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2004年8月13日 (金曜日)

オーナーはサービスマン

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イタリアの小さな家族経営の食堂は、サービスマン(給仕、ホール係)が店主のところがかなりあるようだ。おそらく若い頃にボーイボーイまたは料理人として修業した人が料理人を雇って開業するのではないか。シェフないし料理人が一番偉くて、給仕を一段、二段低く見る傾向にあるらしい日本ではなかなか考えられないことかもしれない。

ローマで特に気に入った小さなトラットリアの一つでは、店主がいかにも食いしん坊そうな、味の分かった人(写真・左)で、しかも客あしらいも上手く話術でも楽しませ、他方料理人には気持ちよく仕事させるという、対顧客と対職人(料理人)の両方とのインターフェースに優れた人のように見受けられた。

この店はガイドブックなどにも載っていないのに大変繁盛していて、常連も数多くいた。私は一人で行ったのに快適で、一週間ほどの滞在の間に何度も通ってしまった。

この店を経験してからというもの、帰国してから、若いバイトが注文を聞きに来るような居酒屋や、愛想の悪い主人がカウンター越しに注文をとるような小料理屋、どちらも何とも歯がゆく思えてならない。

チェーン系でない個人経営の店ならば、イタリアのような、サービスマン主導の店をいくらでも工夫できそうな気がするが、素人の考えだろうか? 接客やサービスの苦手な、しかし腕のいい料理人は大勢いそうな気がするのだが。

ザガット・サーベイ東京版にも、名店の誉れ高い店に関して「感じ悪いサービスが最大の難」「美味しい物を出してやってるんだと言わんばかりのサービス。それに我慢する客」といった実に辛辣な批評が数多く載っている。若い人たちの間にサービスが大切という考えが広がっているように思える。

流行のイタリア料理は、フランス料理などと比べると、素材さえ用意すれば自宅でもかなり手軽に作れるものが多い。それなら家で料理して安く美味しく楽しめるわけで、そうではなくわざわざ店に行ってお金を払うからには、きちんとしたサービスや雰囲気を求める人が多くて不思議はないのではないか。

追記

二人の読者から感想をいただいた。blogを引っ越しするときにはcommentやtrackbackは移せないのでここにcopy and pasteさせていただく。なお、ここに登場する善右衛門さんの「善右衛門的。」は必見。

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よいですねぇ (善右衛門)
2004-08-21 13:23:10

TBありがとうございました。 こういうガイドに載らない名店がたくさんあるのでしょうね。 
おっしゃるように和洋にかかわらず、調理場の中の人間はホールの人間を下に見る風潮がありました。した。と過去形にしたのは大手外食から始まった、CSやCISという考えが広まり、ホールとキッチンの力関係に逆転現象が起こっているからです。 一番偉いのはキッチンでもホールでも無く、お客様であると考えられている店はチェーン店でも専門店でも勝ち組と呼ばれているようです。

お客様が一番偉い (ひがの)
2004-08-21 23:23:26

善右衛門さん

お客様の意向を代表するものとしてのホールへ力が逆転したわけですか。今の日本だとそれでちょうどいいという面もあるかもしれませんが、ずっとそれだとまた際限なく変な方向へ行ってしまうような気もします・・・考えすぎですかね

たしかにその通りです (善右衛門)
2004-08-23 12:59:15

ひがのさん、こんにちは。 私もおっしゃる通りの懸念を抱いております。 本来、接客はパートやアルバイトでできるような簡単なものでは無いはずなのです。 客単価の低下やLコストの上昇から正社員による接客が減るとともにレベルも低下しております。 それを防ごうとオールマニュアル化して件の「ご注文の方、こちらの方でよろしかったでしょうか?」等のファミレス語が生まれ、笑い話のネタにされております。  調理場の中でも変化は起こっており、昔新人が受け持っていた材料の下ごしらえ等はベンダーが下処理後のものを納品するために必要がなくなっています。 下処理をして材料の特性や処理の仕方を学んでいくのが修行なのですが、そういう技術の伝承という面でも大きな変化がおきております。 良くない事だと思います。
絶対にどこかで歪みが生じ、手痛いしっぺ返しがくることでしょう。

