない会社であっても、投資家が「そんな会社でもいい」と覚悟したうえで投資するのである限り構わないではないか、我慢できなくなったら売ればいいではないか、というのが伝統的な経済学の、そしてウォール街の見方であった。それに大きな「?」を突きつけたのは、やはりエンロン事件ではないかと思う。不完全な情報開示のまま成長を続け政治献金をばらまいて共和党の経済政策と一体化するほどにまで巨大化し、監査や投資家のチェックなどが機能しなくなってしまったからである。
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