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2003年5月20日 (火曜日)

金融メルマガ第15号

元の記事の中には各ニュースごとに日本経済新聞の抄録のurlが書いてあったのですが、時間が経ってlinkが切れてしまったので省略してあります。このメルマガは現在も毎月発行されています。申し込みはこちらからどうぞ。(2005年1月追記)

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【金融メールマガジン 第15号】

りそなグループのゆくえ

日向野幹也(東京都立大学経済学部教授)
url: http://www.ann.hi-ho.ne.jp/higano

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日向野です。りそなグループへの公的資金注入が決まりました。

http://www.nikkei.co.jp
http://www.nikkei.co.jp

連載では銀行への公的資金注入の話はしていませんが、4月号に書いた「倒産と再生」に書いた企業再生や買収ファンドの話、それにりそな銀行がリテール重視をうたっていたことから、プチエコーや八王子産業のような中小企業と取引が多いでしょうから、予定を変更してこのニュースをとりあげることにします。

●自己資本比率の低下

まず、どうして支援が必要になったか。これは他の分野の企業にはないことですが、預金者を保護するために、銀行の持っている危険資産(リスクのある資産)と自己資本(発行済み株式)の割合が一定以上になるように
規制されています。危険資産も自己資本も複雑な算式で計算するのですが、一番大切な部分で言えば、危険資産に対して自己資本が多いほうが預金者は安心できます。というのは預金者は株主よりも銀行に対する請
求権者として優先され、銀行は株の配当より先にまず預金の元金・利子を払わねばならないからです。りそな銀行はこの自己資本の比率が規定以下に下がってしまうことがはっきりしたため、そのままでは銀行として営業を続けていくことができなくなったのです。

自己資本を増やすために、まずプチエコーのように増資することが考えられますが、りそなグループは三月末に増資を行ったばかりで、いままた増資は無理です。強行すれば株価がうんと下がってしまうでしょう。そのうえ三月期の決算をもとに今、自己資本比率を計算すると規定の4%を下回ってしまいます。この計算について監査法人とりそなグループの間には厳しい交渉があったようで、りそなの方は何とか自己資本比率を甘く計算してもらうことを認めてもらって、そのまま営業を続けたい。でも監査法人としては甘い監査をすると後で当局から責任を追及されるので手心を加えるにも限度がある。今回はその限度を超えていたということのようです。

●政府が大株主に

次に、政府と日銀はどのような支援と監視を行うか。これはプチエコーについて説明した株主の権利と義務の関係と基本的には同じです。政府が出す「公的資金」の多くはりそなグループの株を買うという形になります。全部が普通株になるのか、一部は議決権なしの優先株になるのかはまだ決まっていないようですが、普通株の部分が多いほど政府の票数は多くなります。いずれにせよ政府は大株主になります。これが「実質国有化」の意味するところです。ただ、株式は上場を続けるので長銀や日債銀の場合と違って政府が唯一のオーナーになるわけではありません。

また日銀も「特別融資」を行うと言っていますが、いまのところりそなの資金繰りには支障は出ていないので大規模な融資が必要になるとは限りません。万が一、預金者の取り付けが起きた場合にはもちろん出動するわけですが、日銀が特別融資でバックアップする体制にあることを周知して、預金者を安心させ取り付けの発生を予防するという効果も狙っています。

●「りそな」の今後

さて南君時代のプチエコーの場合、南君と京子さんが合わせて3分の2以上の株を持っていましたし、他には多摩さんくらいしか大株主はいませんでしたから、役員はこの3人以外にはいませんでした。しかしりそなの場合政府が大株主になり、いまのプランでは金融庁の検査官が役員会に出席するようです。また、りそなのトップ5人は辞職して退職金も無しで、内部からは50歳代前半の若い経営者が選ばれ、これを率いる会長のポストを空けて、外部から招くようです。大株主としての政府は当然この会長の人選にかかわるでしょう。銀行業界以外を含めて幅広く人選するようです。銀行の名前が変わるかどうか等も会長が決まってからでしょう。

新会長のもとでどのくらい再生するかは、会長の人選すら終わっていませんからまだ何とも言えませんが、政府はずっと株を持つのではなく、ある時点で手を引こうとするはずです。そのときに持ち株をどう処分するかは再生がどのように進むか次第でしょう。会長だけ新しくなっても効果がなければ大株主としてまた次の手を考えることになるでしょう。再生に失敗して事態がさらに悪化すれば将来は長銀方式の国有化もないとはいえません。逆に再生に成功して利益が発生すれば政府の持ち株にも配当が行われ、その分国民負担は減ることになります。りそなの場合、破綻ではないので預金者や取引先への影響は当面は軽微でしょう。新会長のもとでリテール重視はやめるというような方向転換があれば別ですが、そうはなりそうにありません。むしろ新会長は、リテール(中小企業と消費者)の顧客の満足度と銀行の収益性をともに上昇させるような知恵を期待されているのではないでしょうか。外部から経営者を迎え入れることの意義はここにあると小生は考えます。

株主の責任については、政府・日銀でも意見が分かれているようです。株主も経営監視の責任を負うべきだという意見が勝てば政府の出資分のうちの普通株の割合が高くなって株が値下がりして損をさせられたり、資本金を強制的に減らす減資があるかもしれません。これを見込んでか、月曜朝には株価は非常に低くなっています。

メガバンクに比べてりそなの取引先には中小企業が多く、りそな自身もリテール重視をかかげていました。それが利益に結びついていなくて不良債権処理を進める余裕を生み出せなかったところが、今回の資本注入の基本的な原因でもあります。リテール中心の銀行は全国に数多くあり、そうした中小・地域金融機関の経営改善については金融庁・金融審議会は三月末に「リレーションシップバンキングの機能強化について」という報告書を出しています。

http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/base.html

中小企業との顧客関係を通じて銀行本来の機能を回復し、それによって利益を生み出すべきだという提言ですから、リテール中心をうたってきたりそなグループもこの報告書の聴衆の一人ではあるはずです。

この報告書については小生も5月末発行の『金融ジャーナル』誌6月号の巻頭論文として「リレーションシップの再生」を寄稿しています。同誌はビジネス街の書店には置いてあります。

http://www.nikkin.co.jp/journal/contents/j-journal/j-journal.html


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