カテゴリー「02ussd. San Diego」の6件の記事

2014年11月 9日 (日曜日)

リーダーシップ教育のlegitimacy

ILA3日目。大学におけるリーダーシップ教育の正統性legitimacyの問題の座談会に行ってみました。そこで議論されているのは、リーダーシップ科目が学内で認知されておらず単位がつかないとか、副専攻がせいぜいだとか、教員は非常勤ばかりだとかの大学があって、その現状を打破したいのだが、ILAが何か支援できないかという話でした。それにはILAがリーダーシップ教育の認証をやったらいいのじゃないかというアイデアも出されていましたが、聞いているうちにどうしても言わなくてはと思い手をあげました。「いま議論されていることは、アジアの大学のリーダーシップ教育プログラムを支援するという観点で言えば、申し訳ないが、贅沢品の議論ではないか。アメリカでは、学内にリーダーシップの意義を理解する人が少ないから苦労するのではなくて、皆リーダーシップの意義は理解しているものの、家庭や高校だけでなく大学でまで教えるべきものかどうかで議論が分かれているだけのように思える。しかるに日本を含むアジアでは、一部の国でリーダーシップの意義が理解され始めただけで、社会の理解はなく、中国に至ってはリーダーシップの訳語すらないと聞いている。しかしそういう国でもリーダーシップは本当は必要ではないのか。そうならILAはどう支援していけばいいのだろうか」と意見を言いました。英国人のパネリストが「そうだ、日本でリーダーシップ教育プログラムを始めるのは不可能だろう」と口を滑らせたので、「明日の私のパネルに来てください」とちゃっかり宣伝しておきました(笑) 

その座談会が終わって廊下に出ると、タイミングの良いことに、アジア系の二人組が歩いていたので、「この大会でアジアの人らしき人を見たら必ず声をかけているんです」と言って話しかけたら北京の精華大学学生部の人で、来年からリーダーシッププログラムを始めるそうなのです。どういうリーダーシッププログラムか知りたかったので、「中国でリーダーシップのことを分かっているのは誰ですか」と質問してみたら「心理学と組織行動論とビジネス界の人」とすらすら答えたので、凄い、ちゃんとリサーチしているなと分かります。立教の授業を見に来てくださいと招待しました。

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男子学生をどう巻き込むか

同じくILA2日目、「男子学生をリーダーシップ科目にどうまきこむか」という座談会があり、カンザスの州立大と私立大で統計をとると成績も、リーダーシップ科目の履修率も、留学の申込み率も何もかも、女子学生のほうが断然優秀で熱心。これどうしたらいいんだ? という話。立教GLPでも似た現象が起きていますが、なぜなんでしょうね。留学については、男子学生は周りが申し込むかどうかで左右される人が多いが、女子学生は周囲は関係ない、という調査結果もありました。小グループに分かれてのディスカッションでは、人種の問題だと言い始める人がいて(私に言わせれば)混乱しました。あとで登壇していたカンザス州立大の人に「人種問題極小の日本でも全く同じことが起きている」と告げるととても驚いていました。

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フォロワーシップを強調する贅沢

ILA@SanDiego二日目の午後、『Leadership is dead』という有名な本を書いたBarbara Kellermanハーバード大教授を招いた「Where does leadership go?」という座談会がありました。この本を読んでみたら権限のあるリーダーシップのことが中心であるし、そういうリーダーシップが社会全体に豊富にある(ありすぎる)ことが前提になっているという印象を受けていました。同教授は今回の大会でもFollowershipを強調する別の座談会で登壇していましたので、フロアからの質問の時間に、私が手をあげて質問というか、コメントしました。「Japanese people, at long last, started to understand the meaning and significance of leadership without authority. Now, if universities in Japan start to teach something like followership, they can soon go back to charismatic leadership or even dictatorship. That is my concern.」 こういう会場でとっさに質問したりコメントするときはわかりづらい発言が多い私にしては珍しく、たぶん会場の多くの人の賛同は得られたようで、あとで何人もの人(知らない人を含めて)から「よく言ってくれた」と言われました。

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To help students live a better life

ILAサンディエゴ大会でのある若手パネリストのプレゼンテーション。アメリカの大学では90年代からリーダーシッププログラムが爆発的に増えましたが、それでもまだ学内で「リーダーシップなんて大学で教えるものじゃない」という古い考えの教授達がいるという話。
いまはリーダーシップ専攻のある学部に就職している若手が、某著名大学の博士課程でリーダーシップの博士論文を書いていた頃、経営学部に就職しないか?という話があって面接に行きました。「君の教育的なゴールは何か」と聞かれたので「To help students to live a better life」と答えたら「ほら、それが君のいかんところだ」と言われてしまった由。期待されていたのは「経営者になるために必要な知識を効率的に教えて経営者を輩出することです、というような答らしいのです。
こういう場合、大学の中でリーダーシップ科目を単位つきのものにするかどうかですら一悶着あり、主専攻や副専攻にするかどうかでももちろん悶着あり、まして必修にするかどうかならばもっともっとモメます。各大学でのこうした闘争?の歴史や秘話を共有するのが、前回のモントリオールあたりから、この学会のホットトピックの一つになってもいる模様。
サンノゼ州立大や立教のような、経営学部発で全学リーダーシップ教育が始まったというパターンが最も多いわけではなく、農学部などのほうがかえって多いように思えます。農学部は、大規模州立大には必ずあり(というか州立大設立の最大のきっかけが農学研究・教育であることが多い)、そこで地域の農家や農政のリーダーを育成することが要請されてきたのかもしれません。

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2014年10月30日 (木曜日)

