カテゴリー「02ush. Hawaii」の16件の記事

2015年1月18日 (日曜日)

ディープ・アクティブラーニング

新しい本(小生は章1つだけ分担執筆)が出ました。松下佳代京大教授編著『ディープ・アクティブラーニング』(勁草書房)です。執筆陣は、松下佳代さん、溝上慎一さん、エリック・マズールさん始め教育(工)学関係の凄い人たちで、一緒に書かせてもらえたのは大変光栄なことです。一昨年に書いた『大学教育アントレプレナーシップ』は、実践報告という面が強かったのですが、今度の論文では、もう少し理論寄りに書いたつもりです。一年近く前の海外出張の時に集中して書いていたものがもとになりました。月末か2月初旬に書店に並ぶそうです。

以下が私の書いた第9章の要旨です。

 1) 新しいリーダーシップを涵養する科目は、自然にアクティブ・ラーニングになる。そればかりか、一般のアクティブ・ラーニング科目も全て、多かれ少なかれ学生の教室内のリーダーシップを前提にしており、学生がアクティブに学ぶための支援は、リーダーシップスキル涵養の科目内容に近くなる。
 2) このことから、アクティブ・ラーニングの新しい定義として「学生のリーダーシップ発揮を通じた学習」が有用である。この定義は学習のソーシャルな面を含み、なおかつ学生支援として何が必要かのリストも作りやすい利点がある。
 3) アクティブ・ラーニングがどれだけディープになるかは、アクティブ・ラーニング支援という補助輪(足場)を外していくことを行なって、学生が学校の外や卒業後も教員の支援無しで学習を組織できるようになれるかどうかにかかっている。
 4) ただし、「内向的」な学生にとっては、学習目標にリーダーシップ涵養が入っていないままでアクティブラーニングを強いるのは、苦痛な迂回としてとらえられる危険がある。逆に、学習目標を明示したうえで内向的な学生にリーダーシップ教育を行う価値は高いかもしれない。
 5) このように、リーダーシップ教育論は、アクティブ・ラーニング論やディープ・ラーニング論にとって、新しい強力なツールである。


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2014年3月16日 (日曜日)

大学職員の教育上の役割・学生の学内アルバイト

 ハワイ大学に限らず米国の大学では学部学生が大勢学内でアルバイトとして働いています。ジムに行くとそこにいる係員は全員学生。図書館も一部学生。教室の鍵を開けたりプロジェクタをセットアップするのも大半が学生。Student Life and Development (学生部)にも正規職員と机を並べて大勢学生が働いています。こんなに学生に任せて大丈夫なんかいな?と学生部の職員に尋ねたら、「教育上の目的でそうしている」と。「だから彼らが経験不足で失敗したら(実際失敗は多いんですが)、罰するとかクビにするとかではなく、ここから何を学べるか?と言語化するのが第一です」と職員が答えていました。日本でも学内で学生バイトを使う大学は多いですが、職員がここまではっきりと、建前上も実質上も教育を担っているという例は少ないのではないですかね? へたすると、「学生と接するのは教員でなければならない。職員はカウンター越しにのみ学生と応対すべし」みたいなスタンスになって、教員や外部委託企業の社員に学生応対を任せがちではないかと見えます。(関西では同志社大と愛媛大が中心になって職員のstudent servicesを研究するネットワークがあると聞きました)
 リーダーシップ教育については、米国の大学のリーダーシップ・プログラムは経営学部と学生部のどちらかあるいは両方にあることが多くて、学生部のほうは職員(のうち主にPhD持ちの人)が教員役をしていることが少なくないのも、職員も教育に直接関わるという考えからすると自然なことなのかもしれません。もっとも、別の機会にも書いたように、リーダーシップが「専門知識として」教えられるべきなのかどうかについては論争中の大学も多く、そこではリーダーシップ教育の「専門科目としての」legitimacyが問われるわけです。

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2012年12月16日 (日曜日)

APLPで本格アクション・ラーニング(2012年9月)

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ホノルルのAPLPでアクション・ラーニング講座をしてみました。平均30歳代で出身地はアジア、北米、オセアニア、ポリネシア、中東などさまざまです。
(日本語版は後半にあります) photo by Yuta Morinaga.