逆の極端へ行ってますね (ひがの)
2004-08-24 20:29:31

善右衛門さん

なるほどそういうことなんですか。お客様は神様という風潮によって調理人の腕も落ちてしまうのでは本当に元も子もないですね。

親子二代で飲食店経営の経験のある知人(昭和22年生まれ)にトラットリアの話をしたところ、日本でサービスマン主導にならないのはお客さんの側にも原因があって、作る人ではなくサービスマンが前面に出てくると信用しない人が多いのではないかというのです。これは特に中高年に主に当てはまるのかもしれません。

すると、今のトレンドは、調理人は神様という一昔前の極端から、お客さまは神様という逆の極端への暴走ということになりましょうか。これは 調理人とお客が、それぞれ、こっちが神様なんだからこっちの言うことを聞け、と互いに綱引きしているというか、シーソーをしているようなものかも。昔は調理人が勝っていたが、この頃は客が勝っている・・

でも、そもそもどっちが勝つかという問題ではないはずですよね。素人考えかもしれませんが、良いサービスマンの仕事は、両者のバランスを取るというか、調和させるところにあるのかもしれないと思います。

自らサービスマンの役割を兼ねることができるような幅広い才能をもった調理人もいるでしょうけれどそれはごく一部の人に限られているでしょうね(たぶん善右衛門さんとか)。

そのとうりです (善右衛門)
2004-08-25 16:12:45

まさにその通りです。 お客様も店側もどちらが主でどちらが従などという事はあってはならないと思います。 私の理想はお店とお客様がイーブンな関係でバランスがとれている状態だと思います。 お店は「利用してくださってありがとうございます」の感謝。お客様は「美味しく楽しい時間を過ごせた。ありがとう。また来るよ。」の感謝。この2つの感謝がバランス良く存在する店が繁盛店であり、プロの料理プロの接客だと考えてtいます。 言うは安しなんですけどね。(笑)

サービスの難しさ (NZ)
2004-08-31 00:10:22

こんばんは。サービスとキッチンを巡るお話、楽しく拝見しています。サービスマン主導にならないというのはお客のほうにも原因があるという話がありました。先日までホテルのレストランでサービスの仕事をしていましたがお客はそれこそ王様のような態度でいる場合があります。そういうお客に対して様々な注文を聞き入れてしまうシェフも問題があり、余計助長させる結果に陥っていました。現在ホテルではサービスのほとんどがバイトです。メインダイニング責任者がどうにか社員という状況だと思います。シェフも給料制なので努力してもしなくてももらえるお金は同じなのでモチベーションを維持していくのが難しいのではないでしょうか。ホテルのレストランに限っての話ですがこのままでは将来は暗いと思います。よく雑誌なので「リラックスできるレストラン」という文句がありますが、リラックスするには客側のそれなりのマナーの遵守も必要だと思います。そうしたことを店側が雰囲気で作り出していけたら少しずつ変っていくのではないでしょうか。レストランの中では全てが平等であるはずなのだから。

ホテルのダイニング (ひがの)
2004-08-31 19:16:29

NZさん、ようこそ

サービスがバイトのみなので、お客さんの理不尽なリクエストをそのままシェフに伝えちゃうわけですね。シェフとしてはお客さんのところに行ってそれは意味ないですとか断るよりも、面倒だから言うなりにしちゃえということでしょうか。それはシェフもストレス貯まるしお客さんも間違った食べ方をしたままで、良いことないってことですかね。

素人考えで済みませんが、ホテルのように場所がら一定のお客さんが来ることは保証されている店は、若いシェフや若いサービスマンが修業するところなのではないですか? そうしてバイトばかりのサービスマン(サービスパースン)に接客を任せておけないと思い立ったシェフは順番に辞めて独立していく、とか。

もしそうだとすると、ここの最初の記事で言いたかったのは、そのときこそサービスマン店主誕生のチャンスかもしれないってことです。(一人二役できるシェフは一人で独立できますが)自分で接客する自信はないが料理には自信あるというようなシェフとサービスマンがコンビを組んで、あるいはサービスマンがシェフを雇って、独立する、と。非現実的ですかね?

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