金融メルマガ第11号
元の記事の中には各ニュースごとに日本経済新聞の抄録のurlが
書いてあったのですが、時間が経ってlinkが切れてしまったので省略し
てあります。このメルマガは現在も毎月発行されています。
申し込みはこちらからどうぞ。(2005年1月追記)
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【金融メールマガジン 第11号】
金融業への参入
日向野幹也(東京都立大学経済学部教授)
url: http://www.ann.hi-ho.ne.jp/higano
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●小が大を買う
今月号では、プチエコーが八王子産業を買収するという案を京子さんが出しました。(結局は精査してみるとまるごと買ってしまうよりも、買う店舗を選んだほうがいいということになったのですが。)
プチエコーは売上高でみると八王子産業よりはずっと小さな会社なのですが、小が大を買収するということは時々あります。相手を買収できるかどうかは相手の発行済み株価の総額がいくらかということだけですから、株価が低迷していたり、買い手にキャッシュや借り入れ能力があれば、売上高の順位は関係ないわけです。
15日朝刊に、イギリスのスーパーマーケットの買収合戦のことが出ていました。
http://www3.nikkei.co.jp/
アメリカのウォルマートがイギリス第4位のセーフウェイを買収する計画を発表したという記事です。オンラインの記事には出ていませんが、セーフウェイに対しては第5位のモリスンも買収提案を出しており、セーフウェイ側も前向きだったようです。つまり売り上げ5位のモリスンが4位のセーフウェイを買収するところだったのです。そこにアメリカのウォルマートがさらに強力な(セーフウェイ経営陣が魅力を感じやすい)提案をしかけようとしている、というのが今回の記事です。
実はウォルマートは1999年に英国3位のアズダを買収しており、今回セーフウェイを買収すると3位と4位を両方手に入れることになって、売上高を単純に足しただけでも英国首位のテスコにほぼ並ぶ規模になります。
この話題との関係から、きょうは金融関係について、あと二つトピックをお話しておきましょう。
●英国スーパーの金融サービス
いま話題にした英国スーパーマーケット業界は、サッチャー政権の金融自由化(元祖ビッグバン)の後、最も大規模に金融業に参入しました。当時第二位だったテスコはスコットランドの地銀と提携し(のちに合弁で銀行も作ります)、スーパーの店頭レジでデビットカードを使えるようにし、定期預金を受け入れることにして、スーパーの買い物客には金利を優遇したり買い物ポイントをつけるなどのサービスを開始しました。いままで銀行に行ってからスーパーに行っていた客は一カ所で用が足りてしまううえに、日々の買い物も安く、預金金利も有利になります。それまで庶民は古い大銀行のサービスの悪さに辟易していたのでこの金融サービスは大変人気を呼び、当時一位だったセインズベリー、三位アズダ、四位セーフウェイも追随して金融サービスを開始しました。
●日米スーパー・コンビニの金融サービス
こうした英国の動向はアメリカのスーパーや日本のスーパーやコンビニにもよく知られていて、研究されているようです。英アズダの親会社でもあり、日本の西友の大株主でもある米ウォルマートも、その例外ではありません。英国に比べると米国では非金融企業が銀行業に参入することに厳しい制限がありますが、ウォルマートはそこを迂回して、なんとか実質的に金融サービスを提供しようと、妙手を始めました。
http://www3.nikkei.co.jp/
ウォルマートの顧客のうち銀行口座を持っていない人に対して、小切手を買い取るサービスが一つ、もう一つは郵便為替に対抗した安い手数料の送金サービスです。
アメリカでは自動振り込みなどというものはなく、給与もだいたい会社から小切手で受け取ります。小切手を預け入れる口座がない人も大勢います。日々の支払いに使うには小切手を振り出せる当座預金である必要があり、そうした口座は、銀行にとってもリスクのあるものなので、誰にでも開設できるものではありません。所得の低い人や信用履歴の浅い人・履歴の悪い人は断られてしまいます。そこで口座の無い人は給与小切手を受け取ると買い取り業者のところに行って、手数料を払って買い取ってもらいます。ウォルマートはその買い取り業を割安な手数料で始めたことになります。
買い取って現金が入ればついでにウォルマートで買い物してくれるだろうという計算でしょう。
日本ではイトーヨーカドーがIYバンク銀行を設立して、スーパーやコンビニとの連携を強化する道を探っています。いまのところイトーヨーカドー傘下のセブンイレブンの店頭のATMが中心ですが、コンビニPOSやスーパーのレジとの連携も当然検討しているでしょう。郵便局とローソンの提携もつい最近発表されたばかりです。コンビニ・スーパー・郵便局は今後の小口の金融サービス革新の中心になる可能性があります。
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