I had Asking Questions (Action Learning) workshop with G12, APLP last week. The structure of the workshop is basically the same as the last year (G11). On Day 1 facilitators (action learning coaches) were trained. I called for 12 volunteers to attend this training session and fortunately all positions were filled within just two hours since the application started!

Day one. Three official coaches, Tomono Miki, Yuta Morinaga and me, certified by Japan Institute for Action Learning (JIAL) (who are COB Rikkyo professors as well) and Andrew Soh from G11 served as coaches on Day one. In the second session two people from G12 (non-native speakers!) volunteered to sit as coaches and they went on to serve as coach’s coach on Day two.

On Day two ten people from Day one sat as coaches in turn for two sessions. They seemed to enjoy the workshop very much and did the grouping and logistics for Day two as well. 29 people of G12, including the 12 volunteers were divided into 5 groups and had two sessions within 3 hours.

Clearly 6 hours is not enough for training of action learning coaches. Coaches made some deviations (excessive improvisations) from the template. Some of them could not resist stepping into the contents of the discussion and dared to summarize the discussion in their own words. Another coach liked the development of the discussion too much to move on to next steps like action plan and reflections. Still they did a great job having the members experience how one small question can change the entire course of discussion, how asking question can be leadership, or how coaching is effective for learning and teamwork.

Thanks to the eagerness to learn of G12, the workshop was a great success. I owe a lot to Andrew Soh of G11 and those who volunteered for coaches, entire G12, and APLP faculty (Nick and Scott) who thoughtfully placed this workshop close to the module of “adaptive leadership”.

Asia Pacific Leadership Programの第12期生(G12)を対象にアクション・ラーニング(質問会議)を行いました. ワークショップの構成は基本的に昨年度と同じで, 第一日目は少数の志願者にALコーチ速成講座を行います. 本年度は12名の枠で志願者を募ったところ募集開始から2時間で定員が埋まりました.

初日, 日本から合流した三木・森永助教と日向野(三人は日本アクション・ラーニング協会の認定コーチで,森永さんと私はアメリカの協会でもコーチ講座を受けました)と,昨年度のG11出身者Andrew Soh君がコーチになりました(班は2つだったので実際は三木・Sohの二人). 第二セッションでは二人が立候補してコーチ役をつとめました(立候補したのは非英語圏の人たちでした!) 

二日目は, この12人を含むG12全員つまり29人を5つの班に分け(班分けや名札の用意なども初日の志願者たちがやってくれました), 2つのセッションに初日組の残り10人が入り, 初日の二人や教員たちはコーチの後ろで助言する役に回りました.両日併せても6時間にしかならないワークショップは,コーチ養成としては明らかに時間不足で,速成コーチたちはいろいろ逸脱(行き過ぎた即興)をやってくれていました. あるコーチは,じれて議論の内容を手際よく自分の言葉で要約していましたし, 別のコーチは議論の進展に感動したため次のステップに進もうとしませんでした. それでも, コーチたちは, 一つの短い質問が議論全体の方向を決定的に変えてしまうことがあることや, 質問することがリーダーシップになりうることや, コーチがいるおかげで学習やチームワークがうまくいくことなどを,メンバーに経験させるという重要な役目を果たしてくれました.

第12期の皆さんの熱心さのおかげでワークショップは成功したと思います. Andrew Soh君や初日に志願してくれた皆さん,それに12期全体,さらにはこのワークショップを賢明にもadaptive leadershipの翌週に配置してくれたAPLPコア教員諸氏にも感謝したいと思います.

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2012年5月24日 (木曜日)

リーダーシップに対するニーズ

 私の経験した範囲での話ですが、米国では、リーダーシップが重要だ、とかリーダーシップ教育は必要だ、という認識は、日本とケタ違いに普通のことのようです(米国でリーダーシップ教育の成果が順調にでているかどうかという話は別だけど)。リーダーシップというとカリスマ性のある凄い人、織田信長とか豊臣秀吉をイメージしてしまって、「私には関係ないこと」と思ってしまう人が多いせいかも(あげくの果てに「フォロワーシップも大事」という話になってしまう。これはリーダーシップを二元論dualismでとらえているせいですね)。米国では、大学の職員とか、銀行で口座を開くときに話すマネジャーとか、「何を教えているんですか」という話に自然になり、そのとき「マーケティング」と答えるの以上に「リーダーシップ」のほうが分かってもらいやすいと言えるかもしれない。ホノルルでタクシーの運転手が興味を示すからリーダーシップのことを話したら料金を値引きしてくれてこっちが驚いたこともありますw

