ILAオタワ大会
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10月末から11月初めにモントリオールで開かれたInternational Leadership Associationの年次会合(Global Conference)に参加してきました。
初日、大学でリーダーシップのカリキュラムを作っている人・作ろうとしている人の集まる30人くらいの長時間セッションがあり、最初に一人2分間で自己紹介しろと言われました。他の人が話している間に急いで考えて、日本ではうけないのが間違いないどころか、ほとんど危険ですらある軍事ネタで思い切って行くことにしました。「8年前に日本の大学の学部正課でリーダーシッププログラムを始めることは、落下傘部隊paratroopersを率いて降下するようなものでした。敵中に降りて、容易に包囲され、補給もないからです。前線の背後に降下して敵中で8年持ちこたえ、今は前線がずっと近くまでやって来ました・・」ウケは上々でした。話し終えて改めて気がついたのは、我々が降下して1年後に1期生の学生370人という強力な援軍が降下して来て熱烈に支持してくれたのが幸いしたこと、さらに、戦争と違って(あるいは戦争でもそういう場合がありますが)、かつて敵と思えた人たちが友に変わりうることです。言い換えると、友-敵と二分して考えるのは最初からやめておいたほうがということですね。
二日目のセッションの中では午前中の「テロリスト組織のカリスマ的リーダーシップ」がまず印象的。テロリストと聞いて中東系を連想しましたが、しかし研究の対象はベルーのグズマン、コロンビアのヴェレス、スリランカのブラバカランの三人で、一昔前ならテロリストとは呼ばれずに「反政府勢力」などと呼ばれていたものの、活動の内容をみると自爆攻撃もあって現代的にはテロと呼ばれるのでしょう。ウェーバーやノースハウスの定義によると3つの組織はぴったりカリスマ的リーダーシップによって動いていた由。私は「リーダーシップというとカリスマを連想する人が多い日本から来たのだが、テロリスト組織はカリスマ的リーダーシップになりやすいとしたらどうしてだろうか?」と質問したのですが、一般化にはあまり関心がないといった用心深い返答でした。たぶん一般化すると政治的に危険という判断もあったでしょう。というのは私以外の質問はほぼ全て、リーダーシップではなくペルーやコロンビアの政治情勢や歴史に集中していて、参加者も中南米出身と見える人の割合が高かったからです。3つのケースは指導教授のもとに3人のPhD学生が研究しているようで、冒頭に「我々はテロリスト組織を応援するものではない。米国政府にまず話して研究の目的を告げ、米軍や政府機関から資料の提供も受けている」と立場を明確にしていたのも同様の判断からでしょう。
三日目は、午前中の、リーダーシップのcapstone科目(BLPで言えばBL4)をどう設計するかというセッションが印象的でした。昨年のデンバーの大会では「capstoneを仕上げと考えるから間違える(難しい)んで、社会への橋渡しだと考えるほうがいい」という締めくくりがあり、今回のセッションでもその方向の事例が紹介されていました。
1) Christopher Newport Universityの「インターンシップの振り返り」
capstone科目をとる前提条件として、120時間以上のインターンシップを経験してくることを義務付ける(インターンシップを経験しないとこの科目は取れない)。授業の目標はリーダーシップのケースを作ってもらうこと。参考になりそうな理論の解説も行う。ケース原稿の相互批評やコンテストも行う。sense of "putting it all together"が得られ、リーダーシップに自信がつき、理論を使う習慣がつき、ケースは他のクラスでも使える。
これは非常に面白そうだったので、「学生のリーダーシップを歓迎する企業ばかりですか?」と質問したところ、「インターンは安価な労働力であると考える企業は多いので、企業を選ぶには注意するほうがいい。企業選びは、大学が支援もするが、学生が自分でおこなうほうが納得感や学びが多い。また、インターン学生のリーダーシップ発揮が歓迎されない(あるいは短期間でそこまで行けない)場合でも、社内のリーダーシップ状態を観察することは充分にできる、という返答でした。経営学部でも学部主催のインターンシップがあるし、学生は自分で応募するインターンシップを経験する人も多いし、やろうと思えばできますね。120時間というと3週間か。これは制約になるかどうか。
2) カンザス州立大
リーダーシップのケース作成のコンペティション。1)の例と同じように経験や見聞を言語化することに重点がおかれているので、書くことの比重が高い。コンペは学生と教員と外部委員がジャッジになる。
3) サンディエゴ大学SOLES.
capstone科目でグループワーク(local communityに進化をもたらす提案づくり)を行うのだが、リーダーシップの理論としてハイフェッツを常に参照し、例えばtechnical problem vs adaptive challengesの区別やbalcony metaphorをよく使う。また、学期終盤では、シラバスが白紙で(ガイドラインはあるが)教員がなかなか教室に現れない回がある。学生はこれによって、大学を卒業したら、お膳立てしてもらうことなく生涯自分たちで学び続ける必要に気づく(ハイフェッツのsilent classの応用)。
4) バージニア工科大
capstoneに限らないのですが、リーダーシップ持論を書かせ、ブログに掲載(学生の側の選択でイントラネットだけにもできる。そのようなブログサービスを使っている)。これもBLPでも可能。持論を「盛って」書いてしまうのを予防することにもなる。タイムスタンプを変えられないようにしておいて外部公開にも適する。
いままでcapstoneは仕上げだと認識されていたため、そこで初めて(あるいは一番派手な)外部クライアントを招き、「戦略立案プロジェクト」とするような方式が多かったようなのですが、それだとリーダーシップの学びに繋がりにくいという反省から、最終科目は仕上げではなく「社会への架橋」であるというreframingがうまれて今回紹介したような例が新しいものとして注目されているようです。
四日目はまず、若手でリーダーシップ教員・研究者として採用されている7人が、米国の大学におけるリーダーシップ教育の標準形を作ろうという野心的なプロジェクトの旗揚げ宣言。これは前にも書いたLeadership Education MIGの人たちが多く入っています。ただ、ILAはこのプロジェクトを公式に後押しする決断には至っていないようです。目標の一つにグローバル対応というのが挙げられていましたが、全員アメリカ人のようで、グローバル対応についてはどのくらい本気なのかは今日はわかりませんでした。
さらに、リーダーシップ教育の正当性(legitimacy)というセッションがあって、これが非常に興味深かったです。米国は伝統的に社会がリーダーシップの重要性を認知してきた(ここが日本とは大きく違う)のだが、大学で授業としてリーダーシップを教えるべきだという流れになってきたのは1990年代で、その時期にSchool of LeadershipやDepartment of Leadershipが爆発的に増加。(そこで何を教えるかの標準化が必要だというのが初日の若手たちのプロジェクトの目的でもありました。) 増えたSchoolやDepartmentは大学の中の既存のSchoolやDepartmentと並び立つことになり、大学には「リーダーシップなんて学問なのか?(民間の人材開発コンサルが企業に依頼されて従業員や幹部に研修するのはともかく)大学で教えるべきものなのか?」といった批判の声も当然あるため、「リーダーシップの研究と教育には正当性legitimacyがあるのだ」、とリーダーシップ教育担当側(つまりSchoolやDepartment)が主張する必要があるという話です。日本の場合は、社会がリーダーシップの必要性を認識し始めたばかりなので米国とはだいぶ事情が違うのですが、しかしいったんその認識が広がると(つまりリーダーシップ教育が流行り始めると)日本のことだから集中豪雨的に広がって、日本でも無手勝流の教え方も増えそうではあります。尊敬する若い同僚の松永正樹さんによれば日本のコミュニケーション学でもほぼ同じことが起きたそうです。
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