UCSD訪問

きのうは私立University of San Diegoに行ってきましたが、続けて本日はもう少し北方の郊外にあるUCSDカリフォルニア州立大サンディエゴ校でした。キャンパスに着くなり既視感があり、巨大州立大によくある作りになっているのが分かります。UMSL(ミズーリ州立大セントルイス校)やUH(ハワイ州立大マノア校)、メリーランド州立大カレッジパーク校、バージニア州立ジョージ・メーソン校等に行った時とよく似た感じです。キャンパス中心部にUniversity Centerがあり、巨大な学生食堂があり、上階に学生部Student Affairsがある。これも同じです。学生は州立大の常でアジア系がかなり目立ちます。きょうはこの学生部がおこなっている単位なしのリーダーシップ授業を見てきました。たまたま屋外でゲームを行う日で、3つのゲームを通してKomivesさんのテキストで学んだことを復習するという授業内容でした。ハワイ大学の場合は学生部主催ではあっても、ライティングの授業を兼ねているので、単位になる正規授業ですが、ここの場合は全く単位にならないし、急にその日から飛び入り参加も可能という作りなので、教員からすれば積上げ式よりは読み切り式にしなくてはいけないという厳しい制約がありますが、学生は単位目当てではないので何かを学ぼう、自分を変えたいと思っている様子はありました。

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使っているゲームはいずれも初めて見るものでしたが、日本人学生だとスッとできてしまうに違いないものばかりだったので、授業が終わってその旨感想を言うと、まだまだある、と分厚いゲーム集を見せてくれました。単位無しでもしっかりリーダーシップ論のテキストを使ってゲームの振り返りしているところは見習わねばならないと思いました。コミベスさんかノースハウス教授のテキストをどなたか翻訳してくださらないものでしょうか。コッター、ベニス、バダラッコ、ハイフェッツ、マッコール等などは必読(いずれも翻訳あり)と思いますが、リーダーシップ開発入門者の教科書というよりは個別話題の専門書寄りです。

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サンディエゴ大学訪問

去年のILA(モントリオール)で知り合った教員の勤務するサンディエゴ大学(私立)に行ってきました。市内から車(Uber)で15分くらい。丘のうえにある、こじんまりとした非常に美しいキャンパスです。学生の大半は学外から通学していますが、ビーチ寄りのところに固まって住んでいるそうです。ローマンカソリックの大学ですが、教員も学生もローマンカソリックであることは要求されない由。ボストンのNortheasternに行ったときも感じましたが、学生が裕福な家庭出身の人が多い印象を受けたので尋ねてみるとそのようです(授業料も高いほう)。細かいことですがゲスト用のネット接続が非常に高速で、予算を惜しんでいない感じ。建物も豪華です。写真はreflection gardenという、海岸の眺めが良い場所です。

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訪問したのはSchool of Education and Leadershipで、これは教育学とリーダーシップという2つのマイナー(副専攻)担当部門の合体した部署。主専攻として選べる科目にはなっていません。学生は一つ以上の副専攻を義務付けられています。リーダーシップを副専攻として選択している学生は全学で現在75名(BLPはもちろん、立教GLPより小さい)。ただ、リーダーシップは大学院のPhDコースも持っています。副専攻なので当然単位つきです。100名くらいまでは収容できるが、1クラス20名以内に収めるには100名超えは予算上無理と言っていました。学内の他の部署でリーダーシップ教育をになっているところとしては、経営学部と学生部。ただ、経営学部は全然違って経験学習の要素無し。学生部はretreat(合宿)をしていて当Schoolと連携。というわけでこのキャンパスではこのSchoolがリーダーシップ教育の中心であり、今回のILA総会の開催担当大学でもあります。他に、場所柄もあるのでしょうが軍との関係も密接で、ROTC(これは多くの大学にある)以外に、G.I.Billで退役軍人が大勢授業に来ているし、リーダーシップの教員にも軍出身者がいます。

授業は2つ続けて見学しました。一つ目は1年生の科目で、18名。先週ちょうどsilent classをやって、その明けの日でした。ここのsilent classは上級篇とも言うべきもので、教員が教室に来ないのです。しかもたまたま先週はいつもよく話す5人の学生たちが偶然欠席だったのでその人たち抜きでどうクラスを維持していくかという試練でした。そこから一週間経って(いや週二回あるとしたらもっと短期間ですが未確認)昨日は、最初はあまり活発でなかったのですが、教員の巧みな質問によって振り返りが進み、後半はI’m super-motivated now!と言い出す学生が出るくらい活発化していました。

2つめは2-4年生のクラスで、ここに来るまでにリーダーシップ論の本をかなり読んできたので、来週の中間テストに備えて復習する回でした。Jengaという積み木のピースを倒さないように一本抜くとそこにリーダーシップ論についてのクイズが書いてあり、引いた人が答えるか、誰かに教えてもらいます。毎週かなりの量の読書をしてきているのでクイズもかなり盛りだくさんでした。このクラスは二人のPhD学生(つまり資格としてはまだ修士)が教えていて、主任の教員が見に来ていました。

この主任の教員は昨年のモントリオールでリーダーシッププログラムの最後の科目をどう組むかという事例紹介をしていました。先行する他の科目と違って、この最終科目は大胆な構成で、シバラスが2行だけです。1)changeを創りだすプロジェクトを自分で組みなさい。2)リーダーシップ持論を書きなさい。これだけ。クライアントを教員が準備してくるといったことは無し。学期まるごとsilent classというか、補助輪完全外しですね。前にも書きましたが、最終科目をcapstoneと考えるとBL4のようになり、社会に出る準備としてのbridgeと考えるとたとえばこのような作りになるということかと思います。この他に、bridgeとしてはバダラッコの本のようなことを疑似体験できる設定の授業が作れるならそれもbridgeとしては大変有効なのではないかと思いますが、それにはどうしたらいいのか私にはまだ答えが見つかりません。

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