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2012年2月19日 (日曜日)

山形で合宿研究会

 粉雪の舞う山形での学会(合宿研究会)終了。参加人数20-30人くらいで、特定の研究テーマについての議論やスキル向上を目的について毎年開かれる会で、今回は「海外の学会でプレゼンする」ための練習。数カ月前のエントリーから当日のプレゼンまでをカバーしており、やりかたについての講義を聞いた直後に実際に各自当日のシナリオ(発表原稿)を作りプレゼンし批評しあいコメントをもらう、という極めて実践的な内容だった。学生時代にはそういう訓練を受けていないので今まで我流でやってきたが、今回のようなトレーニングをもっと早く受ける機会があればよかった。EAPを学部学生のときに受けられる経営学部生がうらやましい。  初日が終わったところで懇親会があった。普通、学会や研究会のあとの懇親会というのは、「おつかれさま」という意味もあるのだが、今回は翌朝一番から各自プレゼンしなくてはいけないので、「おつかれさま」どころか、講義で仕入れたノウハウに基づいて自分のスライドや原稿を直すために皆早く宿に戻りたいので、どちらかというと懇親会は翌日のセッションで遠慮無くコメントしあうためのアイスブレーキングの意味合いがあることにきづいた。  ただ、私を含め年長組は(経験上、地元の美味いものがあるに違いないと思っていてw)ついつい二次会に行ってしまい、私は翌朝早く起きてスライド直しした。7月のバージニアと10月のコロラドで学会発表があるのだが、まだ論文は影も形もないため、11月にホノルルで行なったワークショップのイントロ部分を使ってみた。インタラクティブに行おうとするときにはスライド一枚あたりの時間を多めに見込まないといけないことや、ワークショップのイントロ部分だけを使うときにもイントロだけを聞いた人が何を学んで欲しいかをこちら側から明示しなくてはいけないこと等を指摘された。二番目の点はまったく盲点だった。  明日は別の研究会が終日ある。そちらは日本語だが、比較的少人数で相互批評がある点は共通している。秋のロンドンでのリーダーシップ学会が多人数のわりにフレンドリーで建設的なのにも驚いたが、今回の少人数ワークショップ的な研究会も非常に良かった。大規模学会の大きな部屋でのプレゼンとは別の魅力がある。

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2011年12月 3日 (土曜日)

ホノルルで質問会議(アクションラーニング)

