
欧州出張記・番外篇第二弾はドイツです
Frankfurt am Mein近郊のIdsteinという市は、ゲルトカルテを使っているには使っているのですが、地元商店街で買い物すると商店街共通のポイントカードにポイントがたまって、駐車場もタダになる、というごく分かりやすいというか簡単な話です。実のところ、これならゲルトカルテなんていう仕組みを使うまでもないんですがね(この市には地下鉄はありませんし)。その意味では地域振興の性格の方が強いプロジェクトです。Idstein市内で買い物で貯めたポイントはまたIdstein市内で使える、市内駐車場でも使える、というわけですので、地域通貨の面もあると言えます。
もう一つTrierという市は、アルプスより北側では一番多くローマ時代の遺跡がある町だそうです。(って翌週ローマには行くからあまりありがたみがないんですが<笑>) ここでも地元の銀行が主体になって、Trier大学キャンパスや商店街でゲルトカルテの普及キャンペーンが行なわれていました。公共駐車場で駐車料金を払おうとしている人のところに美男美女のキャンペーン隊を配置して、「ゲルトカルテでお支払いいただけるなら、最初の5ユーロ入りのを一枚進呈します。アンケートに答えていただくと抽選で賞品もあたります」とかやっていました。キャンペーンついでに地元FM局にインタビューされて、英語で数分話したのですが、昼頃収録で午後4時半にオンエアと言ってたのが予定変更で3時半に放送されてしまい、聞き逃しました。

●東西ドイツ
案内役のK氏によると、東西ドイツ統合の後、旧東ドイツ地域では西よりも賃金が低いので、西側からたくさんの企業が工場を建てるなどした時期がありました。これは統合当時にも盛んに報道されたことですね。ところが、EU統合で人や資本の移動がさらに自由になったので、旧東ドイツ地域はドイツ以外の外国との競争にさらされることになり、チェコやポーランドと張り合わなければならなくなりました。結局旧東ドイツ地域は惨敗してしまい、工場を閉鎖したり、チェコやポーランドに移転する企業が続出したそうです。
いまや旧東ドイツ地域は所得が低く失業も多く、西からは誰も移住しない状態。ただし、西に比べて遙かに自然に恵まれているので観光には向いているそうです。共産主義時代には、遺跡や古い建物のメンテナンスをまったく放置していたので傷んではいますが、破壊はしなかったので、手を入れてやれば観光資源として充分再利用できるものが多いと言われています。
ゼミの学生が4月から旧東ドイツ地域のワイマールに働きに行くのでワイマールのことを聞いてみると、市の予算が足りないので博物館を閉鎖したけれども、観光で地域振興をはかっているはずだと言っていました。そのとき彼が「ワイマール!東ドイツじゃないか」とちょっと軽蔑したような口調で言ったので「Eastern part of Germanyって言わなくていいの?」と聞き直したところから上の会話が始まったのでした。
●イタリア観・オランダ観
いまやドイツ人は世界一海外旅行をする(使う金額ベースで)国民になったそうです。そうでしょうね、かつては英国人だった時代がありますが、ドイツ人はほんとにどこに行ってもよく見かけます。ドイツ人の特に若い人には英語が通じるので話す機会も生まれやすいですね。80年代に来たときに受けた印象と違って、町を歩いている人に道を尋ねるときに英語でまず100%大丈夫、そのくらい英語を話せる人が増えているようです。Trierはフランクフルトから高速道路Autobahnで2時間くらい離れていますからかなり田舎で、そこで生まれ育った50代の人たちもなんとか英語を話していました。
次はイタリアに行くのでひとしきりイタリアのことが話題になりました。そこで僕のかねてからの持論を話しました。どういう持論かというと・・・・なにかとドイツ人はイタリアのことを見下すことがありますが、実はイタリアのことは大好きに違いないということです。ドイツの車の名前の多くがイタリアやスペイン系ですし、ゲーテの昔から、しょっちゅうイタリアに旅行します(80年代の夏に見た光景としては、スイスとイタリアの国境ブレンナー峠にはドイツナンバーのメルセデスにトレーラーをつけた車がぞろぞろ低速で走っていました。)K氏もドイツ人のイタリア好きは認めていました。
ついでですが、トレーラーをつけて移動、といったら「オランダ式だ」と言って笑っていました。ヨーロッパ人の好きな民族ネタ・国民性ネタです。オランダ繋がりで言えば日本の辞書には割り勘にする、を"go Dutch"と言う、と載っていたので僕も使っていました。フランス人やイギリス人には通じましたが、ドイツ人のK氏はその表現を知らなかったので、もしかするとこれは古い(もうあまり使われない)言い方なのかもしれません。それに、英語ではDutchでろくな意味になることがないので(かつては海外で覇権を競っていたライバル同士ですしね)、辞書には書いてないですが「割り勘にすべきでない状況で割り勘してしまう」という言外の悪い意味がありそうです。
そういう国民性ネタに接したときに、分かる限りで一緒に笑ってもいいんですが、日本人は適当な距離感をもつべきでしょうね。英国人やドイツ人になったつもりでオランダを馬鹿にしては変ですし、ましてアメリカ人にすり寄って名誉白人をめざすのももっと変です。あと、日本人はどうなんだと突っ込まれたときには、こうだと思う、と説明する努力義務くらいはあるかも。日本人はどうなんだ繋がりで(どんどん脱線する)、よく日本の伝統芸能のことを外国人に説明できないのが情けないと聞きます。しかしK氏もそれからTrierの50代の銀行マンF氏も、Trierのイベントでピアニストが弾いていた音楽がバッハのカンタータであることを知りませんでしたし、K氏は自分の彼女がバスク系なのに、作曲家のRavel(Boreloで有名)の母親がバスク人であることを知りませんでした(ちとこれは細かいか)。彼らも自分たちの伝統的な芸術を知らないわけで、僕が歌舞伎や能を知らないのと比べて、まあ一種のお互いさまでしょうか。
(2004年3月)
K氏(左)、F氏(中央)、筆者。Trier市にて
(このあとK氏とアップルワイン居酒屋へ)
