金融メルマガ第2号
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【金融メールマガジン 第2号】
日本の銀行の事務品質は過去のもの?
——みずほ銀行のトラブルをめぐって
日向野幹也(東京都立大学経済学部教授)
日向野@そろそろ花粉症明け です。私の花粉症歴は24年。最初の十年くらいは花粉症が病気として認知されておらず、口の悪い人には「根性がない」と批判され、優しい人にも「病は気から」と妙な励まされ方をしてしました。
さて4月1日からみずほ銀行のATMの不具合・口座振替の未了などで大騒ぎになっています。連載でも4月号・5月号で銀行の決済機能のことは詳しく説明していますので今回はこのニュースにしましょう。これに関しては概要は皆さんご存じでしょうし、実際ご自分の口座で二重に引き落としがされていたり、振込が遅れたりといった経験をされている方も居るかもしれません。
15日昼現在では、遅れている口座振替の処理はまだ終わってないようです。こうしたトラブルの予兆は3月末からあったので、1日の事故も予見できたはずだ、という方向に報道が進展してきています。その勢いで三特別顧問が退任する見通し、と日経新聞は13日づけで報じましたが読売の方はもっと慎重な書き方です。
また、今朝のブルムバーグによると、上の日経の報道に対してみずほ銀行はコメントしていないとのことです。ただ、新聞にこう報じられてしまうと、実際退任せざるを得なくなるといったことも、ある意味で危険ですが日本では非常によく起きることです。ブルムバーグは新聞報道の裏をとる確認報道をすることが多いので要注目です。ただし過去のニュースはウェブ上に蓄積されていませんのでリアルタイムで見る必要があります。
私の大学のゼミの卒業生にもみずほ銀行・みずほコーポレート銀行に勤務している人が相当数居ます。また、UFJ銀行にも卒業生がいて、その一人が曰く「UFJの口座二重引き落とし事故のときも、支店から連日応援に借り出されて支店も大変だった。今回のみずほ銀行はもっと凄いことになっているだろう」。また、この春就職したばかりのOGは、先週ゼミの飲み会に遊びに来てくれて「今月はじめに職場指定の給与振り込み口座を作りに行ったら、みずほ銀行の待ちはゼロ、隣の三井住友は30人待ちだった」と新・社会人としての経験を話していました。
「実害はなかった」などと国会で述べたみずほホールディングス社長(5月号p.6の写真中央で笑っていますが)の感覚のズレ方にも恐るべきものがあります。ユーザの不便もさることながら、みずほ銀行内部でも、その昔(1981年)「ベンチがアホやから野球でけへん」と言っ(たとスポーツ紙に書かれ)て阪神を退団した江本孟紀参議院議員(民主党、元プロ野球投手、南海→阪神)の心境の人も居るかもしれません。もし居ないならむしろ心配です。
この事故でみずほ銀行の不良債権が増えるとか取り付けが起きるといった性質のものではないのですが、日本の銀行の事務品質は、欧米と比べて格段に高いと言われてきたことが、過去のことになってしまった感もあります。欧米の銀行では、請求の間違いは日常茶飯事なので月末にユーザが全部チェックしてから最終的に銀行宛にチェック(小切手)を切るのが普通です。ある意味では銀行不信が根っこにあって、それを自分の損得のかかわるユーザ自身が入念に調べて最後に決済するのです。従って、日本のように、銀行が通知だけよこして、ユーザが放っておくと口座から引き落とされてしまうというやり方は到底考えられないという人が多いようです。銀行側からみれば、あちこちから送られてくる小切手の山を名寄せして預金者に郵送してチェックしてもらうというやり方は(日本式ほどではないにせよ)コストがかかります。今月号p.88に書いたように、欧米でデビットカードが急速に普及したのも、銀行がこうした小切手のハンドリングコストを節約したいという動機が強く作用しているからです。
日本式はシステムの設計上も、人手のかけかたも、支店でのチェック体制も欧米より事前段階で既に厳重でコストがかかっています。例えば、支店で現金の勘定が1円でも合わないと全員が残業して原因をつきとめるといった従来のやり方は、労働コストがすごくかかります。欧米の銀行は、事故が起きるのは当たり前で事故の発見にユーザの労力を拝借し、さらにデビットカード導入でコストをカットし、対する日本式は事故が起きないように事前に(欧米的基準で言えば)過剰なまでのコストをかけるわけです。
ところが今回のみずほ銀行のようなことが起きると(特に、今後も起きる可能性があるとすると)、高いコストを払って自動引き落としシステムを維持していることの是非も問われるでしょう。高校生や大学生に言わせると、「だから銀行に口座なんか作るとウザいんだよ」。4月号に書いたように、コンビニ決済をメインにすれば、手元のキャッシュ(このキャッシュはお札・硬貨のことです)と銀行の口座残高の二つを並行して管理する必要はなくて手元のキャッシュ(同)だけに注意していればよく、またコンビニへの来店・決済も、期限日の何週間遅れまではペナルティがない等と計算して全てを自分で管理
できます。今回の事故は、高校生・大学生の銀行離れを加速するかもしれません。その流れは学生に限らず銀行と取引しなくて済む人へ、もっと広がっていくかもしれません。
連載来月号では南君は脱サラして居酒屋を開業します。居酒屋は私もよく利用するので(笑)、結構リアルに書けたつもりです。お楽しみに。
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