 ホノルルは雨期に入って、ほぼ毎日のように少しずつ雨が降る。夜は気温が下がるので、短パン半袖では寒い日も多い。しかし雨は長くは降らないし弱いのでカサをさす人はあまり居ない。雨のあとに晴れ上がることも多い。英国の湖水地方出身のBarkerさん(APLPの責任者)は故郷の気候との類似性を感じるのだろうか、自分にとっては11-12月がベストシーズンだと言っている(短期間にビーチや山の景色を楽しみたいという人には、はやり乾季4-9月のほうがいいのかもしれない)。
 さて、9月に、映画「12人の怒れる男」における質問の使われ方という形で予告篇授業をおこなっておいたアクションラーニング(質問会議)を、今週日曜と月曜に、学生を対象に実施した。目的は、リーダーシップのための質問力の養成。学生たちは、前にも書いたように平均年齢31歳、22カ国から来ている42人(の中から希望した者)。全員働いた経験があり、学歴としては修士・MBAが普通でPhDやMD(医学博士)もいる。共通言語は英語で、ネイティブは半数強くらい。
 今回の実施設計としては、全日程二日間で、初日に4-6人くらいでまる一日かけてコアメンバーを養成する(本当はこのコアメンバー養成だけで2日間くらいはあったほうがいいが今回それは不可能)。そして翌日はコアメンバー1人につき4人の新メンバーがついてセッションを4つ行う。人数は前日まで分からなくて辛かったが、初日は結局5人。なので、一応は20人まで収容可能な体制ができて、事前の調査で14人手を挙げていたのが結局10人だったので、3グループで済んだ。シニアコーチが全体で共有するときのことを考えると、このくらいの人数(テーブルごとのコーチを含めて15人)までのほうがやりやすい。タイミングが最悪(朝一番に重大なレポートの締切がある当日とその前日)であったのにもかかわらず、適切な人数だったのは良かった(Barkerさんの人数の読みも正確だった)。
 初日は日曜午後。参加してくれたのは、米国、クックアイランズ、インド、中国、マレイシアの学生。最初の三人はネイティブだ。最初にスライドで30分ほど導入し、あとは50分のセッションを1つ、日向野がコーチとして行い、そのあとは希望者がコーチになって、結局13時から19時まで6時間、小休止をはさみながらおこなった。翌日はこの5人が核になり、3つのテーブルに5人が分かれて入るという、結果としては結構恵まれた設定になった(グループの中に経験者が二人いると質問の質が断然高くなるだろう)。二日目のほうはノンネイティブの比率がぐっと高くなった。
 コアメンバーの一人で普段はエモーショナルでクラス内で多少浮いているところのある米国の女子学生が、コーチ役になるとメンバーの表情を読むのが抜群に上手く、非定例介入を毅然としておこなうという新しい面を見せてくれたのが嬉しかった(私がヒラのメンバーとして加わったセッションでは、私の本質的な質問について、「Miki、あの質問、もう少し後だったらもっと良かったかも」と後でコメントしてくれた。同じくコアメンバーの中国の学生は夏ごろからこの講座に関心を示していて人一倍熱心だったのだが、クリアに短く表現するのが苦手なのか初日にはセッションのメンバーとしては苦戦していた(しかし後日、昔の航法で太平洋をカヌーで渡るので有名なNainoa Thompsonのスピーチセッションでは早速エドガー・シャインの質問法を使って安全を確認したうえで質問していた。)
 二日目だけ参加した学生も、ランダムにテーブルに座ったので、同じクラスで8月から同じ寮にいるとはいえ余り親しくない学生もいる中で結構個人的な問題を提示していて、アクションラーニングの効能(とくに問題解決面)を実感していたようだ。チームビルディングに役立つという面も、多くの人が驚いていて、コアメンバーの一人のクックアイランズとマレイシアの学生は「アクションラーニング自体面白いし、今年の学生の何人かは仕事でハワイに残るので、今コーチ研修をうけておいて、来年の学生のセッションのコーチになれば上下を結びつきもできますよね」(これはまさにBLPでSAがおこなっていることに近い!)と、いま候補探しの活動中。近々私も参加して追加セッションをおこなう予定だ。
 終わってから翌日以降に個人的にフィードバックをくれた学生も何人かいた。その中で、二日目から参加した米国人は、「この方式のセッションの良さを明確な形で示すには、第一セッションはアクションラーニング方式でなく普通の会議にしてみたらどうですか?」と意見をくれた。これは面白い提案。実施にはいろいろ工夫が要るけれども、うまく実行できればデモとしては凄いだろう。コアメンバーの一人のインド人(医師)は、「Miki、三つ直すところがありますよ」と言う。(1)How to better ask questionsという題名だと、一日で質問が上手くなると思い込んで参加してがっかりされる危険があるのでLearning outcomesをもう少し正確に表現したら? (2)前のと関係するが、ツールのパッケージではなくてプロセスを経験することが主眼であることをもっと強調してはどうか? (3)シャインの四つの質問のどれを今尋ねるべき時間帯かをテンプレートに追記してしまってはどうか?
 (3)はすぐ実行できる。(1)(2)は題名をHow to practice asking (better) questionsに変えることから始めようか。
 こんなに建設的なフィードバックをもらえて、しかも授業時間外にも追加セッションやって次世代に繋ぎましょうなどという提案まで出てきたので、初回としては大成功だったと言っていいと思う。授業時間枠をくれたうえにメンバーとして自らも参加してくれたBarkerさん、二日間合計11時間参加したコアメンバー、締切明け寝不足状態なのに長時間参加した他メンバーに感謝。

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2011年9月12日 (月曜日)

