金融メルマガ第9号
元の記事の中には各ニュースごとに日本経済新聞の抄録のurlが書いてあったのですが、時間が経ってlinkが切れてしまったので省略してあります。このメルマガは現在も毎月発行されています。申し込みはこちらからどうぞ。(2005年1月追記)
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【金融メールマガジン 第9号】
銀行の経営改革
日向野幹也(東京都立大学経済学部教授)
url: http://www.ann.hi-ho.ne.jp/higano
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前回のメルマガで「連載に登場したブラジルな立ち飲み屋」と書いてしまいましたが、実はあの店が登場するのは、いま発売中の12月号です。つまり1カ月分間違えてしまいました。済みません。でもあのブラジル風立ち飲み屋はいい感じですよね? 実際かなり繁盛しているようです。
●貸出はどうして増えないか
さて連載では、南君が新業態である立ち飲み屋の立ち上げに成功するのですが、京子さんや、相談に乗ってくれた多摩千太さんの勤務する八王子産業が銀行の貸し渋り・貸し剥がしに会って資金繰りに四苦八苦しています。
実はこれは非常にタイムリーな話題です。というのは、いま竹中金融担当大臣が奮闘している課題の一つは銀行の経営を悪化させずに、貸出を促進することだからです。
http://www.nikkei.co.jp/
なんのためでしょうか? 貸し渋り・貸し剥がしがあると、企業が困るから? それもあります。ですが、それだけならば政府や政府金融機関が企業などに直接貸せばとりあえず済む話ですね(もちろん副作用はありますが)。
もう一つの目的は、銀行が長期的に儲けを自力で確保するように経営を見直させるためでしょう。民間の金融機関、特に銀行はいまだに不良債権の処理で悩んでいます。 不良債権を処理すると処理した時点で損が表面化するので処理が進まないのです。もし銀行がもっと儲けていればもっと処理は容易になります。しかしいまは貸出で儲けるどころか、貸出で失敗して不良債権が増えることを恐れて(それに加えてデフレで不良債権が膨らんで)、貸し渋り・貸し剥がしのように防戦一方です。
http://www.nikkei.co.jp/
●銀行の国有化?
中小企業分野で銀行のライバルであるリース・クレジット・商工ローンなどは全体に銀行より利益を上げています。貸出は銀行業の仕事としてはもう将来がない古い商品だと言う人がいますが、大企業についてはともかく、中小企業は証券市場へのアクセスが制約されているので、近い将来も、こと中小企業に関する限り、貸出の重要性は否定できません。これはアメリカでも同様です。
南君が立ち飲み屋の開店に際して備品代金をリース会社から借りたように、リース・クレジット会社や商工ローン業者は、銀行が立ちすくんでいるのを尻目に中小企業への貸出を伸ばしています。銀行が過去とのしがらみを断って経営を刷新するには、単なる経営者の世代交代ではなく、経営陣が外部の人と交替したほうがいいという声が出てくるのは当然のなりゆきでしょう。
改革の進まない銀行を国有化するというのは、ちょうど日本長期信用銀行が破綻して国有化され外資に売られて新生銀行になったように、新しい外部のプレーヤーに手渡すための予備段階です。まず国有化してから転売するわけです。
もっとも、次もまた外資に譲渡してしまうのでは、もったいない。銀行界の外では日本人の企業再建のエクスパートが徐々に生まれていますから、次に国有化された銀行は日本の投資家の出資で買い取り、日本人の(銀行出身でない)経営者を送り込んでほしいものです。国有化されるより前に銀行を買収してしまう銀行再建ファンドが出てくればそれも興味深いですね。
国有化まで行く前に、政府が大株主になって経営に影響力を行使するという手もなくはありません。
http://www.nikkei.co.jp/
公的資金として普通株を買うということは、買った株数だけ株主総会での投票権を持つことなりますから、たくさん買うほど経営に発言権が増すわけで、規制の実行者としてだけではなく、株主としても経営に介入するチャネルが加わるのです。しかし政府が民間企業の経営に敏腕を発揮するとは到底思えませんので、経営者の交代を促すプレッシャーをかけるといった役割にとどまっていたほうがいいでしょう。
また、これら全てがうまく行くかどうかと、景気の回復は一応別です。景気の回復には円安になるようなマクロ金融政策and/or老後の生活への心理的不安の緩和が必要でしょう……が、これはまた別の機会に。
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