カウベル効果
これは金融市場でよく見られる模倣現象のことです。例えば銀行Aが企業Xに貸出を行っているとき、(ごく簡単に言えば)Aが貸しているのだからそう危ない企業ではないだろうと判断して銀行Bが同じ企業Xに貸し出しを始めることがあります。この場合、銀行Bは銀行Aの審査能力にただ乗りしていることになります。ちょうど牛の群をカウボーイが誘導するときに、鈴をつけている何頭かを動かすと鈴の音にひかれて他の牛も動き出すのに似ているので、カウベル効果と名付けました。
これをカウベル効果と(世界で!)最初に命名した論文は日向野(1984)です。その後、1986年と1995年の著書で再説しました。ところが最近はアメリカの文献が出典であるかのように「カウベル効果(The cowbell effect)」等と表記されたり、また経済学と全然関係なさそうところ、例えばMacintoshユーザグループ"Link Club"のニューズレターでも見かけて驚いたことがあります(確か、ベンチャーへの投資にも模倣現象があるという文脈でした)。
融資行動・投資行動の模倣が自由に行われるようになると、先に融資(あるいは社債の購入)を決めた貸し手・投資家は損することになってしまいますが、例えばアメリカの私募社債の市場ではこの審査コストを内部化する工夫がかなり以前から見られます。すなわち最初に私募である企業の社債Xを買う投資家は、いったん全額を買い取り、その後に一部を他の投資家に転売します。そのときに手数料を上乗せするのです。アメリカの社債市場においては、1990年から始まった規制緩和によって投資家(生保)がこのようなアンダーライターのような業務を行えるようになったために顕在化した現象です。他にも金融市場や政策金融のあちこちで類似の現象が見られます。
民間投資家(金融機関)の間であればこのように審査料となって顕在化しますが、政策金融においては政府系金融機関が先行貸出や信用保証を行うときにこうした料金は徴収されないことがむしろ多いことは日米共通です。この場合、審査料をとらない分は実質的に追随する民間投資家(金融機関)に補助金を与えていることになります。
なお、牛の首にベルを付けていたのは文字通り牧歌的な時代のことで、既にだいぶ前からポケベル(pager, beeper)に変わったとも聞きます・・・・
「『協調』融資と審査能力--日本開発銀行のケース」、『経済学論集』、東京大学経済学会、
第50 巻第1号、pp.70-82、1984 年4 月。
『金融機関の審査能力』、東京大学出版会、1986 年。
『金融・証券市場--情報化と審査能力』、新世社、1995 年。
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