プロたちの集う教室

 「12人の怒れる男」の感想を学生に尋ねていたら、ほとんど例外なく好評だった。「質問力から見た『12人の怒れる男』」も良かったですよ、と言ってくれる人も多くて、あの講座はいつ開くんだ?という問い合わせも多数いただいた。ありがたいことなので充分準備して臨みたい。映画の使い道については、今回は1) 「影響力」の使われ方の例として、2) 質問力講座への導入として、の二つだったけれど、他にも例えば「偏見」(人種や世代や年齢など)の例証にも使えることにも気付かされた。
 昨日ランチに一緒に行った学生たちと話していたのは、結局クラスの中でよく発言しているのは、いつも決まった数人ということ。質問力(というか質問して成功する体験)をつければこの状況は少し変わるのかもしれない。というのは、内容は100%分かっているのに発言しない人が(nativeにもnon-nativeにも)多数居るし、逆に、よく発言する人でもよく分かったうえで発言しているとは限らない(これはnativeに多いかなw)。しかしとにかく発言した人は授業の進行にかかわることになるので本人は理解度が上がったりモチベーションが上がるのは間違いないし、教師も、少なくとも授業中は(皆の目をみて理解度を把握するのはもちろんだけども)、発言する人への対応をどうしても優先しがちになる。
 大学を卒業して勤めたり起業してプロとして過ごしてきた人たちなのに、また学校に来るとkidsに戻ってしまって自分勝手に行動している気がする、と言っていた人がいて面白かった。授業料を自腹で払っているので消費者気分がどうしても混入してきてしまうのでしょうかね。この「自分勝手」というのは、授業中に眠ってしまったり、遅刻したりということを指しているようだったけれど、授業中の発言や質問についてはどうなるのでしょうね。分からないことがあったときに、もしかして他の人は分かっているのなら迷惑かもしれないと考えて遠慮するのがプロなのか、それともプロ同士で時間を共有しているのだから自分の考えたことを共有しないほうがいけないことなのか。どうも後者が正しそうですね。

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2011年9月11日 (日曜日)

Silent classの振り返り

先日ログを書いたハイフェッツ風Silent class(ま、silentなのは教員だけで、学生のほうはそんなに沈黙してないわけですが)は午前中3時間行われ、午後は2時間かけて振り返りでした。振り返りの内容は企業秘密かなと思って書かなかったのですが、全然構わないってことなので、忘れないうちに書いておきます。おおむねハイフェッツの本(いま手元にないのだけど、「最前線のリーダーシップ」その他)に書いてあることに従っていて、

まずadaptive leadershipとtechnical leadershipを説明。解決されるべき問題が明確に分かっていて、専門知識や技術をどう調達してくるか・動員するかがtechnical leadership、対照的に、何が問題でどうしたらいいのか分からなくて、試行錯誤と学習を繰り返すしかないときに、それでも成果をめざして行動をおこすのがadaptive leadershipです。両方だいじなことなのですが、今回はadaptive leadershipとは何かということを経験的に学ぶということです。この二つを区別する例として挙げられていたのは・・・年老いた父親がしょっちゅう車をぶつけて息子のところにやってくるようになった。そのとき何も言わずに修理を手配するのがtechnical leadershipで、父親に座るようにすすめて「父さん、もう運転はやめるべきなんじゃないかな」と切り出すのがadaptive leadershipだと。

technical leadershipで片付きそうかどうか見極めるdiagnosisが非常に重要で、それで片付きそうにない問題にtehnical leadershipで対処しようとし続けるのがよくある大きな間違いだ、と。さらに、権限authorityを使って解決しようとするのもtechnical leadershipを選択しようとする一つの兆候である。またadaptive leadershipは試行錯誤なので、ダンスフロアとバルコニーの間をしじゅう往復する必要がある。

概略こうした説明をしたうえでグループで下記の振り返りをおこなっていました。

Q1: How much time did you spend on diagnosis this morning?
Q2: Did you take the silence class as technical problem or adaptive challenge?
Q3: What was the adaptive challenge this morning?
Q4: When and why did you resort to authority?
Q5: Were there times when you were outside of PZD?
Q6: Were you able to move back and forth from the dance floor and the balcony?
Q7: Which interventions were successful and why?

この授業を実行するのは教師としては勇気が要りますね。担当しているBarkerさんも「年間とおしてこの回の始まるときだけはドキドキする」と言ってました。ニューヨークのMBAに行っていた学生はこれの三日間ぶっつづけバージョンを経験してこともあるそうです。

私から見ると、今回は導入も念入りだし振り替えりの仕掛けもよく整っていると思うのですが、きょうランチに一緒にいった若い学生は「なんだかここの授業ってリーダーシップに特化しているのはいいけど理論と実際の橋渡しがよくできてないよな」とか批評していたので、「ほらこの前のsilent classで橋渡ししたじゃないか」と言ったらポカンとしていたので、ほんと全員に意図を分かってもらうのは難しいものだといつもながら思いました。

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2011年9月10日 (土曜日)

APLP持ち寄りパーティ

昨夜おこなわれたAPLP公式の持ち寄りパーティ。これに数人加わると全員です。この中に僕を含めると日本人は4人か5人いるはずです。40人で20か国なので、日本人は国籍別には圧倒的に最大勢力ですが、もっとも静か。こういうのサイレント・マジョリティって言う?(違

料理の写真はないのですが、アジアやインドの人たちが作ってきた料理が凄く美味しくて感心しました。インドの男性の持ってきたのが特に美味かった。主任教員が"APLP potluck is the best restaurant in town."と言ってましたが、本当にそうかもしれません。僕のペンネ・アラビアータは1kgも作って(他に20人も持ってくるとは予想せず)、後半ペンネがノビノビになってしまいました。

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下の写真は学生寮。APLPはEast-West Centerの中の一部門なので、他の部門の院生たちもここ(ともう一棟)に混ざって住んでいます。中は共同キッチンがあって炊飯器が並んでます(たぶん近日中に出張料理予定なので、忘れなければ撮影してきます)。

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本部棟。この中に事務部門と研究室がまとまってはいっています。僕のオフィスは4階建ての3階。

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室内は米国東部のボストンやニューヨークの大学ととてもよく似ていて既視感があります。ただ、廊下の壁にかけてある絵画が豊富なので楽しいし、慣れないうちには絵を目印にして迷子にならないようにできます。廊下の奥にあるマオリ族の絵が僕のオフィスへの目印。

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ここを右に曲がります。

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オフィスの机の配置を変えてみました(窓を背にして座れという古い原則にしたがってみました)。左奥にあるいかにも古そうなCRTは支給されたDellのパソコンので、あまり使わないので本体は床に下ろしています。

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2011年9月 7日 (水曜日)

Silent Class

 ハイフェッツ教授の「バルコニーとダンスフロア」という卓抜な比喩についてはこれまでにも何度か書いた(こちらや、こちら、最近ではこちら)。同教授の名物授業のパターンの一つに、教室に到着した教授が何時間も何も言わないで教壇の椅子に座ったままで居るという実験がある。この実験をAPLPの学生40人でやってみるのが本日(現地時間9月6日)の献立である(もちろん学生にはそうとは知らされていない)。
 教室に定時前に着いた教員は、いつものように学生や他の教員と談笑していて、これから何か特別なことが起きるという予感はない。不自然感もない。また、事前に渡されている教材には「adaptive leadership」と書かれていている。時間割は9時から11:30まで予定されている。以下、クラスの動きやリーダーシップ、つまりプロセスに変化があるところを●、そうでなくコンテンツだけの変化のところを○をつけてログをとってみた。
●9時00分、定刻になると「きょう教室に入ってきたときに、何を忘れて(let go off)何にフォーカスしたらいいか、各班で2,3分話し合ってください」と教員が導入。これはハイフェッツ教授の方法(と伝えられているもの)より相当親切でリスクの少ない方法だ。特にこの学校の場合、フォーカスはリーダーシップにあることは最初からはっきりしているので、2,3分同僚と話せば、リーダーシップ周辺に落ち着くだろう。
○次に「リーダーシップの授業をきょう皆さんが教員として担当するとして、何から始める?」と学生に尋ねる。「ゲームなんかどうですか?」「small group discussionは?」「映画は?」「きょうのbreaking newsについて話すのは?」などの案が出てくる。教員は「良い提案だがその案のpotential dangerはなんだろう?」と反問。学生はdangerについてそれぞれ答える。ここで
”Do you think leadership can be learned?”と問い、学生は”Yes”と答える。これについてはYesでないとここに来ている意味がないよ、と念押し。続いて
”Who is responsible for learning leadership?”と問い、学生から”Individual responsibility”という答えと「いや、そうじゃないだろ」という意見もでる。
●教員が「ここにある二本のボトルはleadership tonicだ。飲めばleadershipが身につく。“devotion, courage and sacrifice”と書いてあるのがタイ版でよく売れた。二本目のこれがアメリカ版で”heroism”と書いてあるが全然売れなかった[これらはハイフェッツのいうleadership with easy answersの例]。三本目はemergent leadershipという名前だが、まだ開発されていない。What does it look like?」と問いを投げかけて教員は座り、黙り込む(ここで開始30分経過、以下、ここを0分とカウントしてログを書こう)。主担当教員二人は前のほうに座って顔をあげ、黙っていて、ノートをとったりはしていない(これはずっと続く)。
●3分後、島型に座った各班でひそひそ話が始まる。インドの学生が教室全体に向かって何か言おうとしてやめる。教員は(主担当が二人)何かしているのではなく教室全体をじっと見ている。じっと見ていることは学生にも分かる。教員に「これから何か話すつもりですか」と問いがあるが目を向けるだけで答えない。「何か話してくださいよ」という要請も無視。
●5分後、インド人の学生が教員に近寄って話しかけるが効果無し。そこで最年少の中国の学生が全員でのダンスを提案し音楽を流して、教員の目の前で踊り始める。学生の三分の二くらいが参加する。いつも発言力のある中国系アメリカ人?の女性がこれに同意して参加を呼びかけると参加者がやや増える。しかし長続きしない。
●7分後、結局全員座ってしまう。三人くらいの学生がこれから何をしようか?と教室全体にむかって提案を始める。教員二人は厳しい顔を崩さない。参観の教員に相談に来る者もいるが同じように無視される(打ち合わせ済み)。
●9分、年長の学生が教材に”emergent leadership”って書いてあるぜとremindする。リーダー格の中国系アメリカ人が自分のパソコンを使って何かプレゼンを行なおうとする。画面が移らないので音声だけ流す(たぶん彼女のお気に入りのリーダーシップに関するインタビュー集)。終わって僅かに拍手がおきる。
●11分、男子学生一人が他の二人に手伝ってもらってホワイトボードを持ち出し、”Observe, interpret and intervene”と書いて、教員スタイルでリーダーシップの三要素という話を始める。大部分の学生は一応熱心に聞いている。ここまで”What do we know about leadership?”について持論を披露しあわないかと提案。
●15分、9分目にreminderになった年長の男子学生がこの提案に応じて自分の経験にもとづいた持論を話す。続いて年長の女性も皆の前で話す。しかしこの二人は持論を話すだけで質問をとることをしない。質問も出ない。この二人の話自体もインタラクティブではなくて固い(準備をしていないのであるから無理もない)。ただ、一人目の話とリンクはしている。
●19分、三人目の志願者(インド出身)が前に出る。彼は、二人目とともに、普段から発言の頻度も長さも大きい常連ではある。自分のパソコンにあるお気に入り?の文章を朗読し始める。
○21分、三人目終了。主担当教員にまた誰かが水を向けるが無視される。ここで初日に活躍した冷静で若いアジア系(香港?)の学生が立ち上がり、「これで11時半まで持つかな」と言いながら質問を皆に向ける。「ここまでの授業のコンテンツは皆全部理解できたかな?」これに対しては今まで発言していなかった学生たち(ラオス、モンゴル)からも手が上がり率直な振り返りが出る。
●26分、「実のところ50-60%くらいしか分からないよ」と言う答えに「どうしてだろう」「英語の問題」という答えもでて、数人から賛同の声があがる。(インタラクティブになり、参加者も増えて、「時間つぶし」「つなぎ」の感が減ってくる)。二番目に志願した多弁な(訛りの強い)女性から「本当に英語の問題なのか」というきつい突っ込みもでる。
○32分、司会役の学生が「50-60%しか分からないと言ってた人たち、理解度は上昇してる?」と水を向ける。すると普段黙っている学生の数人から反応があり、ネイティブなアジア系の学生の一人から「言語的には完全に授業は分かるが、コンテンツは理解できないものが多々ありプレッシャーは感じているということは言っておきたい」と発言。
●37分、ここで初めて日本の学生から発言。英語の勉強が不足しているが、しかし今は皆がサポートしてくれているので英語力は向上していると感じている。ただ、もっとうまく英語を話せればもっとクラスに貢献できるのに、今は自分はuselessと感じている。皆から毎日メールをもらうけど50%しか分からない。
○41分、モンゴルの学生からそれはノーマルで、誰でも問題を抱えているはずだ、と。別の学生からも、英語も問題で困ったらすぐその場でさえぎって聞き返してくれと申し出。
○46分、最初にダンスをリードした最年少の学生が、それじゃあ、これからサーバに毎日のノートを載せるよ、と申し出。別の学生からそれは良いが、それ以外にも何か必要かも、と。別のnative speakerの学生から、プログラムが始まって二週間経って良い転換点かもしれないので、non-native speakerの学生たちにとっての問題をこの際リストしてその解法を一緒に考えようと提案。ホワイトボードにproblemsとsolutionsと大書。モンゴルの学生から、しかし英語は自分の責任なんじゃないかとも。
○52分、別のアジア人の学生「英語の問題そのものがbiggest problemなのじゃなくて、クラスに積極的に参加するのを支援しあうほうがいいのではないか」
○55分、モンゴルの学生から「英語については甘やかさないでほしい」。
●57分、しばらく黙っていたリーダー格の女性の一人が立ち上がって、これはリーダーシップじゃなくてdominationじゃないか、もう我慢できないと叫び、教室を出て行こうとして皆に制止される。
●60分、この問題を考えながら5分休憩の提案。これに従い皆休憩モードに入る。
●66分、トイレから戻ってきた学生たちもいくつかのグループ(必ずしも最初に座ったいつものグループではない)単位でかなり真剣な様子で話し合っている様子。雑談している学生も居ないではない。一人のアジア系の女性が教員のところに近づいていって話しかける。教員はじっと聞いていて頷くくらいはするが、言葉は発しない。
●70分、この学生は食い下がっているので教員はやや困った様子で、頷くのと首を横に振るくらいはしている。別の学生が参観の教員のところにきて質問する。教員は反応しないように努力している。他方、グループ単位の雑談・話し合いはなかなか終わる気配がない。
●73分、一人が、全体会を始めようという身振り(手を挙げ、それにきづいた人が手を挙げ、リレー式に皆が反応して静粛になり授業が始まるというAPLP恒例の授業開始儀式)をして皆が反応。先ほどdominationを論難した女性の姿はない。
●84分、このchaotic messは感情の動きがあって面白いという発言。年長の学生から、こういうことはどの組織、どの会社でも起きることで、一部の人は話すと快適だし、そうでなく黙っているのが快適な人もいる、居なくなる人がいたり怒る人がいてもそれも普通のこと、それがこのプログラムの前提ではないか、と。女性から、
●90分、しかしそれにしてもこの午前中を無駄にしないためにはproblem-solutionを考えておきたい、と。ホワイトボードにclass activities, assignment (discussion and own task)と大書。
●94分、dominateという論難の意味が分からないという発言(dominate発言の当人はいない)
○97分、non-nativeの学生をどう支援するかという話に戻る。モンゴルの女性がいやいや、そういう支援は要らないからとにかく話しかけてくれればいいのだと提案する。
○101分、中国の女性が立ち上がって、私は二つのグループに属している。一つのほうは全員に話させるので素晴らしいが、もう一つはそうでもないので残念だ、と。最年少の学生(ほぼnative)が、特定の人ばかりが話しているのがdominationだとすると、確かによくないかもしれん、黙っている人がいたら私はもっと指名して話させたい、と。
○105分、一人の多弁な女性が全体をしめくくろうとしてか、無知の知のようなことについて語り始めやや混乱する。
●114分、ランチにしようか締めくくりにするかしよう、という提案があり、司会役の一人の学生の一人がここまでの議論のいくつかを要約する。dominationについて怒った女性が帰ってしまったが、その行動が間違っていたとは考えないほうがいいのではないかと提議。間違っていたどころか、問題にきづいたという発言あり。他に二人の男子学生からこのクラスは貴重な機会を提供してくれるという感想の発言があって拍手で終わろうとする。
●119分、教員がやおら立ち上がり、このクラスは今朝どう始まったか、どうして教員が150分間なぜ話さなかったかのか昼休みに考えておいてくれ、と。解散すると、かのdomination発言女性は廊下にいて、他の受講生と話し始める。教員は教室に残っていた学生と雑談している。午前中に学生がとった言動についてのコメントはまだ避けているように見える。

ここまでが午前中の動き。このあと二時間たっぷりと振り返りがあった。

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